プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜

四季

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episode.17 戦いの調べ

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 ミクニはふっと笑みを浮かべ、盾と槍が合体したような武器を出現させた。

 はっきり視認はできないが、持つ部分は棒になっているようだ。その外側には、持ち手の腕を護るかのように、伸ばした腕と同程度の長さの鉄製のような灰色の盾がついている。そして、その上側には、突き刺せるような突起がある。ちなみに、その突起部分も灰色で、長さも腕一本分くらい。

 剣のプリンセスは一気に距離を詰め斬りかかる。
 金属同士が触れ合うような甲高い音が響く。

 プリンセスの剣技の鋭さに陰りは見えない。一つに束ねた炎のような髪をなびかせながら、プリンセスは攻め続ける。ミクニの武器も有能で攻守に使えるものだが、それでも、プリンセスの激しい連続攻撃の前では守りに徹するしかない。

 剣のプリンセスの援護をしたいところだが、残念ながらそれは無理そうだ。
 というのも、増援が現れたのである。
 現れたのは全身黒い敵。少し前に戦ったそれほど強くなかった敵と恐らく同じ種類だろう。だが数がかなり多い。先ほどまでとは比べ物にならないくらいの数。

「凄い出てきた……!」

 思わずそんなことを発してしまった。
 私の謎発言には構わず、ウィリーは杖を構える。

「ご安心を! お任せください!」
「すみません色々」
「いえいえ!」

 ウィリーは先ほどと同じ大量の葉っぱを飛ばす攻撃を繰り出す。
 葉っぱの数が多いこともあり攻撃できる範囲は広い。渦を巻くようにして飛び回る葉っぱは、見ているだけでも大迫力だし、多数の敵を次から次へと消してゆく。

 だがそんな葉っぱ飛ばし攻撃をかいくぐり接近してくる個体が現れた。

 ウィリーのことは無視し、私に向かって駆けてくる。

「あわわわ! スミマセン!」

 杖を掲げる彼がそんなことを言った時には、私と敵との距離はかなり縮んでいた。
 二歩分くらいしか距離がない。

 戦闘なんて経験したことがない私にはできることはないかもしれない。が、少しも抵抗せず殺されるのはさすがに嫌だ。何もできず死んだ、なんて、情けな過ぎる。

 それにこんなところで死にたくない。

「来ないでっ!」

 両腕を前方へ伸ばし、突き飛ばすような動きをする。
 深く考えての動作ではない。
 だが、驚いたことに、迫ってきていた一体は凄まじい勢いで後ろへ飛んでいった。

「え……?」

 突き飛ばすように両腕を軽く前へ伸ばしただけ。それなのに敵は後ろ向きに飛んでいった。それも結構な勢いで。そんなに力を加えてはいないはず、吹っ飛ぶなんておかしい。

 両手の手のひらを一瞥する。
 普段と違っている部分は特にない。

「何が起きたの……」
「凄いですね! フレイヤ様!」

 ウィリーも今の謎現象に気づいているようだ。ということは、私の気のせいではないのだろう。ほんの少しの間だけ夢をみていた、というわけでもなさそうだ。

「あの、私、一体何を」
「クイーンのお力ですよね!」
「……クイーンの」

 心当たりがまったくないわけではない。

『プリンセスプリンスになる利点として身体能力の向上もあるの。だったらクイーンにもあるんじゃないかなって。もしそうだとしても、おかしな話ではないでしょ?』

 その言葉を記憶している。
 それに、跳躍力が強化されていたことも、忘れたわけではない。

「クイーンの力って、跳躍力だけでなく攻撃力も上がるものなのですか?」
「す、すみません! 無責任なことを! 実はあまり詳しくなく……」
「あ、いえ、気にしないでください。こちらこそ色々踏み込んで聞いてしまってすみません」

 今はこんな話をしている場合ではない。
 剣のプリンセスはミクニとの接近戦を継続している。盾のプリンスは多くの敵の相手をしてくれているし、ウィリーも葉っぱを飛ばす技で戦ってくれている。
 安心感があることは確かだが、だからといって私だけのんびりしているわけにはいかない。
 攻撃力が強化されているなら私も戦えるかもしれない。強化というのがどの程度なのか把握しきれていないが、先ほどの感じだと、それほど強くない敵一体となら渡り合えそうな気がする。

「私も戦います!」
「フレイヤ様!?」

 絶対できる、その根拠はない。
 それでも少しは何かしたい。

「あまり強くない敵一体なら何とか」
「そ、そそそそそそんな! 森のプリンセス様に怒られてしまいます!」
「説明は後で私からします」

 そんなことを話しているうちに、ウィリーの横をすり抜けてきた敵がまた迫ってくる。

 殴ろうと振り抜かれる拳に、両手の手のひらを当てる!

 拳をぱいんっと弾くことができた。

 想定外だったのか敵はすぐに次の動きに入れない。進むでも退くでもなく、その場にとどまっている。動いていない今ならいける、そう考え、大きめの一歩を踏み出し両手で敵を突き飛ばす。するとやはり後方へ勢いよく飛んだ。吹き飛ばされた敵は、数メートル向こうにいた敵一体に激突。二体同時に消滅した。

 素人の判断ではあるが、この突き飛ばしはそこそこ使えそうだ。

 刹那。
 背後から悲鳴に似た声が飛んできた。

「剣のプリンセスさん!」

 思わず叫ぶ。
 というのも、剣のプリンセスが黒っぽい色の光線を浴びていたのだ。
 光線はどうやら上から降り注いだようだ。恐らくは、外で間一髪回避できたあの時と同じような光線だろう。降り注ぐ瞬間をちゃんとこの目で確かめたわけではないけれど。

「ふふ。甘いわねプリンセス。あたしが正々堂々と戦うだけだと思って?」

 全身真っ黒な敵を食い止めていた盾のプリンスが二人の方へ視線を向ける。

「ぐっ……」

 剣のプリンセスはその場で片膝を地面につく。

「これで終わりよ!」

 ミクニは鋭利な先端を持つ武器をプリンセスに向けて突き出す――が、突如出現した透明な盾が武器の先端を防いだ。

「なっ……!」

 顔面を強張らせるミクニ。

「触れさせはしない」

 透明な盾を出したのも盾のプリンスで間違いないようだ。

「盾のプリンス、か……」

 すぐには立ち上がれない剣のプリンセスだが、これには喜びの感情が芽生えたようで。明るい表情が浮かんだ面を上げ、盾のプリンスの方へ視線を向けて「ナイス!」と声を発する。日頃彼を見る時の不快そうな表情とはまったく違っている。

「あたしも頑張らなくちゃね!」

 そうしているうちに剣のプリンセスは元気を取り戻してきたようだ。
 ぎゅりと音を立て剣の柄を握り直す。

「剣に宿せ、鋭き力を!」

 立ち上がれた剣のプリンセスがそう叫ぶと、握る剣の刃部分に煌めきが宿る。
 ミクニは武器を構え警戒する。

「これで……終わらせる!」

 そう発してから、剣のプリンセスはミクニに突っ込んでいく。

 プリンセスは目にも留まらぬ速度で斬撃を繰り出す。ミクニは武器の盾のような部分で斬撃を防ぐが、威力を殺しきることはできない。プリンセスの何度目かの攻撃でミクニはバランスを崩した。ミクニはよろめくように三歩ほど後退する。

 ミクニの腹部に斬撃が入る。

「っ……!」

 上半身と下半身が離れる、とまではいなかったけれど。
 ミクニの腹部から赤いものが流れ出ている。

「はぁ!」

 剣のプリンセスはとどめの一撃を浴びせる。
 肩から腰にかけて入る斬撃、ミクニは気絶しその場で崩れ落ちた。

「よし! これで――」

 剣のプリンセスが言いかけた刹那、彼女の目の前に雷のようなものが落ちた。
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