43 / 141
episode.42 時間稼ぎをしつつ
しおりを挟む
ミクニから視線は逸らさない。なぜって、そんなことをしたら負けたみたいで嫌だから。それに失礼だろう、重要な話をしているというのに。重要な話をしている最中にやたらと目を逸らすような人が信じてもらえるとは思えない。
「ミクニさん、無駄な戦いは避けるべきです」
「まだ言うの? 呆れるわね。そんなことばかり言われたら逆にイライラしてきてしまうわ」
「なぜそんなにも戦いを望むのですか。何がそんな風に考えさせるのですか」
「……ったく! しつこいわね! いい加減にしてちょうだい!」
急に発する声の大きさを上げてきた。
さらに武器を取り出す。
「命乞いでも何でも好きにしていればいいわ。あたしはあたしの役目を果たす、それだけのことよ」
彼女の瞳には真剣さの色が浮かんでいる。
どうやら冗談や脅しというわけではなさそうだ。
鋭い先端を持つ武器を向けられる、それだけでも本能的に恐怖心が芽生える。背中にはいやに冷たい汗が吹き出し、全身の筋肉が硬直へ向かうような感覚がある。
「覚悟なさい!」
ミクニが突進してくる。
私は半ば無意識のうちに両方の手のひらを彼女の方へ向けていて――それによって一時的に張られたバリアのようなものが、突き出された武器の先端を弾く。
ひと突きでやられる最悪なパターンは避けられた。
しかしまだ終わりではない。
一撃目に続く攻撃が来る。
死んでたまるか! ――強く思いつつ、片足で地を蹴り右向きに跳ぶ。
きちんと計算せずに跳んだということもあり、宙に浮いた瞬間にバランスを崩し、転ぶように着地することとなる。身体を回転させるようにして衝撃を抑え、移動しながらの着地を成功させた。
ついてる。
いい感じで身体が動く。
「ち。ちょこまかと……」
苛立ちを露わにするミクニ。
怒りによる爆発力は恐ろしくもあるけれど、苛立ってくれればありがたいという面もある。何があっても冷静さを欠かさない相手とやり合うというのはある意味恐ろしくもあるから。苛立ってくれれば多少は雑さも生まれるというもの、それは対峙する側からすればありがたいことである。
だがどうすれば良いのだろうか。
いつまでも逃げ回っていてはどうしようもない。
こちらにある反撃手段というと限られてくる。手のひらを突き出すことで圧のようなものをかける攻撃は使えるけれど、そこそこ実力のあるミクニにそれだけで勝てるとは考えづらい。体術が使えるわけではないから跳躍も攻撃には役に立ちそうにはないし。
「戦うのはやめてください! 無意味です!」
ミクニはさらに突っ込んでくる。
意地でも戦いを続ける気のようだ。
「クイーンを仕留めれば今までの失敗も帳消しにできるわ。あたしのために死んでちょうだい」
「それはできません!」
私は取り敢えず攻撃をよける。クイーンになって手に入れたこの跳躍の力を利用して。小さな足の力で通常より長距離離れられるこの跳躍の力は、敵からの攻撃を回避するにあたっては凄く便利だ。
「貴女の力になりたくないから死ねないのではありませんが、私は死ねませんし、死にたくないんです!」
その時。
私のすぐそばでもミクニのすぐそばでもない位置に一筋の雷のようなものが落ちる。
ミクニの顔の筋肉がぴくりと動く。
そして私もまた緊迫感を覚えた――その雷に心当たりがあったから。
「ミクニよ、何をてこずっておる」
黒い炎のような影、それはかつて盾のキャッスルで見たことのある存在だ。盾のキャッスルを奪還する戦いの時に見かけた。確かあの時も、今回と似たような感じで、落雷と共に現れたと記憶している。もっとも、それ以上の詳しいことは何も知らないが。
「も、申し訳ありません! しかし、その……もうじき! 倒せます! ですからどうかお許しください、すぐに仕留めてみせます!」
もはや謎の群れだ。疑問点だらけである。だってそうだろう、次から次へとおかしなことが起きているのだから。その代表格が、なぜ敵がここへ入れているのかということ。こちらが運んできたミクニは特例だろうしまだ理解はできるけれども、炎のような影がここに入れているのはおかしいとしか言い様がない。
クイーンズキャッスルは襲われないというあの話は何だったのか。
「そのような無力な小娘相手にもたもたしているなど馬鹿としか言えぬ」
「で、ですから! すぐに仕留めますので!」
面に焦りの色を滲ませつつ言って、ミクニはこちらを睨んでくる。
「怒られたじゃない……絶対許さないから……!」
正直想定外だ。怒られたじゃないと怒られるなんていう可能性、考えていなかった。いや、そもそも、いい年した大人の女性がそんな理不尽なことを言ってくるなんて、普通は考えないだろう。
「すぐに消してあげるわ。……死になさい!!」
炎のような影は動き出さないし何もしない。私を倒そうとするミクニを少し離れたところから眺めているだけだ。
良いような、悪いような。
迫り来るミクニの武器、私は両手の手のひらをかざし弾く――が、続くひと振りでバリアのようなものが破壊されてしまう。私が咄嗟に張っただけの簡易バリアだ、強度はそれほど優れていないのだろう。
「終わりよ!」
響くミクニの鋭い声。
生命の危機を強く感じる。
こんなところで死ねない! と思った瞬間、無意識で両手を前方に突き出していた。
「なっ……」
ミクニの顔が強張る。
直後、彼女の身体が凄い勢いで後ろ向きに飛んでいった。
「え……」
私は思わずそんな声を漏らしてしまう。
何が起きたか分からなくて。
かつて突き飛ばしのような技が使えたことはあったが、ここまでの出力にできるとは……自分のことながら知らなかった。
「ミクニさん、無駄な戦いは避けるべきです」
「まだ言うの? 呆れるわね。そんなことばかり言われたら逆にイライラしてきてしまうわ」
「なぜそんなにも戦いを望むのですか。何がそんな風に考えさせるのですか」
「……ったく! しつこいわね! いい加減にしてちょうだい!」
急に発する声の大きさを上げてきた。
さらに武器を取り出す。
「命乞いでも何でも好きにしていればいいわ。あたしはあたしの役目を果たす、それだけのことよ」
彼女の瞳には真剣さの色が浮かんでいる。
どうやら冗談や脅しというわけではなさそうだ。
鋭い先端を持つ武器を向けられる、それだけでも本能的に恐怖心が芽生える。背中にはいやに冷たい汗が吹き出し、全身の筋肉が硬直へ向かうような感覚がある。
「覚悟なさい!」
ミクニが突進してくる。
私は半ば無意識のうちに両方の手のひらを彼女の方へ向けていて――それによって一時的に張られたバリアのようなものが、突き出された武器の先端を弾く。
ひと突きでやられる最悪なパターンは避けられた。
しかしまだ終わりではない。
一撃目に続く攻撃が来る。
死んでたまるか! ――強く思いつつ、片足で地を蹴り右向きに跳ぶ。
きちんと計算せずに跳んだということもあり、宙に浮いた瞬間にバランスを崩し、転ぶように着地することとなる。身体を回転させるようにして衝撃を抑え、移動しながらの着地を成功させた。
ついてる。
いい感じで身体が動く。
「ち。ちょこまかと……」
苛立ちを露わにするミクニ。
怒りによる爆発力は恐ろしくもあるけれど、苛立ってくれればありがたいという面もある。何があっても冷静さを欠かさない相手とやり合うというのはある意味恐ろしくもあるから。苛立ってくれれば多少は雑さも生まれるというもの、それは対峙する側からすればありがたいことである。
だがどうすれば良いのだろうか。
いつまでも逃げ回っていてはどうしようもない。
こちらにある反撃手段というと限られてくる。手のひらを突き出すことで圧のようなものをかける攻撃は使えるけれど、そこそこ実力のあるミクニにそれだけで勝てるとは考えづらい。体術が使えるわけではないから跳躍も攻撃には役に立ちそうにはないし。
「戦うのはやめてください! 無意味です!」
ミクニはさらに突っ込んでくる。
意地でも戦いを続ける気のようだ。
「クイーンを仕留めれば今までの失敗も帳消しにできるわ。あたしのために死んでちょうだい」
「それはできません!」
私は取り敢えず攻撃をよける。クイーンになって手に入れたこの跳躍の力を利用して。小さな足の力で通常より長距離離れられるこの跳躍の力は、敵からの攻撃を回避するにあたっては凄く便利だ。
「貴女の力になりたくないから死ねないのではありませんが、私は死ねませんし、死にたくないんです!」
その時。
私のすぐそばでもミクニのすぐそばでもない位置に一筋の雷のようなものが落ちる。
ミクニの顔の筋肉がぴくりと動く。
そして私もまた緊迫感を覚えた――その雷に心当たりがあったから。
「ミクニよ、何をてこずっておる」
黒い炎のような影、それはかつて盾のキャッスルで見たことのある存在だ。盾のキャッスルを奪還する戦いの時に見かけた。確かあの時も、今回と似たような感じで、落雷と共に現れたと記憶している。もっとも、それ以上の詳しいことは何も知らないが。
「も、申し訳ありません! しかし、その……もうじき! 倒せます! ですからどうかお許しください、すぐに仕留めてみせます!」
もはや謎の群れだ。疑問点だらけである。だってそうだろう、次から次へとおかしなことが起きているのだから。その代表格が、なぜ敵がここへ入れているのかということ。こちらが運んできたミクニは特例だろうしまだ理解はできるけれども、炎のような影がここに入れているのはおかしいとしか言い様がない。
クイーンズキャッスルは襲われないというあの話は何だったのか。
「そのような無力な小娘相手にもたもたしているなど馬鹿としか言えぬ」
「で、ですから! すぐに仕留めますので!」
面に焦りの色を滲ませつつ言って、ミクニはこちらを睨んでくる。
「怒られたじゃない……絶対許さないから……!」
正直想定外だ。怒られたじゃないと怒られるなんていう可能性、考えていなかった。いや、そもそも、いい年した大人の女性がそんな理不尽なことを言ってくるなんて、普通は考えないだろう。
「すぐに消してあげるわ。……死になさい!!」
炎のような影は動き出さないし何もしない。私を倒そうとするミクニを少し離れたところから眺めているだけだ。
良いような、悪いような。
迫り来るミクニの武器、私は両手の手のひらをかざし弾く――が、続くひと振りでバリアのようなものが破壊されてしまう。私が咄嗟に張っただけの簡易バリアだ、強度はそれほど優れていないのだろう。
「終わりよ!」
響くミクニの鋭い声。
生命の危機を強く感じる。
こんなところで死ねない! と思った瞬間、無意識で両手を前方に突き出していた。
「なっ……」
ミクニの顔が強張る。
直後、彼女の身体が凄い勢いで後ろ向きに飛んでいった。
「え……」
私は思わずそんな声を漏らしてしまう。
何が起きたか分からなくて。
かつて突き飛ばしのような技が使えたことはあったが、ここまでの出力にできるとは……自分のことながら知らなかった。
0
あなたにおすすめの小説
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
私の願いは貴方の幸せです
mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」
滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。
私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
【完結】貴方が幼馴染と依存し合っているのでそろそろ婚約破棄をしましょう。
紺
恋愛
「すまないシャロン、エマの元に行かなくてはならない」
いつだって幼馴染を優先する婚約者。二人の関係は共依存にも近いほど泥沼化しておりそれに毎度振り回されていた公爵令嬢のシャロン。そんな二人の関係を黙ってやり過ごしていたが、ついに堪忍袋の尾が切れて婚約破棄を目論む。
伯爵家の次男坊である彼は爵位を持たない、だから何としても公爵家に婿に来ようとしていたのは分かっていたが……
「流石に付き合い切れないわね、こんな茶番劇」
愛し合う者同士、どうぞ勝手にしてください。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
さようなら、私の愛したあなた。
希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。
ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。
「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」
ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。
ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。
「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」
凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。
なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。
「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」
こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる