プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜

四季

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episode.84 晴れやかで綺麗な空

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 ある昼下がり、一般人もいる部屋の中で物の整理をしていると急に通信が入った。相手は定かでないが何か用なのだろう、と思い、一旦退室して廊下へ出てから対応すると。

『どうも』

 盾のプリンスだった。

『急にすまない』
「無事だったのですか!?」

 どんなにその顔を見たかったか。
 望み続けていた彼の姿が視界に入る、こんなに嬉しいことはない。
 通信なのでパネル越しではあるけれど。でも、それでも、嬉しいことに変わりはない。少なくとも彼は生きている、それを知ることができただけでも大きな収穫と言えるだろう。

『基地のようなところへ連れていかれたが、脱出できた』

 何か違和感があるような気がしたが……少しして分かった、本来結ばれているはずの髪がほどかれていたのだ。
 いつもはすっきりまとまっている髪が垂れているから違和感があったようだ。

「良かった……。今はお一人ですか?」
『いや、愛のプリンセスもいる』

 聞いた瞬間「そうなんですか!?」と大きめの声が出てしまった。
 やらかしたかと思いつつ周囲を見てみるが特に人はいない。大丈夫そうだった。急に大声を出す怪しい人と思われたら困ってしまうところだった。

 と、その直後。

『フレレ!』

 直前まで盾のプリンスが映っていたパネルに愛のプリンセスの顔が現れた。
 紙を手にしている彼女は元気そうに見える。

『今どうしてますっ!? みんな無事ですかっ!?』

 いきなり凄まじい勢いで問いを放たれた。

「あ、はい。無事ですよ」
『生きてますーっ!?』
「はい、もちろん。人の世の避難所というところにいます」
『ふぉわあぁ……! 良かったでっすうぅ……!』

 そこへ、盾のプリンスが横入りしてくる。

『頼みがあるのだが』

 何か言いたそうだ。

「はい、何でしょう」
『森のプリンセスに頼んで迎えに来てほしい』
「もしかして、道に迷ったんですか?」

 すると彼は頷いた。

『通行人に尋ねたり地図を貰ったりしたのだが、避難所にたどり着けそうにない』

 まぁそうなってもおかしくはないか……。

「そうですね。では、森のプリンセスさんに頼んでみます」
『すまない、よろしく頼む』
「はい。発見できる距離であることを願います。では」

 通信はそこで一旦終わった。それから私は森のプリンセスを探し出す。近くにいるだろう、と思いつつ歩き回れば、比較的すぐに彼女を見つけることができた。
 で、盾のプリンスからの頼みについて説明する。
 森のプリンセスはまず彼から連絡があったことに驚いていた。が、「相変わらず情けないわねー」などと冗談を言いつつも彼らを捜索することを拒否はしなかった。

「じゃあ少し様子を見てくるわねー」
「すみません、よろしくお願いします」

 彼女は別れしな「良かったわね! フレイヤちゃん!」と笑みを向けてくれた。

 思えば、盾のプリンスが連れ去られてからというもの、彼女には心配させてばかりだった。涙が止まらなかったり。分かりやすく不安を抱えていたり。そんな情けない私を励ましてくれたのはいつだって森のプリンセスだった。

 迷惑ばかりかけてきたなぁ、と、自分でも思う。

「フレイヤ様!」

 背後から声をかけてきたのは荷物を運んでいるウィリー。

「どうかされましたか?」
「盾のプリンスさんのことで、森のプリンセスさんに頼みごとをしていたんです」
「おお! プリンス様はご無事でしたか!」

 それは良かった、と付け加えるウィリーの表情は、まるで真昼の太陽のようであった。
 着用しているのが燕尾服という点では動きづらそうなのだが、当の彼はというとそのようなことは一切気にしていないようで、何の躊躇いもなく箱やら袋やらを積極的に運んでいる。

「生きていらしたのですね」
「そうみたいです。何とか生きて合流できると良いのですが……」
「大丈夫ですよ!」

 想定外の明るい声。

「ここまでくればきっと上手くいくはずです!」

 彼は純粋な心で言葉を発しているようだった。
 邪な心がないことくらいは顔を見れば分かる。

「プリンス様がお戻りになったら思う存分仲良くなさってくださいね!」
「え」
「あ。じ、実は、プリンセス様から少しお話を聞きまして……」

 彼が言うプリンセス様とは森のプリンセスのことだろう。

「プリンス様の件でフレイヤ様は大層悲しまれているとお聞きしてですね……その……あの時プリンス様と一緒にいた身として、とても申し訳なく……」

 視線を左右に動かしながらうにうにするウィリー。

 しかしそれより気になる!
 頭から生えているものが気になって話が入ってこない!

「ウィリーさん、触角出てますよ」
「ぴゃうっ!?」

 ウィリーは不自然な声を出してびくっと身を震わせる。
 それから少しして、彼はようやく出てしまっていた触角をしまった。

「も、もも、申し訳ございません……」

 彼は何度もお辞儀して謝った。

「話は戻りますが、心配してくださっていたのですね。すみませんでした」
「いえ! プリンセス様の大切なお方はこのウィリーにとっても大切なお方ですので!」
「ありがとうございました」
「いえいえいえ! そんな! お礼など不要です!」

 もうじき彼に会える。

 いや、確かさはないけれど。

 でもその時はそう遠くない。

 今は前向き上向きな心で空を見上げることだって容易く――そうして目にした窓越しの空は、ここ最近の中で一番晴れやかで綺麗だった。
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