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episode.111 行く
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時のプリンスが言うには、彼以外にアオと森のプリンセスが来ているらしい。彼が二人からはぐれてしまった、ということなので、アオと森のプリンセスは共に行動しているのだろう――恐らく、だが。最強と言っても過言ではない森のプリンセスが一緒にいるなら問題なさそう、そんな気がする。
「私が帰れば、調査もその後も、もう必要なくなりますよね」
「……そうだろうな」
彼は相変わらずそっけない。だがそんなことに文句を言っている暇はない。そこまで暇ではない。まずはここから去ることを考えなくては。
「しかし」
時のプリンスは明るくはない室内で立ったままじっとしている。
「はい?」
「……とことんついておらぬわ、よりによって我が見つけてしまうとは」
「え、まずかったですか?」
「いや。……そうではない、が、厄介なことになった」
こういう時、どう返せばいいの?
よく分からないし難しい。
「取り敢えずアオさんたちと合流して……」
「行く気か?」
「ここで悩んでいても始まりません」
「……分かった、では行く」
時のプリンスは急に歩き出す。進行方向は扉の方。彼はすたすたと歩いて扉に近づくと、溝に手を入れ、扉を開ける一歩手前の動作をする。
「何をしておる」
「え……いや、本当に、行くんですね」
すぐにはついていけなかった。
ただ、私が『悩んでいても始まりません』などと言ったことは事実だ。
「お主が言ったのだ」
「……そうですね」
「何か問題か」
「いえ。あ、でも、もし足を引っ張ってしまったらすみません」
すると彼はぷいとそっぽを向いた。
「ふん」
そして扉を開ける――。
「お主が何かできるとは端から思っておらぬわ」
ここからはのんびりしてはいられない。
通路へ出る。床にはなぜか一本の蔓のようなものが落ちていた。それに足を取られてバランスを崩した私は危うく転倒するところだったが何とか片足で踏ん張ることができた。
ここでいきなり転倒はさすがに恥ずかしい。
何とか体勢を立て直すことができて良かった。
「アオらと合流する、か、このまま出口へ向かう、か」
時のプリンスは唐突にそんなことを言った。
意味が分からず思わず彼の顔を見てしまう――どことなく気まずかった。
「合流ですかね」
「……敢えて、無理して戦うこともないと思うが」
「え。では出口への選択肢を選びます?」
ひとまず脱出し後から連絡する、という方法も、ないわけではない、か。
「出口へ向かいつつアオさんを探します?」
「……それもありよな」
「はい。良いと思います」
彼と話すことには慣れてきたような慣れてきていないような不思議な感じだ。
「では」
時のプリンスは通路を歩き出す。
私はそれに同行することにした。
が、すぐに発見されてしまった。
「クイーンの脱走を確認! 確保してください!」
捕まえておきたいなら鍵をかけておけば良かったのに、などと思いつつも、今さら捕まる気はないのでここは逃げるに賭ける。
後ろからは私たちを発見した青髪女性が走って追いかけてくる――と、次は正面から青髪女性が現れた。
前後、挟まれた。
後方の女性が両手の指を伸ばし攻撃を仕掛けてくる。咄嗟に振り返り、思考するより早く両手のひらを前へ。クイーンの力ともいえる薄い膜のようなものを出し指先による攻撃を防いだ。が、膜は一度で割られ使えなくなってしまう。
その時、背後からぐしゃりと何かが潰れるような音がした。
音がした方へ視線をやる。
時のプリンスが棒で青髪女性を突き潰していた。
先ほどの音はその音だったみたい。
と、そこへ、私の正面にいた青髪女性が再び指を伸ばしてくる――が、今度は時のプリンスによって防がれた。
さらに彼は蹴りを加える。
女性の身体は勢いよく横の壁に当たりめり込んだ。
「……行く」
「は、はい」
時のプリンスは私を待ってはくれない。彼は彼のペースでずんずん進んでいってしまう。ぼんやりしていたら迷子になってしまいそうなので、懸命に彼のペースについていかなくてはならない。
早歩きしながらふと思う。
彼は青髪女性を倒すことに躊躇いはないのだろうか?
アオと同じ姿をした者を倒すこと。
嫌ではないのだろうか。
私なら――大切な人にそっくりな者と戦うのは難しいと思う。だって、嫌だ。大切な人にそっくりな人を傷つけたり倒したりするなんて。だから、たとえそれが本人でないと分かっていたとしても、それでもきっと迷ってしまう。
刹那、少し前を進んでいた時のプリンスが足を止めた。
目の前を塞ぐように青髪女性数名が立っていたのだった。
「撃て!」
複数いる女性の中の一人が叫んだ。
青髪女性らの手には黒い銃のようなもの。
その口から一斉に弾丸が放たれる。
弾丸は光っていた。物体らしき部分は見当たらない。宙を駆けるそれらは、小指の爪より小さな光の玉のように見える。
取り敢えず膜を張る。
だが弾丸は次々と迫ってきて、私が出した薄い膜くらい簡単に破られてしまう。膜は数秒で穴だらけになってしまった。
ただ、その時には既に時のプリンスが青髪女性らに突っ込んでいっていて。
力をもって彼女らの時を停止させ、相手が停止しているうちに蹴散らした。
「時のプリンス!」
目の前の女性らが片付いたタイミングで聞き慣れた声が飛んできた。
「良かった! 無事ですか!?」
「アオ」
彼の名を呼び駆け寄ってきたのはアオ本人であった。
アオはそのまま時のプリンスに飛びつく。
「良かったです! 生きていて! 心配しました!」
「心配なんぞ要らぬわ」
再会を喜ぶアオの後ろから歩いてきたのは森のプリンセス。
「フレイヤちゃん、無事みたいねー」
「あ! お久しぶりです」
彼女が歩くとヒールの音がする。
「見つけられて良かったわー」
「すみません……お手間を」
一度頭を下げておく。
「うふふ、いいのよー。それに、ね。蔓を使えば探るくらい簡単なのよねー」
「あ。もしかして、床に落ちていた蔓、森のプリンセスさんの?」
「そうよー。動きながら置いていっていたの。そうすれば、もしフレイヤちゃんがそれに触れた場合気づけるでしょう?」
森のプリンセスはふふと笑みを浮かべてから真剣な面持ちになり、低めの声で「さて、後は脱出するだけね」と呟く。
「これでもう帰りますか?」
「ええ」
「では! 案内は私にお任せを!」
「うふふ、ありがとうアオちゃんー」
これで四人揃った。
あとはここから出るだけ。
「私が帰れば、調査もその後も、もう必要なくなりますよね」
「……そうだろうな」
彼は相変わらずそっけない。だがそんなことに文句を言っている暇はない。そこまで暇ではない。まずはここから去ることを考えなくては。
「しかし」
時のプリンスは明るくはない室内で立ったままじっとしている。
「はい?」
「……とことんついておらぬわ、よりによって我が見つけてしまうとは」
「え、まずかったですか?」
「いや。……そうではない、が、厄介なことになった」
こういう時、どう返せばいいの?
よく分からないし難しい。
「取り敢えずアオさんたちと合流して……」
「行く気か?」
「ここで悩んでいても始まりません」
「……分かった、では行く」
時のプリンスは急に歩き出す。進行方向は扉の方。彼はすたすたと歩いて扉に近づくと、溝に手を入れ、扉を開ける一歩手前の動作をする。
「何をしておる」
「え……いや、本当に、行くんですね」
すぐにはついていけなかった。
ただ、私が『悩んでいても始まりません』などと言ったことは事実だ。
「お主が言ったのだ」
「……そうですね」
「何か問題か」
「いえ。あ、でも、もし足を引っ張ってしまったらすみません」
すると彼はぷいとそっぽを向いた。
「ふん」
そして扉を開ける――。
「お主が何かできるとは端から思っておらぬわ」
ここからはのんびりしてはいられない。
通路へ出る。床にはなぜか一本の蔓のようなものが落ちていた。それに足を取られてバランスを崩した私は危うく転倒するところだったが何とか片足で踏ん張ることができた。
ここでいきなり転倒はさすがに恥ずかしい。
何とか体勢を立て直すことができて良かった。
「アオらと合流する、か、このまま出口へ向かう、か」
時のプリンスは唐突にそんなことを言った。
意味が分からず思わず彼の顔を見てしまう――どことなく気まずかった。
「合流ですかね」
「……敢えて、無理して戦うこともないと思うが」
「え。では出口への選択肢を選びます?」
ひとまず脱出し後から連絡する、という方法も、ないわけではない、か。
「出口へ向かいつつアオさんを探します?」
「……それもありよな」
「はい。良いと思います」
彼と話すことには慣れてきたような慣れてきていないような不思議な感じだ。
「では」
時のプリンスは通路を歩き出す。
私はそれに同行することにした。
が、すぐに発見されてしまった。
「クイーンの脱走を確認! 確保してください!」
捕まえておきたいなら鍵をかけておけば良かったのに、などと思いつつも、今さら捕まる気はないのでここは逃げるに賭ける。
後ろからは私たちを発見した青髪女性が走って追いかけてくる――と、次は正面から青髪女性が現れた。
前後、挟まれた。
後方の女性が両手の指を伸ばし攻撃を仕掛けてくる。咄嗟に振り返り、思考するより早く両手のひらを前へ。クイーンの力ともいえる薄い膜のようなものを出し指先による攻撃を防いだ。が、膜は一度で割られ使えなくなってしまう。
その時、背後からぐしゃりと何かが潰れるような音がした。
音がした方へ視線をやる。
時のプリンスが棒で青髪女性を突き潰していた。
先ほどの音はその音だったみたい。
と、そこへ、私の正面にいた青髪女性が再び指を伸ばしてくる――が、今度は時のプリンスによって防がれた。
さらに彼は蹴りを加える。
女性の身体は勢いよく横の壁に当たりめり込んだ。
「……行く」
「は、はい」
時のプリンスは私を待ってはくれない。彼は彼のペースでずんずん進んでいってしまう。ぼんやりしていたら迷子になってしまいそうなので、懸命に彼のペースについていかなくてはならない。
早歩きしながらふと思う。
彼は青髪女性を倒すことに躊躇いはないのだろうか?
アオと同じ姿をした者を倒すこと。
嫌ではないのだろうか。
私なら――大切な人にそっくりな者と戦うのは難しいと思う。だって、嫌だ。大切な人にそっくりな人を傷つけたり倒したりするなんて。だから、たとえそれが本人でないと分かっていたとしても、それでもきっと迷ってしまう。
刹那、少し前を進んでいた時のプリンスが足を止めた。
目の前を塞ぐように青髪女性数名が立っていたのだった。
「撃て!」
複数いる女性の中の一人が叫んだ。
青髪女性らの手には黒い銃のようなもの。
その口から一斉に弾丸が放たれる。
弾丸は光っていた。物体らしき部分は見当たらない。宙を駆けるそれらは、小指の爪より小さな光の玉のように見える。
取り敢えず膜を張る。
だが弾丸は次々と迫ってきて、私が出した薄い膜くらい簡単に破られてしまう。膜は数秒で穴だらけになってしまった。
ただ、その時には既に時のプリンスが青髪女性らに突っ込んでいっていて。
力をもって彼女らの時を停止させ、相手が停止しているうちに蹴散らした。
「時のプリンス!」
目の前の女性らが片付いたタイミングで聞き慣れた声が飛んできた。
「良かった! 無事ですか!?」
「アオ」
彼の名を呼び駆け寄ってきたのはアオ本人であった。
アオはそのまま時のプリンスに飛びつく。
「良かったです! 生きていて! 心配しました!」
「心配なんぞ要らぬわ」
再会を喜ぶアオの後ろから歩いてきたのは森のプリンセス。
「フレイヤちゃん、無事みたいねー」
「あ! お久しぶりです」
彼女が歩くとヒールの音がする。
「見つけられて良かったわー」
「すみません……お手間を」
一度頭を下げておく。
「うふふ、いいのよー。それに、ね。蔓を使えば探るくらい簡単なのよねー」
「あ。もしかして、床に落ちていた蔓、森のプリンセスさんの?」
「そうよー。動きながら置いていっていたの。そうすれば、もしフレイヤちゃんがそれに触れた場合気づけるでしょう?」
森のプリンセスはふふと笑みを浮かべてから真剣な面持ちになり、低めの声で「さて、後は脱出するだけね」と呟く。
「これでもう帰りますか?」
「ええ」
「では! 案内は私にお任せを!」
「うふふ、ありがとうアオちゃんー」
これで四人揃った。
あとはここから出るだけ。
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