プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜

四季

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episode.114 時にぶつかり合うことはあり

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『クイーン、時のプリンセスに関する記載についてだが』

 盾のプリンスは案外早くまた連絡してきた。
 アオはまだここにいる。
 それにしても驚いた、もう何か見つけたのだろうか。だとしたら凄まじい仕事の早さだ。まるで私にそれを頼まれる未来を知っていて前もって備えていたかのような早さである。

『簡単に見てみたところ、数ヵ所、時のプリンセスに関する記載があった』
「本当ですか!」

 アオと共に盾のプリンスが映るパネルへ視線を集中させる。

『時期としては先代クイーンが亡くなった直後からしばらくだ』

 盾のプリンスは淡々とした調子で言葉を紡いでいく。

『どうやら、時を巻き戻すことができないかを相談に行っていたようだ。だが急に何も書かれなくなっている。ただ、時のプリンセスが亡くなったのであればそう書くだろうと思われるが何も書かれていないので、死は関係ないものと思われる』

 それ以上の情報はない、と彼は言った。

「情報ありがとうございました」

 アオは軽く頭を下げて礼を述べていた。
 私からも言っておかなくては。

「盾のプリンスさん、急にすみませんでした。お世話になりました」
『あまり情報がなくすまない』
「いえ、助かりました。小さな情報でも情報ですから」
『少しは役に立てていれば嬉しいのだが……』
「もちろん役に立っています。ありがとうございます」

 すると彼は表情を少しだけ明るくする。

『そう言ってもらえると嬉しい』

 一般的な物差しで見れば僅か過ぎるとも受け取られる程度の表情の変化だ。けれども彼の場合はそれが普通、目の色の僅かな変化や口角の筋肉のちょっとした緩みくらいしか変化がないことも多いのだ。彼はそんなものだし、元々そんな感じなので、今さら文句を言うほどのことはない。

 誰も言葉を発しなくなったちょうどそのタイミングでアオが口を開く。

「今日はありがとうございましたフレイヤちゃんさん」
「あまり協力できずすみません」
「詳しいことは……もう一度、改めて、時のプリンスに聞いてみます」

 アオはそう言っていた。

 彼女が知りたいと望むのだ、時のプリンスもいつかはきっと話すだろう――嫌がらせなどではなく、ただ話す気になれないだけだろうから。

 アオに知りたいことを知れる日が来ることを願う。


 ◆


「ただいま戻りました」

 クイーンズキャッスルへ出掛けていたアオは時のキャッスルへと戻った。

 時のプリンスは座に腰を下ろしティーカップを傾けている。
 これはもはや彼のルーティーンのようなもの。
 彼がティーカップを傾け優雅に茶を飲んでいる光景というのは、毎日のように――数時間に一度と言っても間違いではないほど、頻繁に見かけるものだ。
 当然、何もなく平和だった場合のみ、だが。

「戻ったかアオ」
「はい」
「案外早い帰りだったな」
「フレイヤちゃんさんとお話できました」

 アオは真っ直ぐに歩き彼がいる方へ進んでいく。直線を描くように近づかれた時のプリンスは怪訝な顔をした。彼は少し躊躇った後に何か言おうと口を開けかけたが、それより先にアオが言葉を発することとなる。

「時のプリンス、聞かせてください」

 数秒の間を空け、続ける。

「先代の、時のプリンセスの、最期」
「またそれか」

 真剣な面持ちでこくりと頷くアオ。
 だが時のプリンスは相手にしない。

「いい加減同じことを聞くな」
「しかし、どうしても確認したく――」
「アオ!!」

 突如大きな声を出され、アオはびくっと身を震わせた。

「いい加減にせよ! 興味本位でそのようなことを聞くな!」

 時のプリンスは座から立ち上がると、先ほどとは逆に、アオに迫っていく。彼の方が背が高いため、必然的にアオに上からの圧がかかることとなる。その圧に勝てなかったアオは、視線は何とか持ち上げながらも、顔を恐怖に染める。青い瞳までも恐怖に濡れていた。

「……っ」

 時のプリンスはその時になってアオの瞳に恐怖の色が滲んでいることに気づく。

「……すまぬ」

 彼はそれ以上圧をかけようとはしなかった。
 乱れた心を抑えるようにくるりと身体の向きを反転させた。

「だが理解できぬ。なぜそこまで詮索するのか。……なぜゆえそのようなことが聞きたいのか」

 時のプリンスは再び座に腰を下ろした。

「……違う」
「何?」
「興味本位とか……そんなのじゃ……そんなのじゃないです!!」

 震えていたアオは急に大きな声を発した。

「決めつけて酷い!」
「ま、待て、落ち着け」

 急に感情的になるアオを前にしてどうすればよいのか分からず狼狽える時のプリンス。

「興味本位ではありません! 私は貴方のことが心配で、それで……前例を知れば今後の参考になるかと思って……歴史は繰り返すと言います、だから……だから、少しでも知ることができれば、何か対処法を見つけられるかと……真面目に聞いていたのに……そんな、そんな言い方……」

 アオはその場でかくんと膝を折った。
 ふわと脱力し座り込んでしまう。
 感情が昂ってしまったアオは悲しさやら何やらが渦巻くことに耐え切れず呼吸まで乱れている。
 時のプリンスは暫し無言を貫いていた。が、少ししても立ち上がらないアオを目にしてさすがに気まずさを感じたのか、座から立ち上がってへたり込むアオに近づく。

「落ち着けアオ」

 彼女の背に触れようとする――が、手を払われる。

「……もう聞きませんから」

 アオは俯いたまま。

「……すみません、少し、一人になりたいです」

 これ以上近づくな、とでも言うかのような言葉を発するアオ。
 そう言われてしまっては時のプリンスもさすがにそれ以上近寄れない。

「そうか、なら好きにせよ」

 彼はそれだけ言って立ち上がる。

 ただ、彼女から離れる一瞬前に、小声で「落ち着いたら言え、すべて話そう」とだけ付け加えた。
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