なんだかんだで成功、なのか?

四季

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前編

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 大人しい女性ネイベリルは、珍しく、夫であるラベスの部屋にやって来ていた。

「すみません、いきなり……」

 ネイベリルは両肩を縮めている。
 元々華奢な身体をしているのだが、肩を内に寄せていると、より一層華奢に見える。

「いえ。来ていただけて嬉しいです」

 ラベスはそう言ってぎこちない笑みを浮かべる。

 彼もまた緊張しているのだ。というのも、ネイベリルが部屋へやって来るのはかなり珍しいことなのである。これまではずっと散歩に誘っても断られるくらいで、奥手なネイベリルとの関係にはなかなか進展がなかった。だからこその、この緊張である。

 ラベスの自室の入り口付近にて、二人は向かい合う。

「少し……ここにいても構いませんか?」
「もちろん」

 ネイベリルが自ら来てくれたことを嬉しく思いつつも、ラベスは素直に喜びきれない。否、一応喜んではいるのだ。ただ、それを表情や言葉選びに反映させることが難しいのである。かなり緊張しているということもあって、感情を上手く露わにすることができない。

「こちらの椅子を使ってください」
「あ……はい。ありがとうございます……」

 ネイベリルは促されるままにテーブル近くの椅子に腰を下ろした。

 そんな彼女の視界に入ったのは、一冊の本。
 表紙には透明な硝子で造られた女性の像を連想させるイラスト。カラー印刷だが色数は多くなく、大人びて落ち着いた印象。しかしながら、女体の凹凸とラインがしっかりと描かれていて、心なしか恥ずかしくなるような雰囲気はある。

「あの、ラベスさん、これって……!」
「……あ」
「この本、知っています! これって確か、『悶える女体~硝子製の彼女、艶出し処置し放題~』という、アレですよね……!?」

 その本というのは、ややアダルト路線のイラスト本である。

 いつもは片付けているのだがうっかり片付け忘れていたラベスは気まずそうな顔をする。が、ネイベリルは気づいていないようだ。不快感を示すどころか、むしろ瞳を輝かせている。
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