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8話「心は粉々になって」
しおりを挟むベルヴィオはエルフィに会えないことで苛立ちを募らせていく。
そしてその言動は日に日に過激になっていった。
見張りの者を人と思わないような言葉を投げつけることもあったくらいだ。
「ここから出せ!」
「できません」
そんなやり取りはもう百回以上繰り返されたことだろう。
ベルヴィオはどうしても部屋から出たい。
見張りは王の命令ゆえ何があろうとも部屋から出せない。
二つの立場と意思がぶつかり合う。
どちらも退かない、どちらも諦めて折れはしない、それゆえ同じようなやり取りばかりが繰り返されてしまう。
生産性のないことと分かっていても、お互い、どうして譲ることはできないのである。
「ふざけるな! 王子である俺を閉じ込めるなど、誰の命令であろうとも許されたことではないっ。早く扉を開けろ!」
「それ以上暴れるのであれば薬を打つことになりますよ」
「何だと!? 薬!? この俺を脅すのか! 愚かなやつ! 王子だぞ、王子にそんなことをしてみろすぐに死刑になる!」
「その辺りも許可を得ていますので」
「馬鹿が! ふざけるな! 舐めるな舐めるな、馬鹿にしやがって……見てろよ! 国王になったら、お前ら全員、絶対死刑だからな!! 死なせてやるからな!!」
――それから数ヶ月が経って。
ベルヴィオはついに悪行に手を染めてしまった。
見張りを殺め、無理矢理部屋から出たのである。
彼の頭はエルフィに会うことでいっぱいだったのだが、その前に一つ、と欲を出して。苛立ちの対象である父親をも殺めようと考えた。
で、本当に殺してしまった。
父親で国王である人物の寝所に入り込み、その手で彼を殺めた。
そうしてベルヴィオは城を出てエルフィを探し始める。
――きっと待ってくれているはず。
ベルヴィオは純粋にそう信じていた。
エルフィは自分に会いたがって泣いているはず、そう思い込んでいた。
だが。
「ね~ぇ、おじさぁ~ん、今度ブランドバッグ欲しいのぉ~」
「可愛いエルフィちゃんになら何だって買うよ」
エルフィはもうベルヴィオのことなど忘れていた。
彼女が見ていたのは次の目標。
利用できる男。
「わぁ~い! やったぁ~! 嬉しいっ、四つ買ってねぇ」
「もちろんだよ、欲しいやつ全部言って? それまとめて買うから」
「ええ~いいのぉ? 破産しちゃやだよぉ?」
ベルヴィオが声をかけても「何ですかぁ? 今さら」と言われ、さらには「昔知り合いだった人ぉ、侍女時代にぃ」と隣の男にも紹介されてしまう。
それによってベルヴィオの心は粉々になってしまった。
「エルフィ……お前……許さない、許さ、ない……許さない!!」
もう理性などない。
「裏切り者おおおおおぉぉぉぉぉ!!」
彼は手にしていた刃物でエルフィを刺し貫いた。
息の根を止めてもなお、何度も。
「俺はずっと愛してたんだ! お前を! なのにお前は他の男に手を出した! 許さない許さない許さない……絶対に、絶対にぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
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