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心ないやり方で婚約破棄宣言をされ、裏山で一人泣いていた私。意外な出会いから明るい未来を手に入れることができました。
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「泣いてるの?」
心ないやり方で婚約破棄宣言をされ、裏山で一人泣いていた私。
その前に現れたのは一人の青年だった。
まだ少しあどけなさの残る顔つきが印象的な人である。
「え……」
「あ、ごめんね急に。気持ち悪いよね、知らない人から声かけられたら」
燃えるような紅の瞳をした彼は少し気まずそうに笑う。
「い……いえ」
「泣いていたから、放っておけなくて」
「す、すみません……ご迷惑を……」
「いやいやいいんだ気にしないで。ただ、ちょっと提案があって。もし辛いことがったのなら――僕でよければ、話聞くよ?」
初対面の人に個人的な話をするなんておかしなことかもしれない。それも異性に。自ら個人情報を明かすような行為、本来不自然なのかもしれない。でもその時の私は、心が痛んでいたから、だからこそ誰かに話したい吐き出したいというような思いを抱えていて。
「……お話ししても、大丈夫でしょうか」
だから彼の提案に乗る道を選んだのだ。
「うん!」
こうして、私は、闇夜から現れたツィールと名乗る彼に話を聞いてもらうこととなったのだった。
◆
「――それは酷いね」
ツィールは思っていたより真剣に話を聞いてくれた。
まだ朝は来ない。
けれども少しだけ胸の痛みが軽くなった気がする。
もちろん傷が完全に癒えることはないのだけれど。
「女性に対してそんなことを言うなんて、酷いよね」
ただ、彼の言葉は一つ一つがとても優しくて、思いやりに満ちている。
闇に染まった心に光を捧げてくれているかのようだ。
「私にも非はあったかもしれないですけど……分かっては、いるんですけど……だとしても辛いです……」
「非があるなんて言うことはないよ!」
「えっ」
「君は優しいからそう思っている――いや、思わされている、だけだよ!」
「え、いや、でも……」
「君は悪くないから! 絶対! 相手が理不尽なことを言っているだけだよ」
彼に出会えてよかった。
その日私は心からそう思った。
「今日はありがとうございました……聞いていただけて、少し、前向きになれたような気がします」
「良かった!」
「初対面なのに真面目に聞いていただき、感謝しています」
「いやいや、聞こうと思ったのはこっちだから。いいんだよ。気にしないでね。じゃあね!」
別れしな、彼のくちが「またね」と動いた気がした。
気のせいかもしれないけれど……。
◆
あの後ツィールはまた私の前に現れた。
住んでいる家、実家の、その隣の空き家へ引っ越してきたのである。
それから私たちは定期的に会って話をするようになった。
仲良くなることに時間は要らず。
私たちはみるみるうちに心を奪われ合った。
それから色々あったけれど話は順調に進み、やがて私たちは結婚、正式な夫婦になった。
今もツィールは私に思いやりを持って接してくれている。
彼と一緒にいられるだけで幸せ。
だって心癒されるから。
ああ、そうだ、そういえば。
かつて私を傷つけた元婚約者の彼だけれど、あの後医師であった父親が医療事故を連発して国から罰を受けそれによって息子である彼にまで悪い評判がついてしまったそうで、世の女性たちからまったくもって相手にされないような立ち位置になってしまったそうだ。
彼は結婚相手を全力で探していたようだけれど。
まったくもって良い相手は見つからず。
それによって彼は段々心を病み、今では人と話すことも恐れるような精神状態になってしまっているそうだ。
◆終わり◆
心ないやり方で婚約破棄宣言をされ、裏山で一人泣いていた私。
その前に現れたのは一人の青年だった。
まだ少しあどけなさの残る顔つきが印象的な人である。
「え……」
「あ、ごめんね急に。気持ち悪いよね、知らない人から声かけられたら」
燃えるような紅の瞳をした彼は少し気まずそうに笑う。
「い……いえ」
「泣いていたから、放っておけなくて」
「す、すみません……ご迷惑を……」
「いやいやいいんだ気にしないで。ただ、ちょっと提案があって。もし辛いことがったのなら――僕でよければ、話聞くよ?」
初対面の人に個人的な話をするなんておかしなことかもしれない。それも異性に。自ら個人情報を明かすような行為、本来不自然なのかもしれない。でもその時の私は、心が痛んでいたから、だからこそ誰かに話したい吐き出したいというような思いを抱えていて。
「……お話ししても、大丈夫でしょうか」
だから彼の提案に乗る道を選んだのだ。
「うん!」
こうして、私は、闇夜から現れたツィールと名乗る彼に話を聞いてもらうこととなったのだった。
◆
「――それは酷いね」
ツィールは思っていたより真剣に話を聞いてくれた。
まだ朝は来ない。
けれども少しだけ胸の痛みが軽くなった気がする。
もちろん傷が完全に癒えることはないのだけれど。
「女性に対してそんなことを言うなんて、酷いよね」
ただ、彼の言葉は一つ一つがとても優しくて、思いやりに満ちている。
闇に染まった心に光を捧げてくれているかのようだ。
「私にも非はあったかもしれないですけど……分かっては、いるんですけど……だとしても辛いです……」
「非があるなんて言うことはないよ!」
「えっ」
「君は優しいからそう思っている――いや、思わされている、だけだよ!」
「え、いや、でも……」
「君は悪くないから! 絶対! 相手が理不尽なことを言っているだけだよ」
彼に出会えてよかった。
その日私は心からそう思った。
「今日はありがとうございました……聞いていただけて、少し、前向きになれたような気がします」
「良かった!」
「初対面なのに真面目に聞いていただき、感謝しています」
「いやいや、聞こうと思ったのはこっちだから。いいんだよ。気にしないでね。じゃあね!」
別れしな、彼のくちが「またね」と動いた気がした。
気のせいかもしれないけれど……。
◆
あの後ツィールはまた私の前に現れた。
住んでいる家、実家の、その隣の空き家へ引っ越してきたのである。
それから私たちは定期的に会って話をするようになった。
仲良くなることに時間は要らず。
私たちはみるみるうちに心を奪われ合った。
それから色々あったけれど話は順調に進み、やがて私たちは結婚、正式な夫婦になった。
今もツィールは私に思いやりを持って接してくれている。
彼と一緒にいられるだけで幸せ。
だって心癒されるから。
ああ、そうだ、そういえば。
かつて私を傷つけた元婚約者の彼だけれど、あの後医師であった父親が医療事故を連発して国から罰を受けそれによって息子である彼にまで悪い評判がついてしまったそうで、世の女性たちからまったくもって相手にされないような立ち位置になってしまったそうだ。
彼は結婚相手を全力で探していたようだけれど。
まったくもって良い相手は見つからず。
それによって彼は段々心を病み、今では人と話すことも恐れるような精神状態になってしまっているそうだ。
◆終わり◆
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