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婚約者だった彼は私を捨てて他の女のところへ行ってしまいましたが、その後の話を聞くと離れていて良かったなと思いました。(前編)
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ある春の晴れの日、婚約者オーネウスが突然家へやって来た。
「おはよう」
「え、オーネウスさん?」
あまりにも突然の訪問で驚いた。
これまでこんなことは一度もなかったからなおさら。
「今日は用があって来たんだ」
「用? ですか? はい、何でしょうか」
オーネウスはわりとあっさりした人だ。それゆえ婚約者に対してもそこそこ冷ためな対応をしてくる人であった。傷つけてくるようなことはないけれど。ただ、私と一緒にいる時、彼はいつもクールであった。表情も言動も声色もすべて。そこに明るい光はなかったし、また、嬉しそうといったような前向きな感情もなかった。
あくまで淡々としているのがオーネウスである。
「急にすまなかったな、伝えたいことがあって」
「そうでしたか。それで、伝えたいこととは何でしょうか? 早速どうぞ」
すると彼はぴんと背筋を伸ばして。
「君との婚約だが、破棄とすることにした」
落ち着いた面持ちでそんなことを告げてきた。
穏やかな日射しの中を芽吹きの季節を想わせる風がゆるりと通り抜けてゆく。
静寂があった。
得体のしれない間が。
「婚約破棄……?」
やがて、思わず呟いて。
「ああ、そうだ」
明確に頷かれてしまった。
「急ですが、一体どういう……?」
「実は俺には女がもう一人いたのだが」
さらりと明かされる衝撃の事実。
「えっ」
情けない短い声しか出せない。
「彼女にめでたいことがあってな。それで、彼女と結婚したいと本格的に思うようになったのだ。君には悪いが、俺は彼女を選ぶことにした――で、婚約破棄のために動き出したということだ」
「え、あの……それって……、えっとつまり、浮気していてそうなってしまったために引き返せなくなってしまった、ということ、では……?」
するとオーネウスはきっと睨み「愛だ!」と鋭く言葉を投げてくる。
「仕方なく、とかじゃない!」
「でも……実際それに近い感じですよね……?」
「だとしてもそうじゃない! 俺は彼女を想っていて、だからこそ彼女を選ぼうと決心したのだ」
「けれども事実としてみるとそういうことですよね」
「うるさい! どこまで俺を馬鹿にするんだ! ……ったく、君がここまで性格ブスだとは思わなかったぞ」
事実を言われて怒り出すなんて、かっこ悪い。
「ま、いずれにせよ君とはおしまいだ」
「そうですか」
「ではな、さよなら」
こうして私は一方的に捨てられてしまったのだった。
ただ、私はただで消えはしなかった。理不尽なことをされたのにそのまま大人しくすべてを諦める、なんていうのは無理なこと。だから私は婚約破棄される時になって動き出した。
両親やその知り合いの力を借り、オーネウスから慰謝料を取ることに成功。
これに関しては、オーネウスの浮気相手に生命が宿っていたことが大きな援助となってくれた。
そういう意味では、浮気相手に生命が宿っていて良かったのかもしれない。
もし二人が中途半端な関係どまりであったとしたら――恐らく慰謝料を取るところまでやるのは難しかっただろう。
「おはよう」
「え、オーネウスさん?」
あまりにも突然の訪問で驚いた。
これまでこんなことは一度もなかったからなおさら。
「今日は用があって来たんだ」
「用? ですか? はい、何でしょうか」
オーネウスはわりとあっさりした人だ。それゆえ婚約者に対してもそこそこ冷ためな対応をしてくる人であった。傷つけてくるようなことはないけれど。ただ、私と一緒にいる時、彼はいつもクールであった。表情も言動も声色もすべて。そこに明るい光はなかったし、また、嬉しそうといったような前向きな感情もなかった。
あくまで淡々としているのがオーネウスである。
「急にすまなかったな、伝えたいことがあって」
「そうでしたか。それで、伝えたいこととは何でしょうか? 早速どうぞ」
すると彼はぴんと背筋を伸ばして。
「君との婚約だが、破棄とすることにした」
落ち着いた面持ちでそんなことを告げてきた。
穏やかな日射しの中を芽吹きの季節を想わせる風がゆるりと通り抜けてゆく。
静寂があった。
得体のしれない間が。
「婚約破棄……?」
やがて、思わず呟いて。
「ああ、そうだ」
明確に頷かれてしまった。
「急ですが、一体どういう……?」
「実は俺には女がもう一人いたのだが」
さらりと明かされる衝撃の事実。
「えっ」
情けない短い声しか出せない。
「彼女にめでたいことがあってな。それで、彼女と結婚したいと本格的に思うようになったのだ。君には悪いが、俺は彼女を選ぶことにした――で、婚約破棄のために動き出したということだ」
「え、あの……それって……、えっとつまり、浮気していてそうなってしまったために引き返せなくなってしまった、ということ、では……?」
するとオーネウスはきっと睨み「愛だ!」と鋭く言葉を投げてくる。
「仕方なく、とかじゃない!」
「でも……実際それに近い感じですよね……?」
「だとしてもそうじゃない! 俺は彼女を想っていて、だからこそ彼女を選ぼうと決心したのだ」
「けれども事実としてみるとそういうことですよね」
「うるさい! どこまで俺を馬鹿にするんだ! ……ったく、君がここまで性格ブスだとは思わなかったぞ」
事実を言われて怒り出すなんて、かっこ悪い。
「ま、いずれにせよ君とはおしまいだ」
「そうですか」
「ではな、さよなら」
こうして私は一方的に捨てられてしまったのだった。
ただ、私はただで消えはしなかった。理不尽なことをされたのにそのまま大人しくすべてを諦める、なんていうのは無理なこと。だから私は婚約破棄される時になって動き出した。
両親やその知り合いの力を借り、オーネウスから慰謝料を取ることに成功。
これに関しては、オーネウスの浮気相手に生命が宿っていたことが大きな援助となってくれた。
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もし二人が中途半端な関係どまりであったとしたら――恐らく慰謝料を取るところまでやるのは難しかっただろう。
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