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前編
しおりを挟む山登りが趣味だった。
親もそれが好きだったからその影響を受けて育ったのだ。
けれどもこの国ではまだまだ山登りは男性のものというイメージが強く、そのため、女性で山登りをしていると言うと驚かれるし時に良くない印象を抱かれてしまうこともある。
だからそれは周囲の人たちと共有できる趣味ではなかった。
ひっそりと行い楽しむしか方法はなく。
何なら男性の前ではなるべく隠さなくてはならないくらいだった。
そんな事情もあり、婚約者レイゾンにもその趣味のことは隠していた。いや、必死になって隠していた、というわけではないのだが。なるべく言わないようにしていた。山に登っている女という印象が強く残らないように、彼の前でその話をすることは控えていたのだ。
でもいつしかばれてしまって。
「君は山登りが趣味だそうだな」
「どうして知って……」
「隠していたのか?」
「そうですね……あまり良く思われなくかと思って、言いませんでした」
「なんと無礼な! 夫となる者に隠し事をしているなど話にならん! ……もういい、婚約は破棄だッ!!」
しまいには切り捨てられてしまった。
「山登りをする女なんぞ我が家に入れたら我が家の恥! 悪いが君とは絶対に無理だ!」
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