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前編
しおりを挟む「君みたいな魔力を持っている女とは共に生きていくことなんてできない。よって! 婚約は破棄とする!」
その日、晩餐会にて、婚約者エリシサから急にそんなことを宣言されてしまった。
周囲から引かれつつも笑われているのが分かる。
気の毒に思われつつもどこか馬鹿にされているのだ。
でも、周囲が悪いわけではない。
こんなところでエリシサがいきなり婚約破棄なんて言い出すからこんなことになるのだ。
「そんな……急ですね、どうして」
「我が母が言っているんだ『魔女を家に入れるなんて恐ろしい、絶対にやめろ』と」
母親のせいか……。
いい年して……。
「母は僕が君のような魔女と結ばれることを不安視している。よって、婚約は破棄とすることにしたのだ。偉大な我が母を不安にさせるようなこと、僕にはできない。なんせ、僕は親孝行な男だからね」
親孝行、とか、自分で言うものか?
だが、私が魔力を持っていることは事実だし、生まれつきあったそれをなかったことにすることはできない。そして、彼の母親がその点を嫌がっているのなら、彼女が私に理解を示す日はきっと来ないだろう。
「ま、そういうことだから。婚約はもう破棄、これで僕と君は無関係だ」
「承知しました。では……私はこれで失礼いたします」
これは仕方のない展開だったのだ。
良い方向へ話が進むことはない、そう思って諦めよう。
「可哀想にねぇ~、こんなところで」
「まぁでも魔女なんて無理よね」
「ほーんとないわぁ。よく魔女と一旦でも婚約なんてしたものよね」
そんなひそひそ話が聞こえたけれど、聞かなかったことにした。
いちいち真面目に聞いていては心がすぐに折れてしまいそうだから。
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