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3話

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 リリエがはまった落とし穴は実は婚約者が掘ったものだった。
 後から婚約者の彼が出てきて、はまった彼女を見て笑っていた。

 ——助けようとは一切しなかった。

 しかしリリエは怒るでもなく悲しむでもなかった。

 彼女は柔らかな表情のまま。
 自力で穴から出てくる。

「ぷっぷ、ぶはははははは!」

 笑う婚約者に気づくことはなく、リリエはそのまま帰路についた。


 ◆


 婚約破棄から数年が経った。
 リリエは今も実家でのんびりと暮らしている。

「ねぇお兄様、このお茶とっても美味しいのね」
「気に入ってくれたみたいだね」
「えぇ! お兄様が淹れてくれるお茶はとっても好きよ。美味しいもの」
「ずっとここにいるといいよ」
「えぇもちろん、そのつもりよ」
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