イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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44話 新しい朝

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 あれから二週間。
 私の周りは、だいぶ賑やかになった。

「ねぇ、リンディア。ここ分かる?」

 だが、ここのところ、こなさなくてはならない勉強が妙に増えた。それゆえ、あまり自由には過ごせない。

「なになにー?」
「オルマリン星と同じように人間が暮らしている星の名前」
「簡単じゃなーい。もちろん分かるわよ」
「……教えて?」
「そーいうわけにはいかないわねー」

 ただ、そんな中でも私たちは、色々話したり隙を見つけては遊んだりしている。

 そんなことができるのは、一人ぼっちでないおかげだ。

 以前のように一人で生活していたなら、今みたいに時折息抜きすることもできなかっただろう。

「教えてちょうだい!」
「駄目駄目ー」
「どうしてよ、意地悪ね」
「それは普通考えて、自分でやらなきゃでしょー?」

 特に、リンディアがいてくれるのが大きい。というのも、彼女は女性なので、いつでも室内へ呼ぶことができるのだ。

「ま、ヒントぐらいはあげてもいーわよ。頭文字が『ち』の星!」
「ち?なるほど……ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち……」
「どう? 分かりそー?」
「……ちきゅう?」
「正解! 分かってるじゃなーい」

 ——平穏は素晴らしい。

 あれ以降、何か事件が起こることはなかった。

 そもそもアスターが仕掛けてこなくなったというのもあるが、彼がこちらについたことで悪い輩を警戒させられているということも一因だろう。

 そんなことを考えていると、ゆっくりと扉が開いた。

「少し失礼するよ、イーダくん」

 入ってきたのはアスターだった。
 金属製だろうか、大きく無機質な箱を持っている。

「アスターさん、そんな大荷物でどうしたの?」
「少しばかり運び込ませていただこうかと思ってね」

 運び込む? と首を傾げていると、リンディアが話に参加してくる。

「王女様のお部屋でしょ、物騒な物を運び込むんじゃないわよー」
「武器を何一つ置いていないというのも不安ではないかね?」
「べつにー。あたしがいるんだもの、不安なんてなーいわよ」

 話しながら、アスターは大きな箱を部屋の隅へ置く。

「だが、リンディアとて、四六時中傍にいるというわけにはいかないだろう? なに、金など求めないよ」
「そーいう心配してんじゃないわよ!」

 こうして見ていると、アスターとリンディアは親子みたいだ。正しくは師弟なのだろうが、父と娘という雰囲気も確かにあった。

 二人のやり取りは、眺めているだけで穏やかな気持ちになってくる。実に不思議だ。


 その日の昼、私は久々に、食事の間にて昼食をとることにした。

 食事の間は食事のための部屋である。厨房の近くに設けられた部屋なので、自室や星王の間まで運んできてもらうより、温かい状態の料理を食べられるのだ。

 ただ、食事の間には給仕担当の者が数名いる。だから、適当な服装では行けない。そこだけが、少々面倒なところである。

 そんな面倒臭さゆえに、もう半年近く食事の間へは行っていなかった。
 しかし、特に意味はないが気が向いたため、今日行くことにしたのである。

「食事のためだけの部屋があるのか」
「えぇ、そうよ。ベルンハルト」

 食事の間を目指して歩きながら、私はベルンハルトと言葉を交わす。

 それにしても、今日のこの服装はしっくりこない。
 膝下まであるコバルトブルーのワンピースは、ウエストの辺りを銀のリボン結んでいる。その結び目が妙に圧迫感があり、何とも言えない心境だ。

「実に贅沢な暮らしだな」
「そう? あまりいいものでもないわよ」

 また、履いている黒いパンプスの足に馴染まないこと。
 ヒールはそんなに高くないものを選んでいる。が、それでも歩きにくい。取り敢えず綺麗なものを、と選んだため、履き慣れていないのだ。

「正直、こんな風に着飾るのってあまり好きじゃないの」
「そうなのか」
「えぇ。だってほら、自由自在に動けないじゃない?」
「なるほど。動きが制限される、ということか」

 ベルンハルトは、白のワイシャツに昆布色のネクタイ、そして黒いズボンという格好だ。そのシンプルさから察するに、恐らく支給品なのだろう。

「確かに、動きづらそうではあるな」
「でしょう?」
「女性ゆえの苦労もあるということだな」

 ベルンハルトは私の苦労を理解してくれた。

 まさか理解してくれるとは。

 ……正直、少し意外だ。


 食事の間へ到着すると、私は、指定されている席に座った。向かいには父親の姿がある。

 見るからに高級そうな椅子は、かなり立派で、座り心地も最高だ。座る部分が柔らかいため、腰がほどよく沈み込む。

「では、お持ち致します」

 給仕担当の者は、そう言って、厨房へと引っ込んだ。それにより、食事の間にいるのは四人だけになった。ちなみに——私と父親、ベルンハルトとシュヴァル、の四人である。

「イーダ、来てくれてありがとうなぁ」
「私が久しぶりに来たくなっただけよ。気にしないで」
「それでも嬉すぃーぞ!」

 私の背後にはベルンハルトが、父親の後ろにはシュヴァルが、それぞれ控えている。私と父親だけとなると何かあった時に心配だが、ベルンハルトとシュヴァルがいてくれれば安心だ。

「で、実は話があるんだが、聞いてくれるかぁ?」

 父親は何やら話したそうだ。だから私は「聞くわよ」と答えた。すると、彼は元気そうな声で話し出す。

「今週末、視察があるんだが、イーダも一緒に行かないか?」
「えっ……」
「こうして外に出られるようになったわけだし、記念になぁ! どうだどうだ?」

 言いながら、父親は期待の眼差しを向けてくる。凄く断りづらい空気だ。

「ちょっと待って、ちゃんと説明してちょうだい。どこへ行くのかすら分からない状態では、答えられないわ」

 すると、父親の後ろに控えていたシュヴァルが、軽くお辞儀した。

「具体的な内容につきましては、このシュヴァルが申し上げましょう」
「貴方が?」
「はい。視察日程につきましては、このシュヴァルの管轄で——おや」

 その頃になって、食事の間に料理が運び込まれてきた。
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