イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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46話 信用するのは難しい

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 食事の間にて昼食をとりつつ、今週末の視察の件について話している。

「イーダ、視察ついてきてくれるか?」
「えぇ。構わないわよ」

 私とて、外に出た経験がないわけではない。だが、外へ行くのは凄く久しぶりなので、少々不安があることは事実だ。体調が悪くなったらどうしよう、だとか、誰かに襲われたらどうしよう、だとか——余計なことを考えてしまうのである。

「社会に触れる勉強も、時には必要だもの」

 けれども、ベルンハルトのルーツについて何か分かるかもしれないと思うと、楽しみになってきた。
 自分でも意外なのだが、「行きたくない」とは少しも思わない。

「この際、思いきって行ってみることにするわ」

 私がそう述べると、星王は息を吸い込む。心の中で「何だろう」と不思議に思っていると、彼は大きく口を開けた。

「イーダぁぁぁぁぁぁっ!」

 突然の叫び。場に動揺が広がる。

「ちょ、ちょっと。いきなり何なの? 父さん」
「せ、星王様……?」
「いきなりどうしたんだ」

 私とシュヴァル、そしてベルンハルト。三人が言葉を発したのは、ほぼ同時だった。

 だがそれは、私たちが気の合う仲間だから、というわけではない。もしここにいたのが赤の他人三人だったとしても、きっと今と同じことになったはずである。

 それほどに、父親の叫びが凄まじかったのだ。

「父さんは嬉しいぃぃぃ! 嬉しいんだよぉぉぉ!」

 まったくわけが分からないのだが。

「お願いだから、落ち着いてちょうだい。一体何なの? 落ち着いてから話して」
「イーダが立派過ぎて辛い!」
「え……」

 さすがに、すぐに言葉を返すことはできなかった。

「社会に触れる勉強も必要、なんて言うとは思わなかったんだよぉ! いつの間にそんなに立派になったんだぁ!?」

 深い意味などない。なんとなく言っただけの発言だ。それだけに、そこに触れられたことが驚きである。

「そんなことだろうと思いましたよ……」

 私と父親のやり取りを傍から見ていたシュヴァルは、呆れ顔。

 無理もない、か。


 食事の間での昼食を終えると、私はベルンハルトと共に自室へ戻る。

「ただいま」

 部屋の中では、リンディアとアスターが何やら話していた。
 それも、かなり寛いだ様子で。
 ここは私の部屋だというのに、もはや、二人の部屋であるかのような状態になってしまっている。

「お帰りー」
「お邪魔しているよ」

 リンディアは足を組みながらソファに座っている。アスターは、リンディアの向かいのソファに腰掛けて、なぜか綿菓子を食べている。

 何だろう、この謎に満ちた状態は。

「お昼食べられたー?」
「えぇ」
「そ。なら良かったわー。同行できなくて悪かったわね」

 そんな風に言葉を発するリンディアは、まるで、この部屋の主であるかのようだ。

 もし何も知らない第三者が今の状態を見たとしたら、間違いなくリンディアの部屋だと勘違いすることだろう。

「リンディアたちは?」
「食べたわよー」
「そう! 何を食べたの?」
「あたしはサンドイッチ。アスターは綿菓子」
「サンドイッチはともかく、綿菓子って……」

 そんなどうでもいいようなことを話していると、自然と笑みがこぼれた。理由はよく分からないけれど、心が穏やかになる。

「昼食が綿菓子ではおかしいかね?」

 まだ綿菓子を食べているアスターが、私へ視線を向けてきた。

「それは明らかに変だ」

 私が返すより先に、私の後ろにいるベルンハルトが返す。彼がいきなり会話に参加してくるとは思っていなかったため、少々驚いた。

「ん? 君に聞いたつもりはなかったのだがね」
「そんな質問、イーダ王女が答えるまでもない。馬鹿げたことを尋ねるな」
「相変わらず厳しいね、君は」

 言いながら、アスターはゆっくりと腰を上げる。

 こうして見ると、彼は意外と背が高い。それなりに年をとっているはずなのだが、背筋がしっかりと伸びている。

「君のような者が傍にいれば、イーダくんもさぞ安心だろうね——ベルンハルトくん」

 髪の生え際を片手でひと撫でした後、アスターはベルンハルトに向かって数歩足を進めた。一歩が大きすぎないところが、大人びている。

「気安く名を呼ぶな」
「おや? お気に召さなかったかな。それは失礼」
「その話し方も止めてくれ。不愉快だ」
「さりげなく注文が多いね、君」

 アスターがわりと積極的に関わりにいくのに対し、ベルンハルトはあまり交流したくなさげだ。その様は、出会って間もない頃の父親とベルンハルトを彷彿とさせる。

 警戒心の強いベルンハルトは、他人をすぐに信用できない。
 恐らく、それが、知り合って間もない者との接触をあまり好まない理由なのだろう。

「ところでベルンハルトくん、君はどのくらい戦闘能力があるのかね? ……もちろん、若さ迸る動きは以前見せてもらった。だが、君の戦い方をじっくりと見たことは、まだない。少し気になっているのだが……見せてはくれないかね」

 アスターの瞳はベルンハルトをしっかりと捉えている。彼がベルンハルトに関心を抱いていることは、無関係な私でさえ容易に分かることだ。

「断る」

 だがベルンハルトは、やはり、はっきりと拒否した。それに対し、アスターは溜め息を漏らす。

「……まったく。なぜ君はそうも拒むのかね。私にはよく分からんよ」
「理由を述べる必要などない」
「いや、気になる。そう言われると余計に気になる。話してはくれないかね?」
「話すつもりはない」
「おぉ、はっきりと断られてしまった」

 ベルンハルトの凛々しい面には、警戒の色だけが滲んでいる。

「僕はまだ、仲間だとは思っていない」

 彼が言葉を発したことで、室内が何とも言えない空気に包まれた。当のアスターはもちろん、リンディアまでも、戸惑ったような顔をしている。そんな中で私は、「勝手に話を進めすぎたかな」と、少々後悔した。

「ちょっと、何なのー。その言い方は、さすがにないんじゃなーい?」

 冷たい言葉を放ったベルンハルトに向けて、リンディアが言う。

 妙な空気になってきた。

「イーダ王女を狙った男だ、そう簡単に信用することはできない」
「だったらどーして、最初に反対しなかったのかしらねー」
「王女に反対できるほどの地位ではないからだ」
「あーら、そ。ま、そーよね。王女様に嫌われちゃったら、また収容所に逆戻りだものねー」

 ベルンハルトの眉がぴくりと動く。

「リンディア! そんなこと、言わないで!」
「どーしたの? 王女様」
「嫌みは止めてちょうだい。冷たいことを言うベルンハルトも問題だけど、彼の傷を抉るようなことを言うのも問題だわ」
「……真面目ねー」

 こういう形で「真面目」と言われるのは、複雑な心境だ。

 だが、喧嘩にならずに済んだので、取り敢えずこれでよしとしておこう。
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