イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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61話 デートのお誘い……なわけがないでしょう

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 シュヴァルこそが悪。
 シュヴァルがすべての元凶。

 アスターはそう仄めかすようなことを言った。

 私は何となく分からないでもなかった。もちろん驚きはしたけれど。ただ、「そういうことがあってもおかしくはないかな」と思うことはできた。

 だが、リンディアは違った。
 彼女にとってシュヴァルは父親だ。つまり、彼女にとって今の状況は、「父親が反逆者」と言われているようなものなのである。

「アスター! ちょーしに乗ってんじゃないわよ!」
「調子に乗ってなどいないよ、リンディア。私はただ、事実を述べただけのこと」
「あいつは確かに生意気な人間よ!? けど、さすがに、星王様を裏切ったりはしないでしょー!」

 アスターは冷静に対応し続ける。

 しかし、リンディアの怒りは一向に収まらない。リンディアの激しい声が、喫茶店内に響き続けている。

 彼女の気持ちは分からないでもない。が、このままでは周囲に迷惑がかかるばかりだ。だから私は、勇気を出して、彼女を制止することに決めた。

「一旦止まって、リンディア。騒ぐだけでは何にもならないわ」
「王女様はこんなジジイの言葉を鵜呑みにするっていうのー!?」

 鋭い声を浴び、一瞬怯む。
 しかし、「ここで逃げては駄目」と自分を鼓舞して、言葉を返す。

「いいえ。そうじゃないわ」

 私は王女。彼女は従者。
 こういう時こそ、その地位を活かさなくては。

「鵜呑みにするわけではないけれど、可能性を考慮することは必要だと思うの」
「リンディアは罪人の娘だーって、そう思っているんじゃないのー?」
「違う。それは断じて違うわ」

 今までの私なら、彼女に気圧されて何も言えなくなっていたことだろう。だが、今は違う。今は、はっきりと言葉を述べることができる。

「まずは父さんに話してみるわ。それから、シュヴァルに反逆の意思があるのか調べる。それで良いでしょう?」
「妥当だ。もっとも……彼は真実を語りはしないだろうがね」
「それはそうでしょうね。そこは何とか考えるしかないわ」
「うむ。後のことは皆で考えるとしよう」

 アスターは納得してくれたようだ。

 私はそれから、再び、リンディアへ視線を向ける。
 彼女は唇を真一文字に結んでいた。

「それでいい?」
「……そーね。そーいうことははっきりさせた方がいーわ」
「ありがとう、リンディア」

 リンディアには少し申し訳ない気もするが、私が狙われなくて済むようになる可能性が少しでもあるなら、確かめてみなくてはならない。

 すべては平穏を手にするためだ。

「ベルンハルトにも後で言っておかなくちゃね」


 私はその後、父親と合流。だが、すぐに話すことはできなかった。というのも、近くにシュヴァル本人がいたからである。

「イーダぁ!! またしても狙われたのかよぉぉぉ!!」
「え、えぇ……」
「従者、まったく役に立っていないじゃないかぁぁぁ!」

 父親は相変わらず騒々しい。星一つを治める星王だとはとても思えぬ振る舞いだ。

「違うのよ、父さん。悪いのは従者のみんなではないの」
「え。そうなのかぁ?」
「そうよ。みんな働いてくれているわ」
「ならいいんだがなぁ……」

 父親は何やら不安げな表情を浮かべている。
 少し失礼かもしれないが、「こんな人でも不安になったりするのか」と思ったりした。

「心配なさることはありませんよ、星王様」

 シュヴァルは鋭い。
 父親の表情が曇ったことをすぐに察し、口を動かした。

「三人も従者がいれば、そう易々とやられはしません。王女様が命を奪われるようなことが起きる可能性は、かなり低いかと」
「けど、イーダは怪我したんだぞ?」
「あれは急襲でしたから……」

 父親とシュヴァルの会話を聞いて、私は、足を怪我していたことを思い出した。さほど痛まないため、すっかり忘れてしまっていた。

「しかし、従者が傍にいたからこそ、軽傷で済んだのです」
「まぁそうかもしれないが……」
「それに、先ほどの襲撃では王女様はご無事でしたでしょう? それは、従者がいたからこそ、です」
「確かに、そうかもしれないなぁ」

 父親は納得したようだ、話が一旦途切れた。
 そのタイミングを逃さず、私は口を開く。

「ねぇ、父さん」
「何だぁ?」
「後で少し、二人きりで話さない?」
「デートのお誘いかぁっ!?」

 父親は急に叫ぶ。
 こちらまで恥ずかしい。

「いいえ。ただ、少し話したいことがあるの」
「またお願いか何かかぁっ!?」
「えっと……どちらかというと、相談、という感じね」
「もちろん! いいぞぉーっ!」

 父親の妙なテンションには、若干、恐怖すら覚える。だが彼に悪意はない。それは確かだ。なので、わざわざ注意することもないだろう。

「相談なら、シュヴァルも一緒にってのはどうだ? シュヴァルがいてくれれば、より正確な答えが出るか——」
「二人で話したいの」
「えっ?」
「シュヴァルはいなくていいわ。私と父さん、二人きりで話したいことなのよ」

 すると、父親は頬を赤らめる。

「そ、そんなぁ……イーダ……さすがに照れるぞぉぉぉ……」
「そういうのは要らないから!」
「……ごめん」

 父親は子どものようにしゅんとした。肩を落とし、身を縮めている。またしても大人とは思えぬ振る舞いだ——が、害はないため突っ込まないでおくことにした。

「よし。イーダがそう言うなら、二人で話そう」
「ありがとう!」

 ようやく話がまとまった。

「じゃ、シュヴァル」
「部屋をご用意致しましょうか」
「よく分かっているな! さすがはシュヴァル!」
「……長い付き合いですから」

 やはり、父親はシュヴァルを信頼しきっている。
 長く仕えてくれているシュヴァルが……なんて、彼は微塵も考えていないだろう。

 ——私が話したくらいで信じてくれるだろうか。

 不安だ。もはや、不安しかない。

 だが、それでも話さなくてはならないのだ。
 私が決めたことだから。
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