イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜

四季

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99話 恥ずかしがる自分が恥ずかしい

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 その日は、リンディアが寝るベッドのすぐ近くにあるソファで、朝まで眠ることとなった。

 戦ったり、逃げたり、色々しているうちに、意外と時間が経過していたらしく、朝はもう近い。だから、眠ると言っても、そんなに長く眠れはしないかもしれない。だがそれでも、少しは寝た方が良いという話になり、眠ることになったのである。


 ーーふと、目が覚めた。

 視界にベルンハルトの姿が入る。

「起きたか、イーダ王女」
「……ベルンハルト」
「もう昼だ」

 その言葉に驚いて、急激に意識が戻る。

「え! 昼なのっ!?」
「そうだ」
「そんな! 長いこと寝てしまったってこと!?」
「まぁ……そうなるな」

 まさかの展開に驚きを隠せない。
 少なくとも遅めの朝くらいには起きられると思っていただけに、既に昼になっているという事実は衝撃的だった。

「だが、慌てることはない。むしろ、ちゃんと眠れたようで良かった。あんなことがあった後だからな、疲れて眠ってしまうのは普通のことだ」

 ベルンハルトが優しい。妙な感じだ。

「そうかもしれないわね……って、あれ? リンディアは?」

 周囲を見回してみたが、リンディアの姿がない。

「あいつはアスターのところへ行った」

 そういうことらしい。

 ……そりゃそうよね。アスターはリンディアの師匠だもの。

 リンディアがアスターのことを心配しないはずがない。日頃はアスターに失礼なことを言ってばかりのリンディアだが、倒れた彼を心配していないということはないだろう。

「私たちも行きましょうか」
「アスターのところへ行くのか?」
「えぇ。ベルンハルトは嫌?」

 嫌ということはないだろうが、一応尋ねてみておいた。
 それに対し、彼は、静かな調子で返してくる。

「いや、そんなことはない」

 彼はそう述べた後、私に向けて手を差し出してくる。

 あら、王子様みたい。

 ——なんて思ったことは、私だけの秘密にしておこう。

「何かあったら困るからな。僕も行く」
「手?」
「おかしいだろうか? 繋いでいた方が、もしもの時に迅速に対応できるかと思ったのだが」

 ……やはり。

 さすがはベルンハルト、まったく夢のない言葉を発してくれた。そんな具体的に言われては、夢のある捉え方をできないではないか。

 実に何とも言えない気分である。

「いえ。そうよね……それが貴方よね。貴方がそういう人だってこと、うっかり忘れてしまっていたわ」

 失礼なことを言ってしまったかもしれない、と、後から若干後悔した。
 しかし、ベルンハルトはあまり気にしていないようで、特に何でもない、といったような顔をしている。

「この性格だと、何か問題があるだろうか?」
「いいえ。ベルンハルトらしくて良いと思うわよ」

 時折発揮される頑固さには多少苦労する。が、それが大きな問題であるとは思わない。

 彼が従者らしい性格かというと、そうではないかもしれない。けれど、従者らしい性格であれば優秀な従者、というわけではない——少なくとも、私はそう思っている。

「ベルンハルトはベルンハルトだもの。今のままでいいの」

 私はこの手を、彼の手に重ねる。

 一見ロマンチックな状態でも、彼があまりに無表情だから、ロマンチックさなんてまったくない。小さい子が父親と手を繋ぐのと変わらないくらい、何でもない雰囲気だ。

 けど、これでいい。
 何でもないこんな関係のままで、構わない。


 そっと手を繋いで、私とベルンハルトは歩く。アスターの様子を見に行くために。

 その間、私は、少し恥ずかしかった。

 こんなことを言うと「乙女か」と笑われてしまうかもしれないが、異性と手を繋いでいるところを他人に見られるのが恥ずかしかったのである。

 前を行くベルンハルトが無表情なので、周囲は多分何とも思っていないのだろう。幾人かの侍女とすれ違ったが、何も言われなかったし、凝視されることもなかった。

 どちらかというと、そんな中で一人恥じらっている残念な自分を恥じらうべきかもしれない。


 歩くことしばらく、アスターがいるという部屋へ到着した。

 私たちが扉の前へ立つと、入口の扉が自動的に開く。白く曇ったガラスで作られているかのような質素な見た目をした扉だが、性能は悪くないみたいだ。

「失礼する」

 ベルンハルトは短く挨拶をし、部屋へ入っていく。そんな彼に手を引かれ、私も部屋へ入ることとなった。

 そんなこんなで入った部屋は、扉と同じく質素な見た目をしていた。
 あまり特徴のない、白一色の壁と天井。病院に置かれていそうな、平凡なベッド。そして、その脇には何やら機械がある。が、その機械は、色鮮やかなわけでも柄があるわけでもないため、そんなに目立たない。

「リンディア!」

 ベッドの脇の椅子に腰掛けている彼女を見つけ、声をかける。

「あーら、王女様じゃなーい」

 私が声をかけると、彼女は、すぐに気づいて返してくれた。

「アスターの容態は? どのような感じだ」
「ベルンハルト、まずは挨拶なさーい。王女様を見習ってー」
「容態の確認が最重要事項だ」
「……頑固な男ねー」

 柔らかさのないベルンハルトの発言に、リンディアは顔をしかめた。
 整った美しい顔が、渋柿を食べた時のような状態になってしまっている。

「ま、いーわ」

 眉を寄せつつ溜め息をつくリンディア。

「命に別状はないよーよ。ただ、怪我に加えて毒が体内に入ってしまってるから、完治には時間がかかりそーねー」

 リンディアはさらりと述べる。けれど、彼女の言葉は私にとっては苦痛だった。従者になったがためにアスターがこんなことに巻き込まれた、と、考えてしまうから。

 心が陰る。
 責められているわけではないのだから気にしなくていいと、分かっているのに。

「……ちゃんと治る?」
「王女様、どーしたの。急にそーんな深刻な顔してー」

 勝手に悶々としていた私は、リンディアの発言に、正気を取り戻す。

「本当? それならいいのだけれど……」

 するとリンディアは、ニコッと笑う。

「アスターならだいじょーぶよー! そのうちケロッと元気になるわー」

 だが私には、彼女の笑みが、寂しげなものに見えた。

 思うのだ。
 秘めた想いを隠すための笑みなのではないだろうか、と。
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