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前編
しおりを挟む私には婚約者がいる。二つ年上で、親が決めた男性。名はペトラスクといい、さらりとしたブラウンの髪と男性的な凛々しさを残しつつもどこか中性的な顔立ちが美しい人。異性からの人気も高かったようだ、私との婚約が決まる頃までは。
しかしこの彼、異性関係に関してかなりきちんとしている。
ファンの女性が近づいてきても必要以上に関わろうとはしないし、ある程度線を引いたような距離感で関わる。また、過剰に親し気にしてくる人にははっきり思いを告げるし、異性と二人きりで何かをするなどといった勘違いが起こりそうなことは絶対にしない。
そんな彼だから、正直、私には惜しい人だと思う。
しかし彼は私を好んでくれているようで、いつも傍にいてくれる――当然住んでいる家はまだ別だけれど。
ある時私は一度顔に怪我をした。
山に行った際に、だ。
同行していた友人がどさくさに紛れて突き飛ばしてきて私を穢させてきたのである。
けれども顔に少し傷がついても彼は私を捨てはしなかった。
また、ある時は知人の異性の友人である女性から、私に関する偽りの悪口を聞かされたようだった。
けれどもそこではっきり「見たものしか信じないタイプなので」と言ってくれていたようで、根拠のない噂を信じたりはしなかったようだった。
彼はそんな見え透いた罠にはまる人ではなかったのだ。
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