上 下
1 / 2

前編

しおりを挟む
「君からは鶏の匂いがする」

 ……はい?

 婚約者カブゼルネウンスは真面目な顔で言うが、私には意味が理解できない。

 鶏の匂い?
 そんなもの知らないし。

 鶏を飼っているわけではないし、鶏と接触があったわけでもない。

 なのに、私が、鶏の匂いがするというの?

「よって、婚約は破棄とする」

 待って? 意味不明過ぎない?

 カブゼルネウンスは真面目な顔をしている。ということは、鶏の匂いも婚約破棄も冗談ではないのだろう。彼は真剣にそういうことを言っているのだろう、恐らく。

 しかし意味が分からない。

 そもそも私が鶏の匂いがするという点から意味不明だし、それを理由に婚約破棄を告げるというのもまったくもって掴めない。

 単なる悪口だというなら、まだ理解はできるけれど……。

「そういうことだから、消えて」
「……いきなりですね」
「去って。二度と見たくないし会いたくない」

 私は一応自分の服を嗅いでみる、が、特に匂いはしない。

「穢らわしい女、二度と近寄るな」

 彼は最後に心ない言葉を発し、冷ややかに私を睨んだ。

 あぁこれは修復不能なやつだ……。

 そう感じ、私は素直に彼の前から去ることにした。
しおりを挟む

処理中です...