私は身を引きます。どうかお幸せに

前編

「君はどうしてそんなに心ないんだ！」

　私の婚約者である青年フルベルン。彼はいつも私のことより幼馴染みのことを気にかけている。そして、そのことに関して私が少しでも口を挟むと、すぐに怒り出す。

「言っただろう、アレイナは僕の幼馴染みなんだ。放っておくことなどできない。そもそもおかしいだろう。どうして君は、いつも、そんな心ないことばかり言うんだい！」

　フルベルンの幼馴染みアレイナ。
　彼女は人形のような可憐で美しい容姿の持ち主の女性だ。

　ただ、性格には難あり、である。

「一度や二度なら言いません。でも、最近のフルベルンさんは、アレイナさんにばかり意識を向け過ぎだと思うのです。ですから、こうして話をしているのです」
「アレイナの力になって何が悪い！」
「カッとならないでください。冷静に話してください」
「冷静に？　無理だよ、そんなのは。アレイナを悪く言う人は誰であろうが許せない」

　アレイナと私は元々知り合いではなかった。そのため、何度も会ったことはない。が、前に一度だけ会ったことがある。あれは、私がフルベルンと婚約することになった翌日のことだ。フルベルンから「アレイナが会いたいと言っている」と言われ、私はアレイナに会いにいった。アレイナは長い髪が可憐な女性であったが、フルベルンがその場からいなくなった瞬間、私に耳打ちしてきた。

　貴女って凄く地味なのにどうやって彼に取り入ったの？　と。

　あの時の衝撃はいまだに忘れられない。可憐な女性の花のような唇からそんな嫌みが出てくるとは想像していなくて。とにかく驚いた記憶がある。