上 下
1 / 2

前編

しおりを挟む

「ルルア! お前とはもうやめる!」
「え――」
「もっと素晴らしいやつと出会えたんだよ! だからお前なんかもう要らないんだ! 婚約は破棄な!! ……じゃ、そういうことで」

 そんなテンプレートのような婚約破棄が私の生涯に存在するなんて思っていなかった。

 でも存在した。
 それは事実で。

 実際私は婚約者オリーガから終わりを告げられてしまったのだった。


 ◆


「ルルア、ご飯くらいちゃんと食べなさいよ?」
「は~い」

 私は今、実家で暮らしている。

 食欲はあまりない。でも泣いてはいない。悲しみの海に沈んでいるわけでもない。ただぼんやりしているだけ。絶望してはいない、けれど、光を見つけることはできていない。ぼんやりしたまま、時間だけが流れてゆく。

 窓の外には澄んだ空がある。
 そして白い鳥が飛ぶ。
 生命のように駆け抜ける風に乗るようにして。

 そんな様子を眺めている――それだけが、今の私の楽しみだ。

 空はいい。
 自然はいい。

 いつ見ても美しいから。

 晴れていても、曇っていても、雨が降っても――どんな天候の日でも外には美しさがある。

 だから好き。

 人も嫌いではない、いや、嫌いじゃなかった。好きな人と一緒にいられれば幸せになれそうに思って。明るい未来を見ていられた頃もあった。でももうそれは無理だ。空の、鳥の、美しさに気づけても。人と歩む道の美しさと愛おしさはもう感じられないし、小さな光に気づくことさえできない。

 私はただ時間を潰す。

 美しい、そう思える窓の外へ目をやりながら。
しおりを挟む

処理中です...