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後編

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 私は素手での決闘を挑んだ。
 そして突進によってエルグラインを数メートル後ろへ飛ばした。
 彼は地面に落ちた瞬間気絶した。

「あの子……本当に勝ったわ……」
「しかも一瞬で」
「誰か! 救護! エルグライン様が死んでしまうわ!」

 エルグラインは身体を強打してしまっていた。

「一撃で仕留めるなんて……あり得ない……」
「努力の成果ね」
「こ、怖いよ! あんなの熊だよ! 物騒な!」

 幸いエルグラインは死には至らなかった。
 が、彼はそれ以降私の名さえも恐れるようになったそうだ。


 ◆


 あの決闘から二年。
 私は今、王子アウクフの護衛となっている。

「君が護ってくれるなら安心して街を歩けるよ」
「いえ」

 だが実は私たちは恋仲だ。

「ありがとう、本当に」
「お力になれ嬉しいです」
「ああそうだ、今度、二人でお茶しないかい?」
「えっ……」

 まだ何も公開してはいないのだけれど、ゆくゆくは結婚する予定だ。

「よいのですか? 私、こんなですよ? いかつさしか取り柄がないですし……」
「まさか。そこが好きなんだよ、分かるかな」
「分かりません……」
「ええー……」
「ですが、お誘いはとても嬉しいです」
「そっか! なら良かったよ。お茶を共に楽しもう」

 アウクフは私を悪く言わない。

 肥満、とも、野蛮、とも、絶対に言いはしない。

 私の彼の好きなところはそういうところだ。
 人の心を想像して発言ができるところ。
 それこそが王子アウクフの最大の魅力である。

「たまにはゆったり君と過ごしたいからさ」
「……ありがとうございます」

 ちなみにエルグラインはというと、毎晩私に突進されて身体をばらばらにされる悪夢をみて苦しんでいるらしい。

 きっとそれは死ぬよりも辛い日々だろう。

 結局謝ってもらえなかったけれど……だが苦しんでいるならそれも一つの償いだろう。


◆終わり◆
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