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前編

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「君みたいな女、だいっきらいだ! よって、婚約は破棄とするッ!!」

 色鮮やかな刺繍が施された見るからに高級そうな上着をまとっている婚約者ヴェールガーは、今日、何の前触れもなかったのに突然そう宣言した。

「婚約破棄、ですって?」
「ああそうだ! もう君とは無関係になりたい!」

 彼は感情的になっていた。
 まともな説得や会話はできそうにない。

「君みたいな優しくない女はだいっきらいだ! それに! 僕にはふさわしくない! 早く消えてくれ!!」

 そこまで言うか。

 なら従おう。
 私とて、夫から嫌われながら生きるのはごめんだ。

「分かったわ。じゃ、私はこれで去るわね。さようなら、ヴェールガー」

 私はそう言って、彼の前から去ることを選んだ。

 彼と離れても私が失うものは何もない。
 それならもうどうにでもなってしまえ。

 関係はここまで、だ。
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