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56話「リベルテの強行突破」
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息子との大喧嘩の後のようないかにも不機嫌そうな顔をしたビタリーと、相手の顔色を窺いつつ敵意のなさを示す笑みを振り撒くリベルテ。対照的な顔つきをした二人の視線が交差する。
「彼女を離してはいただけませんか?」
「馬鹿なことを言わないでほしいね。彼女が僕に従わない限り、僕は彼女を解放しないよ」
ビタリーの発言を受け、リベルテは困り顔。
「そうでございますか……では、仕方がございません」
直後、リベルテは突然ふらふらとした足取りになり、ビタリーに急接近。
そして、そのままビタリーに体当たりを仕掛けた。
ぶつかってこられることを想定していなかったらしく、いきなりぶつかってこられたビタリーはバランスを崩す。何とか堪えようと歯を食いしばったが、堪えることはできず、そのまま転倒してしまった。
急なことに愕然としていた私の耳元で、リベルテは囁く。
「ウタ様、こちらへ」
その言葉を耳にした時、私はようやく今起こったことの意味に気がついた。
助けてくれたのだ、リベルテが。
私は彼の指示に従い、素早くリベルテの背後に回る。ビタリーは転んだことに動揺して、まだ次の動きに移れていない。この時ばかりは、リベルテの小さな背中がとても頼もしく思えた。
「し、失礼致しましたっ! ではこれにて!」
リベルテはまだ転倒したままのビタリーに一言だけ謝り、すぐに私の手首を掴む。そして、そのまま部屋から出ていった。私も、リベルテに手を引かれるままに、甘い香りが充満した部屋から去ることとなる。出ていく直前、「待て! 待たないか!」というビタリーの叫び声が聞こえた気がしたが、私はもう振り返らなかった。
「はぁ。まったくもう、面倒な男でございましたね」
私のために用意されていた部屋に戻るや否や、リベルテは大きな溜め息をつく。
「ごめんなさい。手間をかけさせてしまって」
「いえ! ウタ様は悪くなどございません!」
リベルテがあのタイミングで体当たりなどという乱暴な手段を使うとは思わなかった。けれど、その予想外の行動によって私は助かったのだ。この後またごちゃごちゃと言われそうな気はするが、今はひとまずリベルテに感謝したい。
「ウタ様に手を出すだけでなく、あのような女性だらけの部屋で遊んでいるなど、本当にいけすかない男でございます!」
なぜだか分からないけれど、リベルテは憤慨している。
ビタリーの女遊びが気に食わなかったのだろうか。
「凄い部屋だったわ……」
「ウタ様、何もされておりませんか?」
「えぇ。特に何もされていないわ」
「そういうことでございましたら、安心致しました」
ひとまず逃れられたのは良かった。しかし、これで解決したとは考え難い。執拗なところを持つビタリーのことだ、絶対また絡んできそうである。次はどう絡んでくるだろう。それを考えるだけで、段々憂鬱になってくる。そんなことでいちいち暗い気持ちになっている場合ではないのに。
「次からはリベルテが追い返しますね」
「そんなことをして、大丈夫なの?」
「怒られはするかもしれませんが、そこまで大事にはならないでしょう。それより! ウタ様を無理矢理どこかへ連れていかれる方が大問題でございます!」
頼もしい、と言って良いものなのかどうか。
リベルテはウィクトルの部下だ。もしその身に何かあったら、ウィクトルにどう説明すれば良いのか分からない。謝っても許されない、取り返しのつかないようなことになったらと、そう考えるだけで不安が渦巻く。
「ウタ様をお護りすることが、今の任務でございますから」
「無理はしないでちょうだいね」
「もちろんでございます。悲しませるようなことは致しません」
そう言って笑うリベルテは、可憐な花のようだった。
男性に対してこんなことを言うのは問題かもしれないが——可愛らしい。
その日以降、これといった大きな苦難は訪れなかったものの、嫌がらせに似た行為は時折見られた。すれ違いざまに小声で悪口を言ったり、さりげなく体を当ててきたり。しかし、リベルテがいつも近くにいてくれたから、私は孤独ではなかった。
一人だったら苦しかったかもしれない。心が痛かった可能性もある。
けれども、寄り添ってくれる存在があったから、負けそうにはならなかった。
元々イヴァンの周囲で働いている人たちからすれば、私は完全に余所者。しかも、遠い星からやって来た人間だ。だから、彼女らが気に食わないと感じるのも、まったく理解できないわけではない。余所者は排除したくなる、人の心とはそういうものだから。
なので私は極力目立たないよう心掛けた。
注目されるから、悪くも言われる。それならば、注目されないように努力すればいい。そうすれば、私の存在は皆の記憶に入り込まないし、不愉快に思われることも減るだろう。
「ウタ様……最近は部屋にこもっていらっしゃいますが、体調が優れないのでございますか?」
色々思考した結果、私は、長い時間を部屋の中で過ごすことにした。
私にとってはそれほど苦しいことではなかったのだが、リベルテは常に心配してくれている。
「いいえ、そういうわけじゃないわ。刺激しないようにと思っているだけよ」
「刺激、でございますか?」
「そうそう。目立つとごちゃごちゃ言われるもの」
「それは……確かに、そうでございますね」
パンダに似たデザインのポットに水を入れ、その下側から伸びている線を、壁に繋ぐ。
これで一定時間待つと湯が沸くのだ。さすがにもう覚えた。
「そういえばウタ様。昨夜、主より連絡がございまして、ウタ様とお話したいとのことでございました。いかがでしょう」
「え。ちょっと待って、それはどういう話?」
「機械を使えば、映像ありで通話することが可能なのでございます。主が船に戻っている時間帯しか通話できませんが……」
遠く離れていても連絡が取れる、ということか。
そんな制度があるならもっと早く教えてほしかった、なんて、贅沢にも思ってしまう。
「それは良いわね。ウィクトルの迷惑にならないなら、私もぜひ話してみたいわ」
「彼女を離してはいただけませんか?」
「馬鹿なことを言わないでほしいね。彼女が僕に従わない限り、僕は彼女を解放しないよ」
ビタリーの発言を受け、リベルテは困り顔。
「そうでございますか……では、仕方がございません」
直後、リベルテは突然ふらふらとした足取りになり、ビタリーに急接近。
そして、そのままビタリーに体当たりを仕掛けた。
ぶつかってこられることを想定していなかったらしく、いきなりぶつかってこられたビタリーはバランスを崩す。何とか堪えようと歯を食いしばったが、堪えることはできず、そのまま転倒してしまった。
急なことに愕然としていた私の耳元で、リベルテは囁く。
「ウタ様、こちらへ」
その言葉を耳にした時、私はようやく今起こったことの意味に気がついた。
助けてくれたのだ、リベルテが。
私は彼の指示に従い、素早くリベルテの背後に回る。ビタリーは転んだことに動揺して、まだ次の動きに移れていない。この時ばかりは、リベルテの小さな背中がとても頼もしく思えた。
「し、失礼致しましたっ! ではこれにて!」
リベルテはまだ転倒したままのビタリーに一言だけ謝り、すぐに私の手首を掴む。そして、そのまま部屋から出ていった。私も、リベルテに手を引かれるままに、甘い香りが充満した部屋から去ることとなる。出ていく直前、「待て! 待たないか!」というビタリーの叫び声が聞こえた気がしたが、私はもう振り返らなかった。
「はぁ。まったくもう、面倒な男でございましたね」
私のために用意されていた部屋に戻るや否や、リベルテは大きな溜め息をつく。
「ごめんなさい。手間をかけさせてしまって」
「いえ! ウタ様は悪くなどございません!」
リベルテがあのタイミングで体当たりなどという乱暴な手段を使うとは思わなかった。けれど、その予想外の行動によって私は助かったのだ。この後またごちゃごちゃと言われそうな気はするが、今はひとまずリベルテに感謝したい。
「ウタ様に手を出すだけでなく、あのような女性だらけの部屋で遊んでいるなど、本当にいけすかない男でございます!」
なぜだか分からないけれど、リベルテは憤慨している。
ビタリーの女遊びが気に食わなかったのだろうか。
「凄い部屋だったわ……」
「ウタ様、何もされておりませんか?」
「えぇ。特に何もされていないわ」
「そういうことでございましたら、安心致しました」
ひとまず逃れられたのは良かった。しかし、これで解決したとは考え難い。執拗なところを持つビタリーのことだ、絶対また絡んできそうである。次はどう絡んでくるだろう。それを考えるだけで、段々憂鬱になってくる。そんなことでいちいち暗い気持ちになっている場合ではないのに。
「次からはリベルテが追い返しますね」
「そんなことをして、大丈夫なの?」
「怒られはするかもしれませんが、そこまで大事にはならないでしょう。それより! ウタ様を無理矢理どこかへ連れていかれる方が大問題でございます!」
頼もしい、と言って良いものなのかどうか。
リベルテはウィクトルの部下だ。もしその身に何かあったら、ウィクトルにどう説明すれば良いのか分からない。謝っても許されない、取り返しのつかないようなことになったらと、そう考えるだけで不安が渦巻く。
「ウタ様をお護りすることが、今の任務でございますから」
「無理はしないでちょうだいね」
「もちろんでございます。悲しませるようなことは致しません」
そう言って笑うリベルテは、可憐な花のようだった。
男性に対してこんなことを言うのは問題かもしれないが——可愛らしい。
その日以降、これといった大きな苦難は訪れなかったものの、嫌がらせに似た行為は時折見られた。すれ違いざまに小声で悪口を言ったり、さりげなく体を当ててきたり。しかし、リベルテがいつも近くにいてくれたから、私は孤独ではなかった。
一人だったら苦しかったかもしれない。心が痛かった可能性もある。
けれども、寄り添ってくれる存在があったから、負けそうにはならなかった。
元々イヴァンの周囲で働いている人たちからすれば、私は完全に余所者。しかも、遠い星からやって来た人間だ。だから、彼女らが気に食わないと感じるのも、まったく理解できないわけではない。余所者は排除したくなる、人の心とはそういうものだから。
なので私は極力目立たないよう心掛けた。
注目されるから、悪くも言われる。それならば、注目されないように努力すればいい。そうすれば、私の存在は皆の記憶に入り込まないし、不愉快に思われることも減るだろう。
「ウタ様……最近は部屋にこもっていらっしゃいますが、体調が優れないのでございますか?」
色々思考した結果、私は、長い時間を部屋の中で過ごすことにした。
私にとってはそれほど苦しいことではなかったのだが、リベルテは常に心配してくれている。
「いいえ、そういうわけじゃないわ。刺激しないようにと思っているだけよ」
「刺激、でございますか?」
「そうそう。目立つとごちゃごちゃ言われるもの」
「それは……確かに、そうでございますね」
パンダに似たデザインのポットに水を入れ、その下側から伸びている線を、壁に繋ぐ。
これで一定時間待つと湯が沸くのだ。さすがにもう覚えた。
「そういえばウタ様。昨夜、主より連絡がございまして、ウタ様とお話したいとのことでございました。いかがでしょう」
「え。ちょっと待って、それはどういう話?」
「機械を使えば、映像ありで通話することが可能なのでございます。主が船に戻っている時間帯しか通話できませんが……」
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