奇跡の歌姫

四季

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63話「シャルティエラの確認」

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 偶然居合わせたビタリーのおかげで、不審な男たちに捕らわれたリベルテの救出に成功。私もリベルテも、無事、穏やかな世に戻ってくることができた。救出前の約束通り、私はビタリーをお茶を飲むことになり、どことなく憂鬱。だが、いざ彼とティータイムを過ごすと、それなりに楽しくはあった。

 が、その後にまたややこしいことが起こる。

 ビタリーと私が二人でお茶をしたことが、皇帝に仕える女性たちの間で噂になってしまったのだ。

 お茶を飲んだことについて知っているのは、私とビタリー、そしてリベルテの三人だけ。つまり、その三人の中に情報を流出させた者がいるということだ。
 ちなみに、私は誰にも話していないし、リベルテは常に私の近くにいたが彼が誰かに言いふらしている様子はなかった。
 となれば、皆に情報を流出させたのが誰であるかは明らか。

 ビタリーだ。
 彼が情報を漏らしたのだろう。

 彼とてさすがに悪意を持って情報漏洩したわけではないのだろうが、かなり迷惑な行為である。なぜなら、私の方にばかり悪い噂が立つから。次期皇帝に言い寄って、とか、身分で男を選ぶ、とか、今や私は酷い言われようである。女性という生き物は同性の悪口が好きだから、そういった類の話が盛り上がる盛り上がる。


『リベルテのせいでウタくんが悪く言われていると聞いたが、事実か!?』

 あれから数日が経った夜、またウィクトルと連絡を取ることになった。
 前回と同じように、板状の機械での通話である。

「え、えぇ……でも、どうして貴方がそれを?」
『リベルテから報告を受けた。自分のせいでウタくんが、とな』

 画面に映るウィクトルの顔は険しかった。
 笑って顔を合わせられたなら、それが一番だったのだけど。

『で、だ。リベルテは一体何をやらかした?』

 ウィクトルの双眸から放たれる視線は鋭い。その視線が私へ向けられたものでないと分かっていても恐怖を感じるような鋭利さを抱いた目つきだ。

「まさか。リベルテは何も悪くないのよ。ただ、おかしなところに紛れ込んでしまった私を庇ってくれただけだわ」

 私は、スーツの男性に絡まれている女の子を助けようとしてしまったことから話し始め、起こった出来事の一連の流れをウィクトルに伝えた。取り敢えず事情を説明しようと思って。そうすればきっとウィクトルもリベルテが悪くないと分かってくれるだろう、と考えて。

『なるほど。そういうことか』
「えぇ。だから、リベルテに罪はないのよ」
『そうか。……だが、素人相手にうっかり捕まえられるというのは感心しないな。しかもウタくんの手を煩わせるなど、大問題だ』

 今のウィクトルはリベルテに妙に厳しい評価を下している。まるで厳しい先生だ。

「待って待って。リベルテは悪くないのよ」
『だが……』
「いいの! 彼はとても優秀だわ。だから、ウィクトルもそう思ってあげて」

 そもそもあんなことに巻き込まれたのは私が原因。リベルテはそんな私を護ろうとしてくれただけなのだ。もしそれでウィクトルから批判されたりしたら、リベルテが気の毒で仕方ない。

『あらぬ噂を立てられると困るのは君だろう』
「それはそうね。でも……気にしないで。私は平気」

 私は地球人だ、どのみち一定数の人々からは嫌われただろう。それが少し早くなっただけの問題で。だから別に、そんなに痛くない。予想していたことだから。

「ウィクトルが信じていてくれるなら、別に、気にしないわ」
『もちろん……私は君を信頼している。だからこそ言おう。くれぐれも気をつけてくれ。傷つくことがないように』

 そのまま通話は終わってしまった。

 ウィクトルは私のことを心配でしてくれていた。それは感謝すべきことなのだろう。しかし、個人的にはそれ以外の話もしたかった。たとえば、ウィクトルたちの暮らしの様子を聞いたりだとか。そういうこともできればしたいなと思っていたのだが、それは叶わずじまいだ。

「終わられたのでございますか?」

 二人で自由に話せるように、と気を遣って手洗い場の方へ行ってくれていたリベルテが、通話終了を察したらしく戻ってくる。

「えぇ。終わったわ」
「お疲れ様です」

 私は通話に使う板状の機械をリベルテに返す。

「どうでした? 主は元気そうでございましたか?」
「えぇ。心配してくれていたわ、私のこと」
「あ。す……すみません、色々勝手に報告してしまって」
「いえ、話が早くて助かったわ。ありがとう」

 こちらから礼を述べると、リベルテは安堵したような顔をした。

「しかしどう致しましょうか……あのような噂、困ってしまいますよね」
「別に、気にしてないわ。反応しなければ、いつか飽きるはずよ」

 女性は噂が好きだから、新しい噂の種を手にして楽しくなっているのだろう。ただし、それは今だけ。時が経てば、皆、いずれ忘れていくはずだ。完全に忘却する時は来ないにしても。

「そう……でございますね。そのように考えるよう、努力致します」

 リベルテは苦笑する。
 彼は今日も優しくて、でも、どこか辛そうだった。


 ◆


 ウタがウィクトルと通話していた晩。
 シャルティエラがビタリーのもとを訪ねていた。

「ビタリー様! 会いに来ましたわ!」
「やぁ、君か」

 場所はビタリーの部屋。多くの女性たちと遊んでいるのとはまた違う、彼専用の一室だ。豪華な家具が並ぶその室内を、シャルティエラは、青と緑が混じったような色をした髪をなびかせながら歩いていく。
 未来の皇帝ともあろう人の部屋に入る許可を彼女が持っているのは、彼女が良家の令嬢だから。しかし、良い身分の令嬢だからといって誰でも入ることができるということではない。彼女は、ビタリーから、個人的には入室許可を貰っている。だから入れるのだ。

「少し久々ですわね。ごめんなさい、こんな夜分に」
「いや、べつにいい。けど、どうして夜にやって来たんだい? まさか、僕に会いたくて眠れず?」

 ちなみに。ビタリーはというと、寝る前に少しばかりブドウジュースを楽しんでいるところだ。グラスに注がれている液体は僅かに赤を混ぜた紫色で、一見ワインのようだが、実際にはワインではない。アルコール成分は含まれていない、正真正銘のブドウのジュースである。

 シャルティエラはビタリーが座っている二人掛けソファに近づき、やがて、ビタリーの隣に腰を下ろした。

「噂、聞きましたわ。なんでも、あの女とティータイムを楽しまれたとか」
「あの女? 誰のことだい」

 注がれた液体の色を視認できる透明なグラスを、ビタリーは静かに傾ける。
 彼の喉に向かって流れる、ワインに似た色の飲み物。

「ウタ」

 シャルティエラははっきりと名を発した。

「……なるほど、そうか。そういうことだったのだね。知らなかったよ……まさか君にまで噂が流れているとは」

 ビタリーは驚かなかった。
 普通、他の女とのことを言われたら、少しくらいは動揺しそうなものだ。それも、皇子たる人間だから、なおさら。スキャンダルが今後の信頼に関わってくることは、ビタリーとて理解しているはずである。

「それで? それがどうかしたのかい」
「……あんな女とも遊ぶんですのね」

 不満げに言うシャルティエラを見て、ビタリーは唇に微かな笑みを浮かべた。

「彼女とは、特別なことは何もしていないよ。シャルティエラ、僕は君のことをきちんと大切に思っているさ。だから心配は要らない。君は黙って寄り添ってくれればそれでいいんだ」

 低くも軽やかさのある声でそう言って、グラスを握る手を僅かに動かす。ブドウジュースの中で球体の氷が揺れ、ガラス面に少し当たる。すると、夏を思わせる乾いた音が鳴った。
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