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150話「ウィクトルの重度過保護」
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ホーションで子どもたちに歌を披露し、帰宅すると、リベルテが迎えてくれた。
「戻られたのでございますね!」
相変わらず少々違和感のある言葉選びをする。けれども、長期にわたって聞き続けていれば、案外そんなものと思えるようになってくるものだ。今ではもう、いちいち引っかかることはない。
「えぇ」
「今日も歌を?」
「そうなの。ラジオ型翻訳機、助かってるわ」
貴方が取り寄せてくれたおかげよ、と告げると、リベルテは恥ずかしそうに首を左右に振る。
ちょうどその時、寝室兼リビングともいえる部屋からウィクトルが出てきた。
こちらへ視線を向けて「帰ってきていたのか」と述べるウィクトルは、ここしばらくの中で最も健康そうな顔をしていた。数日ゆっくりできているので、段々、精神的にも楽になってきたのかもしれない。
「ウタくんが歌いに出掛けていったと聞いてな。何かあったらと少し心配していた」
「あら、そうだったの。でも大丈夫よ。私のことは心配しないで」
ホーションは今やそれほど危険な土地ではない。少し出掛けたくらいで心配する必要はないだろう。少なくとも私はそう思っている。
「ならいいが。そうだ、先ほど聞いた話によれば、帝国の一部隊が壊滅したとか」
「壊滅……?」
ウィクトルの口から唐突に出てきた言葉に、戸惑いを隠せなかった。
そんな嘘を彼がつく必要はないので、きっと真実なのだろう。ただ、だからといって何でも容易く理解できるわけではない。
「ニュースでやっていた。壊滅させたのは、ラブブラブブラブラだとか」
「あの人たち……!」
彼らは独特の文化を持っていた、帝国の部隊を倒す力を持っていたとしてもおかしな話ではない。そして、彼らは帝国を憎んでいるようだった。それを思えば、ラブブラブブラブラ族の者たちが帝国の部隊を壊滅させたとしてもおかしな話ではないだろう。
「そんなことになってるのね……」
「あぁ。だから心配していたんだ。もし巻き込まれたら、と」
「そうだったのね、ありがとう。だけど、ホーションは普通だったわ。特に何の変化もなく、平和だったわよ」
武力を振りかざすような者が意外と近くにいるとしたら、万が一ということがあってもおかしくはない。今の平和は永久の平和ではない、ということだ。
いつ何時荒らしに来る者がいるか分からない、だからウィクトルは私の身を案じてくれていたということなのだろう。
現時点ではホーションに危機はない。危険な軍人も、危険な軍隊も、存在しないから。けれども、その穏やかな日々は決して永遠のものではなく。現状、危機は突然訪れる、と言っても過言ではないのだろう。
再び戦いが始まれば、平穏は壊される。
歌の披露なんてしている場合ではないし、子どもたちの笑顔も消えるだろうし、ホーションはまた今とは変わりきってしまう。
「……それは永遠じゃないのね」
翌朝、私はリベルテから依頼に関する話を聞いた。
それは私の歌を必要とする者からの依頼。聞いていくうちに判明したのは、依頼主がラインの関係者だということだった。
「どうなさいますか? ウタ様。今なら、一時的に帝国領内へ入っても、危険ということはないでしょうが……」
必要とされるなら行きたかった。
この歌を求めてくれる者がいるなら、そこへ行く価値がある——私はそう思う。
私が持つ力は小さい。そもそも私には歌しかないし、歌でできることなんて限られているのだ。だからこそ、それを欲する者がいるなら駆けつけたいと、そう考えている。
だが、ウィクトルは賛成しなかった。
「駄目だ。危険だ、そんなのは」
ウィクトルは誰よりも優しく、私のことを大切に思ってくれている。
だからこそ、行かせないよう反対意見を述べるのだろう。
「私、行けそうなのなら行きたいわ。歌が必要とされているのなら」
「何を言っているんだ。呑気過ぎる。聞けば、依頼主はあのラインとかいう男の親族なのだろう? 明らかに罠ではないか」
ウィクトルの言葉は厳しかった。
でもそれは真実だ。
ラインを殺めたのは私ではない、が、私の大切な人。それはつまり、間接的に私が殺めたようなものである。
親族がそこまで知っているかは分からない。
けれど、もし知っていたとしたら、この依頼が罠である可能性もゼロではない。
憎しみの対象である私を「歌ってほしい」という言葉で呼び出し、仇を討つ——そういう作戦ということだって考えられないことはないのだ。
でも、もし本当に純粋な依頼だったとしたら?
断れば残念な思いをさせてしまうこととなるのではないだろうか。
「何にせよ……もう少し情報が必要でございますかね……?」
「まさにソレ! 今そう言おうとしたところよ」
「ではどう致しましょう? 一度テレビ電話でも致しますか?」
「そうね……」
刹那、ウィクトルが「待て!」と割り込んでくる。しかも、彼の言葉はそれで止まらない。そこからさらに「ウタくん! そんな怪しい者と交流を持つ気なのか!?」などと言葉を投げつけてきた。
「ウィクトル、貴方、ちょっと過保護よ?」
この時ばかりは言い返してしまった。
彼があまりに一方的にごちゃごちゃ言ってくるものだから。
「何を言っている! 私はただ君のことを心配しているだけだ!」
「通話すら駄目って。貴方は私の父親か何かなの?」
私には父親がいたことがないから、あくまで想像。娘の人生にやたらと口出ししてくる父親というのはこんな感じなのだろうな、というイメージでの発言である。
「ち……!? ……い、いや、そうではないが」
「じゃあ何なのよ? その言い方は。これは駄目、あれは駄目、まるで保護者みたいじゃない!」
「い、いや……どちらかというと、私は君と二人で保護者になりた……」
「主。話が大きく脱線してしまっておりますが、それは」
「戻られたのでございますね!」
相変わらず少々違和感のある言葉選びをする。けれども、長期にわたって聞き続けていれば、案外そんなものと思えるようになってくるものだ。今ではもう、いちいち引っかかることはない。
「えぇ」
「今日も歌を?」
「そうなの。ラジオ型翻訳機、助かってるわ」
貴方が取り寄せてくれたおかげよ、と告げると、リベルテは恥ずかしそうに首を左右に振る。
ちょうどその時、寝室兼リビングともいえる部屋からウィクトルが出てきた。
こちらへ視線を向けて「帰ってきていたのか」と述べるウィクトルは、ここしばらくの中で最も健康そうな顔をしていた。数日ゆっくりできているので、段々、精神的にも楽になってきたのかもしれない。
「ウタくんが歌いに出掛けていったと聞いてな。何かあったらと少し心配していた」
「あら、そうだったの。でも大丈夫よ。私のことは心配しないで」
ホーションは今やそれほど危険な土地ではない。少し出掛けたくらいで心配する必要はないだろう。少なくとも私はそう思っている。
「ならいいが。そうだ、先ほど聞いた話によれば、帝国の一部隊が壊滅したとか」
「壊滅……?」
ウィクトルの口から唐突に出てきた言葉に、戸惑いを隠せなかった。
そんな嘘を彼がつく必要はないので、きっと真実なのだろう。ただ、だからといって何でも容易く理解できるわけではない。
「ニュースでやっていた。壊滅させたのは、ラブブラブブラブラだとか」
「あの人たち……!」
彼らは独特の文化を持っていた、帝国の部隊を倒す力を持っていたとしてもおかしな話ではない。そして、彼らは帝国を憎んでいるようだった。それを思えば、ラブブラブブラブラ族の者たちが帝国の部隊を壊滅させたとしてもおかしな話ではないだろう。
「そんなことになってるのね……」
「あぁ。だから心配していたんだ。もし巻き込まれたら、と」
「そうだったのね、ありがとう。だけど、ホーションは普通だったわ。特に何の変化もなく、平和だったわよ」
武力を振りかざすような者が意外と近くにいるとしたら、万が一ということがあってもおかしくはない。今の平和は永久の平和ではない、ということだ。
いつ何時荒らしに来る者がいるか分からない、だからウィクトルは私の身を案じてくれていたということなのだろう。
現時点ではホーションに危機はない。危険な軍人も、危険な軍隊も、存在しないから。けれども、その穏やかな日々は決して永遠のものではなく。現状、危機は突然訪れる、と言っても過言ではないのだろう。
再び戦いが始まれば、平穏は壊される。
歌の披露なんてしている場合ではないし、子どもたちの笑顔も消えるだろうし、ホーションはまた今とは変わりきってしまう。
「……それは永遠じゃないのね」
翌朝、私はリベルテから依頼に関する話を聞いた。
それは私の歌を必要とする者からの依頼。聞いていくうちに判明したのは、依頼主がラインの関係者だということだった。
「どうなさいますか? ウタ様。今なら、一時的に帝国領内へ入っても、危険ということはないでしょうが……」
必要とされるなら行きたかった。
この歌を求めてくれる者がいるなら、そこへ行く価値がある——私はそう思う。
私が持つ力は小さい。そもそも私には歌しかないし、歌でできることなんて限られているのだ。だからこそ、それを欲する者がいるなら駆けつけたいと、そう考えている。
だが、ウィクトルは賛成しなかった。
「駄目だ。危険だ、そんなのは」
ウィクトルは誰よりも優しく、私のことを大切に思ってくれている。
だからこそ、行かせないよう反対意見を述べるのだろう。
「私、行けそうなのなら行きたいわ。歌が必要とされているのなら」
「何を言っているんだ。呑気過ぎる。聞けば、依頼主はあのラインとかいう男の親族なのだろう? 明らかに罠ではないか」
ウィクトルの言葉は厳しかった。
でもそれは真実だ。
ラインを殺めたのは私ではない、が、私の大切な人。それはつまり、間接的に私が殺めたようなものである。
親族がそこまで知っているかは分からない。
けれど、もし知っていたとしたら、この依頼が罠である可能性もゼロではない。
憎しみの対象である私を「歌ってほしい」という言葉で呼び出し、仇を討つ——そういう作戦ということだって考えられないことはないのだ。
でも、もし本当に純粋な依頼だったとしたら?
断れば残念な思いをさせてしまうこととなるのではないだろうか。
「何にせよ……もう少し情報が必要でございますかね……?」
「まさにソレ! 今そう言おうとしたところよ」
「ではどう致しましょう? 一度テレビ電話でも致しますか?」
「そうね……」
刹那、ウィクトルが「待て!」と割り込んでくる。しかも、彼の言葉はそれで止まらない。そこからさらに「ウタくん! そんな怪しい者と交流を持つ気なのか!?」などと言葉を投げつけてきた。
「ウィクトル、貴方、ちょっと過保護よ?」
この時ばかりは言い返してしまった。
彼があまりに一方的にごちゃごちゃ言ってくるものだから。
「何を言っている! 私はただ君のことを心配しているだけだ!」
「通話すら駄目って。貴方は私の父親か何かなの?」
私には父親がいたことがないから、あくまで想像。娘の人生にやたらと口出ししてくる父親というのはこんな感じなのだろうな、というイメージでの発言である。
「ち……!? ……い、いや、そうではないが」
「じゃあ何なのよ? その言い方は。これは駄目、あれは駄目、まるで保護者みたいじゃない!」
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「主。話が大きく脱線してしまっておりますが、それは」
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