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前編
しおりを挟む婚約を機に婚約者リゾルテの実家へと住むことを求められた私リシリアは奴隷のような扱いをずっと受け続けている。
早朝、まだ誰も起きていないような薄暗い時間に起きて、まずは屋敷を一人で掃除させられる。で、それが終わる頃にちょうど皆が起きてくるのだが、大抵そのタイミングで清掃したばかりの屋敷を皆が一斉にわざと汚す。
リゾルテは廊下じゅうに痰を吐き散らし、彼の父親はたばこの吸い殻についている粉のようなものと水を混ぜた液体をカーペットに垂らし、彼の母親はキッチンからわざわざ小麦粉やら酒やら何やらを運んできて部屋じゅうにばらまく。
そして、それをまた掃除させられるのである。
――完全に嫌がらせだと思う。
でも抵抗するすべはない。
やめてくださいなんて言えないし言ってもきっと聞いてもらえないだろう。
私はここでは奴隷――いや、奴隷以下の存在なのだ。
皆に虐められるのが仕事と言っても過言ではない。
他人に迷惑をかけて生きてきたわけではない。誰かを傷つけたことだってそれほどない。ゼロではないかもしれないがそんなのは誰だってそうだろうから思考から外すとして。他人を傷つけて生きてきたわけではないのだ、私は。それなりにまっとうに歩んできた。
なのに、リゾルテと婚約したがためにこんな目に遭うこととなってしまったのである。
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