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2話「救世主のような人」

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 私は追放された。
 そして、どうしようもなくなって困っていたところ、見知らぬ青年に声をかけられた。

 彼の正体はまだはっきりしない。が、私が聖女であることを知っているようだ。もっとも、私という人間が聖女として祀られているということは隠されていることではないから、一般国民が知っていてもおかしくはないのだけれど。

「それは気の毒でしたね」
「……ありがとうございます」

 彼が何者かは知らないけれど、共感の意を示してくれるところは嫌いでない。

「もし行かれるところがないのでしたら、僕の家へ来ませんか」
「……いきなりそのようなことを言われましても」
「あぁすみません。順調が間違っていましたね。僕の名はヤンバレ・ウィーダといいます」

 聞き慣れない名前だ。
 この国の出身ではないのかもしれない。

「ヤンバレさんですね」
「はい」
「それで、どうして私を誘うのですか?」
「気の毒過ぎるからです」

 直球過ぎて驚いた。
 こんなにはっきり理由を答えてもらえるなんて思わなかった。

 だが、迷いなく質問に答えるところを見ていたら、悪い人ではないのではないかと思えてきた。企みを抱いているような人なのなら、もう少し色気のある答えを口にする気がする。それをせず、飾り気のない答え方をするということが、悪人である可能性を下げていると思う。

「ありがとうございます、ヤンバレさん。ぜひよろしくお願いします」

 初対面の人についていくことに不安がないと言えば嘘になる。けれども、このまま放っておいたら、いずれは飢え死にしてしまうだろう。一人寂しく飢え死にすることになるくらいなら、彼についていくというのも一つの選択肢だろう。

「良かった……! では案内しますね」

 ヤンバレは僅かに頬を緩め、嬉しそうな色を面に滲ませる。
 案外分かりやすい人だ。

「はい、お願いします」
「ではこちらへ」
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