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37話 「友達のように」
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医務室のドアが唐突に開く。私は一瞬敵が来たのかと思いドキッとしたが、そこに立っていたのはジェシカとノアだった。ノアは怪我をしたのか、ジェシカに支えてもらっている。
「先生いるーっ!? ……あ!」
ジェシカは私に気づいたらしく手を振ってくれる。私は戸惑いつつも手を振り返す。その間に医者の天使がノアを椅子に座らせていた。
「オー! 王女様の知り合いのお二人デスネー!」
ラピスが陽気に声をかけながら二人の方へ寄っていったので、私もそれに続いて二人の方へ行くことにする。するとジェシカが明るく言ってくる。
「王女様、無事だったんだね。良かった」
「私は何とか、ね。エリアスに助けてもらったおかげよ」
エリアスがいてくれなければ本当に危ないところだった。彼がいなければ少なくとも捕まっていただろうし、最悪殺されていてもおかしくない状況だったのだから、エリアスには感謝しかない。
「二人は何をしていたの? ノアさん怪我してるみたいだけど大丈夫?」
すると話を聞いていたらしいノアが、椅子に腰かけたままで軽い口調で答える。
「大丈夫だよー。平気平気ー」
あまりに呑気に言うものだから、たいした傷ではないのかなと思いつつ彼の足を覗き込む。そして私は驚いた。右足の足首から膝の間辺りに、十五センチぐらいの切り傷があったから。それも結構深そう。医者が止血しようと使っているタオルにも血が滲んでいる。こんな怪我をしたのがもし私だったら、と考えて身震いする。
駄目だ、気分が悪い。
「これはまた派手にやったな。何をしていた?」
ノアの足を見ようと覗き込みながら尋ねたのはエリアスだった。
「隊長だー。元気そうでなによりだよー」
「問いに答えろ」
エリアスは真顔で迫る。
「うん。ジェシカとみんなの避難誘導してたら突然瓦礫が降ってきてねー、切れちゃったー」
何とも適当な説明だ。そもそもノアはどうしてここまでどうもないのか。
それにしても、何だかフワフワしてきたな……。視界も少し変な気がするし……。
「いつものように体を防御膜で覆っていなかったのか? こんな時に」
「聖気は全部、避難する天使たちを守る方に使ってたからー。ついうっかり、こんなことになっちゃったよー」
「大事なくて良かったが、しっかりしてくれよ。ノア」
それに何だが意識がおかしくなってきた……何これ……。ふらふらする、転けそう。
「エリアス、ちょっとはあたしの心配もしてよ! あたしは女の子なんだから!」
「ジェシカはピンクの髪が可愛イネーッ!」
「うわぁっ。いきなり何よ!?」
「いった! 痛い、痛いってー! 消毒は待ってー!」
「まず落ち着け、ノア」
駄目なパターンだ、視界が暗くなってくる。耳も水中にいるみたいでおかしい。これは一体な……。
そこで意識は切れた。
意識が戻り、目を開ける。視界には白い天井だけが入った。そこから私は室内にいるのだということを察する。だがどこの部屋だろう。自室ではない、天井の材質が違う。
嗅ぎ慣れない甘い香りが私を包み込むように漂っている。私は、まだはっきりしない意識の中で、記憶を探る。この甘くていい香りは一度嗅いだことがある。そんな気がしたから。
そうだった。香りの記憶を探っているうちに、私は気を失う前のことを思い出す。
まず建国記念祭が始まって、挨拶をなんとか上手に済ませた。だが挨拶が終わった直後に、突然悪魔の群れが現れて、折角のお祭りを滅茶苦茶にした。それから四魔将の一人である銀髪のベルンハルトに襲われ、エリアスの機転のおかげで取り敢えず逃げられて……。
「王女! 王女、意識が戻られましたか?」
エリアスの声が私を呼ぶ。
意識はとうに戻っているが、なぜか動きたくない。突然体重が増えたみたいに体が重い。
「王女様、朝だよー」
「朝、来まシターッ」
次はノアとラピスの声。
……そうだ! 思い出した!
あの甘い香りはラピスの全身から漂う香り。
私が気を失う直前は、ノアの足の怪我について話していたのだった。
そこで私はようやく目を大きく開くことができた。見える世界が一気に広がる。何も特別なことではない。これが普段の普通の視界だ。
「そうだった!」
私は慌てて上半身を起こす。医務室のベッドの上だった。まじまじと眺めていたノアとラピスはもちろん、近くにいたエリアスやジェシカも驚いた表情になる。
すぐ隣にあるもう一台のベッドに目をやると、ヴァネッサが眠っていた。すぅすぅと穏やかな寝息を立てている。彼女の寝顔が苦しそうなものでなく安心した。私のせいで彼女がうなされていたならば、申し訳なくて合わせる顔がない。
「い、いきなりだねー」
ノアが驚いたまま苦笑する。さっきまで寝ていたのに急に飛び起きたのだから、彼が驚くのも無理はない。
「王女! 起きられましたか!」
一方エリアスは驚いた表情から嬉しそうな表情に変わった。私が目覚めたという興奮からか、少し頬が紅潮している。
「王女様、貧血で倒れたんだよ。みんなびっくりした!」
教えてくれたのはジェシカ。
「気がついてなによりデス!」
ラピスもそう言ってくれた。
私はこんなにも多くの天使に支えられている。大切にされている。それを改めて時間に、温かな気持ちになった。エリアスは当然ながら、ジェシカもノアも、ラピスだって、私を大切に思ってくれている。それも、ただ私が王女だからというだけではなく、友達のように接してくれるのだ。それに気づいた。
私には仲間がいる。だから、どんな困難だって乗り越えられるわ。滅亡の未来なんてはね除けて、また平和に暮らすの。
私は心の中で、あの黒い女に向かって言ってやった。
「先生いるーっ!? ……あ!」
ジェシカは私に気づいたらしく手を振ってくれる。私は戸惑いつつも手を振り返す。その間に医者の天使がノアを椅子に座らせていた。
「オー! 王女様の知り合いのお二人デスネー!」
ラピスが陽気に声をかけながら二人の方へ寄っていったので、私もそれに続いて二人の方へ行くことにする。するとジェシカが明るく言ってくる。
「王女様、無事だったんだね。良かった」
「私は何とか、ね。エリアスに助けてもらったおかげよ」
エリアスがいてくれなければ本当に危ないところだった。彼がいなければ少なくとも捕まっていただろうし、最悪殺されていてもおかしくない状況だったのだから、エリアスには感謝しかない。
「二人は何をしていたの? ノアさん怪我してるみたいだけど大丈夫?」
すると話を聞いていたらしいノアが、椅子に腰かけたままで軽い口調で答える。
「大丈夫だよー。平気平気ー」
あまりに呑気に言うものだから、たいした傷ではないのかなと思いつつ彼の足を覗き込む。そして私は驚いた。右足の足首から膝の間辺りに、十五センチぐらいの切り傷があったから。それも結構深そう。医者が止血しようと使っているタオルにも血が滲んでいる。こんな怪我をしたのがもし私だったら、と考えて身震いする。
駄目だ、気分が悪い。
「これはまた派手にやったな。何をしていた?」
ノアの足を見ようと覗き込みながら尋ねたのはエリアスだった。
「隊長だー。元気そうでなによりだよー」
「問いに答えろ」
エリアスは真顔で迫る。
「うん。ジェシカとみんなの避難誘導してたら突然瓦礫が降ってきてねー、切れちゃったー」
何とも適当な説明だ。そもそもノアはどうしてここまでどうもないのか。
それにしても、何だかフワフワしてきたな……。視界も少し変な気がするし……。
「いつものように体を防御膜で覆っていなかったのか? こんな時に」
「聖気は全部、避難する天使たちを守る方に使ってたからー。ついうっかり、こんなことになっちゃったよー」
「大事なくて良かったが、しっかりしてくれよ。ノア」
それに何だが意識がおかしくなってきた……何これ……。ふらふらする、転けそう。
「エリアス、ちょっとはあたしの心配もしてよ! あたしは女の子なんだから!」
「ジェシカはピンクの髪が可愛イネーッ!」
「うわぁっ。いきなり何よ!?」
「いった! 痛い、痛いってー! 消毒は待ってー!」
「まず落ち着け、ノア」
駄目なパターンだ、視界が暗くなってくる。耳も水中にいるみたいでおかしい。これは一体な……。
そこで意識は切れた。
意識が戻り、目を開ける。視界には白い天井だけが入った。そこから私は室内にいるのだということを察する。だがどこの部屋だろう。自室ではない、天井の材質が違う。
嗅ぎ慣れない甘い香りが私を包み込むように漂っている。私は、まだはっきりしない意識の中で、記憶を探る。この甘くていい香りは一度嗅いだことがある。そんな気がしたから。
そうだった。香りの記憶を探っているうちに、私は気を失う前のことを思い出す。
まず建国記念祭が始まって、挨拶をなんとか上手に済ませた。だが挨拶が終わった直後に、突然悪魔の群れが現れて、折角のお祭りを滅茶苦茶にした。それから四魔将の一人である銀髪のベルンハルトに襲われ、エリアスの機転のおかげで取り敢えず逃げられて……。
「王女! 王女、意識が戻られましたか?」
エリアスの声が私を呼ぶ。
意識はとうに戻っているが、なぜか動きたくない。突然体重が増えたみたいに体が重い。
「王女様、朝だよー」
「朝、来まシターッ」
次はノアとラピスの声。
……そうだ! 思い出した!
あの甘い香りはラピスの全身から漂う香り。
私が気を失う直前は、ノアの足の怪我について話していたのだった。
そこで私はようやく目を大きく開くことができた。見える世界が一気に広がる。何も特別なことではない。これが普段の普通の視界だ。
「そうだった!」
私は慌てて上半身を起こす。医務室のベッドの上だった。まじまじと眺めていたノアとラピスはもちろん、近くにいたエリアスやジェシカも驚いた表情になる。
すぐ隣にあるもう一台のベッドに目をやると、ヴァネッサが眠っていた。すぅすぅと穏やかな寝息を立てている。彼女の寝顔が苦しそうなものでなく安心した。私のせいで彼女がうなされていたならば、申し訳なくて合わせる顔がない。
「い、いきなりだねー」
ノアが驚いたまま苦笑する。さっきまで寝ていたのに急に飛び起きたのだから、彼が驚くのも無理はない。
「王女! 起きられましたか!」
一方エリアスは驚いた表情から嬉しそうな表情に変わった。私が目覚めたという興奮からか、少し頬が紅潮している。
「王女様、貧血で倒れたんだよ。みんなびっくりした!」
教えてくれたのはジェシカ。
「気がついてなによりデス!」
ラピスもそう言ってくれた。
私はこんなにも多くの天使に支えられている。大切にされている。それを改めて時間に、温かな気持ちになった。エリアスは当然ながら、ジェシカもノアも、ラピスだって、私を大切に思ってくれている。それも、ただ私が王女だからというだけではなく、友達のように接してくれるのだ。それに気づいた。
私には仲間がいる。だから、どんな困難だって乗り越えられるわ。滅亡の未来なんてはね除けて、また平和に暮らすの。
私は心の中で、あの黒い女に向かって言ってやった。
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