エンジェリカの王女

四季

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42話 「生きているから」

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 私は微かに感じるエリアスの聖気だけを頼りに彼を探した。散乱する瓦礫を乗り越え、燃えているものには触れないよう注意しながら、ひたすら歩き続ける。生まれてからずっと護られてきた私にとってはこんなことは初めての体験だ。多少の不安はあれど怖くはない。希望という光があるから。

 何度瓦礫の山を乗り越えただろうか。ついに倒れているエリアスの姿を発見し、急いで駆け寄る。

「エリアス! エリアス、聞こえる? ……気絶してる」

 遠い昔に習った生存確認の方法を頭の隅から掘り起こし、彼の手首の親指よりに手を当ててみる。トクトクと、弱々しいが脈を感じられた。やはり生きている! 血は自然に止まったらしく固まっている。

 「どうしよう……」と悩んでいると、ちょうど近くから声が聞こえてきた。

「王女様ー」

 聞いたことのある声に慌ててキョロキョロ周りを見る。そしてついに声の主を発見した。

「ノアさん!」

 薄紫の髪ですぐに分かった。ジェシカを背負っている。私たちはすぐに合流した。

「王女様、無事だったんだねー。良かった良かった。でも、一体何が起きたのかなー?」

 呑気に笑っている。良かった、元気そうだ。彼よりも、彼が背負っているジェシカの方が心配である。

「ジェシカさんは……?」
「あー、うん。大丈夫だよー。びっくりして失神してるだけだから、そのうち起きるんじゃないかなー」

 良かった、と心の底から安堵する。もう二度と会えないと思っていたみんなにまた会えるなんて……また泣きそう。でも今はまったりと再会を喜んでいる場合ではない。

「エリアス、まだ生きているの。早く手当てをしなくちゃ」
「うん。そーだねー。まずはどうするー?」

 呆れるくらい呑気な性格。だけど、その呑気さに救われることもあるのだなって、今はそう思う。

「まず安全なところに運んで、それから……」

 どうするべきかなんて分かるわけがない。
 私は医療に関する知識など持っていないのだ。

「じゃあ、取り敢えず救護班のところまで運ぼうかー。まずはジェシカをここに置いてー」

 ノアは背負っている気絶したジェシカを地面に横たわらせる。……えっ、置いていくの?

「ジェシカさんも一緒に運ばなくちゃならないんじゃ」
「うん。けど、僕は力がないから二人も運べないよー」

 確かにノアは力持ちではなさそうだが、だからといってジェシカをこんなところに置いていくのはいかがなものか。しかし、気絶しているエリアスとジェシカを、私とノアだけで運ぶのは至難の業である。

「僕が協力してやろうかっ!?」

 背後から懐かしい声がして振り返る。そこにはS字ポーズをしたライヴァンが立っていた。黄色に近い金髪と紫の瞳がとても懐かしい。

「……何しに来たのかなー」

 ライヴァンの姿を目にして、ノアは警戒したような硬い表情になる。

「僕が協力してやろうかっ!?」

 ライヴァンは同じポーズのまま、もう一度言った。どうやら私たちと戦う気はなさそう。

「…………」

 私もノアも言葉を失った。

「もういい! 負傷者を運ぶ!」

 言葉選びに困っている私たちのことは無視して、気絶したエリアスを片手でひょいと持ち上げる。とても軽そうに。

「……ライヴァン。貴方、手伝ってくれるの?」

 私はまだ状況を飲み込めないまま尋ねる。すると口を尖らせて返してくる。

「お人好し王女は本当にお人好しだな! 僕はただ負傷者を探していただけだっ」

 しかし、少し頬が赤くなっていた。
 馬鹿みたいだが、今はありがたい気がする。

「こいつは救護所へ運ぶ。そこの女は君たちで運ぶがいい」

 ノアは一度地面に置いたジェシカを再び持ち上げ背負う。

「じゃあ僕が運ぶよー。王女様はライヴァンと一緒に隊長をよろしくー」

 私はまだライヴァンを信じられなかったが、ノアは彼をすっかり信じているようだった。


 ほぼ外のような状態の簡易救護所は負傷者で溢れかえっていた。一言に負傷者といっても、擦り傷や打ち身のような軽傷から意識がない重症まで、その状態は様々である。

「負傷者はこちらへー! 意識のある方はこちら! 意識のない方はこちらへ! 出血の方はここで速やかに止血を行いますー!」

 看護師の天使が叫んでいた。負傷者もそれ以外も含め天使の数が多すぎて騒がしいため、大声で叫ばなければ聞こえないのだろう。

「麗しい僕が患者を連れてきた! すぐに手当てしてくれ」

 言っていることはいつも通りで呆れるが、その表情はいつになく真剣だった。顔つきを見れば今回は嘘をついていないと分かる。

「はい。……重症ですね。ではこちらに」

 看護師の天使は空いていた数少ない簡易ベッドの一台に気絶したエリアスを横たわらせる。これでひとまず安心か。私は横たわり眠るエリアスの片手をそっと手に取る。

「私たち、お似合いね」

 彼の手は血がこびりついて赤く染まっている。私の純白のドレスも真っ赤に染まっている。ぴったりだと思う。

「ライヴァン、助けてくれてありがとう」

 私は純粋に感謝していた。素直に「ありがとう」と言うことができた。

「……ふん。相変わらずお人好し王女だな、悪魔に礼を言うとは」

 ライヴァンは感謝されて恥ずかしかったのか、らしくなく赤面して視線を逸らす。それを見て温かな気持ちになった。

「悪魔だからといってお礼を言わない理由にはならないわ。助けてもらってありがとうって言うのは普通でしょ」
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