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44話 「運命を変える」
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親衛隊員の一人によって招かれたのは、王宮から少し離れたところになる教会だった。真っ白な背の高い建物は、原形を留めている。王宮から少し離れているため、私の聖気の暴発による爆発から辛うじて免れたのだろう。
「どうぞ」
高さのある重そうな扉を親衛隊員が開ける。そこには、私の父、ディルク王が静かに佇んでいた。私は親衛隊員に促され、教会の中へ進む。
「お父様……」
晩餐会の件を話した日以来か。私たちは実の親子だが、親子と呼ぶにはあまりによそよそしい関係である。
「アンナ。お前は自分が何をしたのか分かっているのか」
ディルク王は静かにそう告げた。周囲には部下である親衛隊員たちがいて、様子を無言で見守っている。少し怖いくらいだ。
「お前はエンジェリカの王女。そうだな?」
私は緊張しながらこくりと頷く。声は出せなかった。
「王女のお前がエンジェリカの王宮を破壊した。それがどういう意味か……分かっているな」
嫌なぐらいの静けさ。凍りつきそうな冷たい視線。この場に味方が一人もいないという孤独感。決意したばかりで既に挫けそうになった私は、「負けるな」と自分自身を鼓舞する。
「エンジェリカには過去にも、自国を破壊した王女がいたと聞く。その王女がどうなったか、知っているか?」
「……死刑」
「そうだ。自国を破壊する王女など認めるわけにはいかない。よってお前を、死刑とする」
そう言われると分かっていた。当然だ。……私は大人しく死刑になんてなるものか。最後まで絶対諦めない。
「お父様! ……私を死刑なんかにしていいの? 私がいなくなれば、この国は終わるわ。跡継ぎは他にいないのよ」
言ってやった。私は今まで、ディルク王の命令にはなるべく大人しく従ってきたが、こればかりは従えない。私の生き死にがかかっているのだから。
「禍々しい王女をここにいさせるよりましだ!」
ディルク王は鋭く怒鳴る。怒鳴れば従うと思っているようだ。
今までは、ずっとそうだったから。
「親衛隊! 連れていけ!」
その叫び声と同時に、周囲にいた親衛隊が寄ってきた。両腕を乱暴に掴まれる。
「ちょっと、何するの? 離して! 離してちょうだい!」
私が暴れて抵抗したところで親衛隊員からは逃れられない。何せ親衛隊、彼らは強い。
『アンナ……、やはりお前も私と同じだ。同じ力を持ち、同じ運命を辿る』
脳裏に女の言葉が蘇る。
……変えられないかもしれない。もう諦めかけている、死を受け入れかけている自分がいた。私は心の中で首を横に振る。弱気になっては駄目だ。今は私を捕らえる二人の親衛隊員から逃れることだけを考えなくては。
離れろ! 離れろ!
身を振り必死に抵抗しながら、心の中でその言葉を繰り返す。
「離れろ!」
心の中での叫びが思わず口から滑り出た時、私を捕らえていた二人の親衛隊員が吹き飛んだ。
……今のは、聖気?
身構えていなかった彼らは、飛ばされ柱に激突する。その隙に私は勢いよく駆け出した。教会を出る。
「逃がすな! アンナを追え!」
背後からディルク王の叫び声が聞こえた。実の娘に対してよくそんなことが言えるものだ。まるで罪人のように……いや、今の私は罪人なのか。
そんなことを考えながら走っていると、後ろから親衛隊員が追ってきているのを感じた。まずい、追いつかれる。私は必死で駆けた。飛ぶのも一つの選択肢ではあるが、飛びなれていないためすぐに追いつかれるだろう。だから私は走ることを選んだ。……そんなことはどうでもいいが。
私は取り敢えず王宮があった方向へ走った。無我夢中に走る。
やがて簡易救護所が見えてくる。
あそこにはノアたちがいるから、もしかしたら助けてもらえるかもしれない。そんな小さな希望を抱き、簡易救護所の方へ向かう。
ノアの姿が視界に入った。
「あ、王女様——」
呑気な顔をしているノアに、私は勢いよく突っ込んだ。
「な、何事ー……?」
「……いったぁ……」
走り慣れていない私の足に急停止は無理だった。ノアと私は絡まるように、近くの簡易テーブルを倒して転けた。
……こんなこと滅多にない。
「ちょっとノア! 何して——、えっ。王女様っ!?」
倒れた私とノアを上から覗き込んできたのはジェシカだった。
「ジェシカさん! 意識が戻って……」
「う、うん。それより王女様、ベルンハルトは? あいつはどこにいるの?」
そういえば、あの爆発からベルンハルトの姿は見かけていないな……って、そんなこと話してる時間はない!
「それより! 助けて! 私、殺されるわ!」
「えっ? えっ?」
ジェシカは話についてこれず困った顔をしている。
その時、私を追ってきていた親衛隊員たちが、やっと追いついてきた。各々の武器を構え、私たちをほぼ取り囲むような状態になっている。
「アンナ王女を捕らえろ!」
リーダー格の男性が言った。
「ちょ、何これ!? 何これ、どういう状況っ!?」
「王女様が狙われてるねー」
ノアは転んだときに打った腰をさすりながら立ち上がる。
「いや、狙われてるね、じゃないでしょ! 相手悪魔じゃなくて親衛隊だし、何これ!?」
ジェシカは状況を飲み込めず一人騒いでいた。天使が天使に狙われているのだから理解不能なのも無理はないが。
「うーん……これは敵カウントでいいのかなー?」
武装した親衛隊に囲まれていてもノアは落ち着いていた。むしろ「もう少し危機感を持つべきでは?」と疑問に思うほど。
「桃色の女と紫の男! アンナ王女を引き渡せ」
リーダー格の男性が命じると、ジェシカとノアは顔を見合わせ、一度頷く。
「君たち……さぁ」
ノアがわざとらしく普段より大きめの声で言う。
「こんな可愛い子いじめて、何が楽しいのかなー」
「だよねっ。まぁでも」
そう言いながらジェシカは聖気を集めて作った剣を構える。
「王女様を狙うやつは全員敵! いっちょやるか!」
「どうぞ」
高さのある重そうな扉を親衛隊員が開ける。そこには、私の父、ディルク王が静かに佇んでいた。私は親衛隊員に促され、教会の中へ進む。
「お父様……」
晩餐会の件を話した日以来か。私たちは実の親子だが、親子と呼ぶにはあまりによそよそしい関係である。
「アンナ。お前は自分が何をしたのか分かっているのか」
ディルク王は静かにそう告げた。周囲には部下である親衛隊員たちがいて、様子を無言で見守っている。少し怖いくらいだ。
「お前はエンジェリカの王女。そうだな?」
私は緊張しながらこくりと頷く。声は出せなかった。
「王女のお前がエンジェリカの王宮を破壊した。それがどういう意味か……分かっているな」
嫌なぐらいの静けさ。凍りつきそうな冷たい視線。この場に味方が一人もいないという孤独感。決意したばかりで既に挫けそうになった私は、「負けるな」と自分自身を鼓舞する。
「エンジェリカには過去にも、自国を破壊した王女がいたと聞く。その王女がどうなったか、知っているか?」
「……死刑」
「そうだ。自国を破壊する王女など認めるわけにはいかない。よってお前を、死刑とする」
そう言われると分かっていた。当然だ。……私は大人しく死刑になんてなるものか。最後まで絶対諦めない。
「お父様! ……私を死刑なんかにしていいの? 私がいなくなれば、この国は終わるわ。跡継ぎは他にいないのよ」
言ってやった。私は今まで、ディルク王の命令にはなるべく大人しく従ってきたが、こればかりは従えない。私の生き死にがかかっているのだから。
「禍々しい王女をここにいさせるよりましだ!」
ディルク王は鋭く怒鳴る。怒鳴れば従うと思っているようだ。
今までは、ずっとそうだったから。
「親衛隊! 連れていけ!」
その叫び声と同時に、周囲にいた親衛隊が寄ってきた。両腕を乱暴に掴まれる。
「ちょっと、何するの? 離して! 離してちょうだい!」
私が暴れて抵抗したところで親衛隊員からは逃れられない。何せ親衛隊、彼らは強い。
『アンナ……、やはりお前も私と同じだ。同じ力を持ち、同じ運命を辿る』
脳裏に女の言葉が蘇る。
……変えられないかもしれない。もう諦めかけている、死を受け入れかけている自分がいた。私は心の中で首を横に振る。弱気になっては駄目だ。今は私を捕らえる二人の親衛隊員から逃れることだけを考えなくては。
離れろ! 離れろ!
身を振り必死に抵抗しながら、心の中でその言葉を繰り返す。
「離れろ!」
心の中での叫びが思わず口から滑り出た時、私を捕らえていた二人の親衛隊員が吹き飛んだ。
……今のは、聖気?
身構えていなかった彼らは、飛ばされ柱に激突する。その隙に私は勢いよく駆け出した。教会を出る。
「逃がすな! アンナを追え!」
背後からディルク王の叫び声が聞こえた。実の娘に対してよくそんなことが言えるものだ。まるで罪人のように……いや、今の私は罪人なのか。
そんなことを考えながら走っていると、後ろから親衛隊員が追ってきているのを感じた。まずい、追いつかれる。私は必死で駆けた。飛ぶのも一つの選択肢ではあるが、飛びなれていないためすぐに追いつかれるだろう。だから私は走ることを選んだ。……そんなことはどうでもいいが。
私は取り敢えず王宮があった方向へ走った。無我夢中に走る。
やがて簡易救護所が見えてくる。
あそこにはノアたちがいるから、もしかしたら助けてもらえるかもしれない。そんな小さな希望を抱き、簡易救護所の方へ向かう。
ノアの姿が視界に入った。
「あ、王女様——」
呑気な顔をしているノアに、私は勢いよく突っ込んだ。
「な、何事ー……?」
「……いったぁ……」
走り慣れていない私の足に急停止は無理だった。ノアと私は絡まるように、近くの簡易テーブルを倒して転けた。
……こんなこと滅多にない。
「ちょっとノア! 何して——、えっ。王女様っ!?」
倒れた私とノアを上から覗き込んできたのはジェシカだった。
「ジェシカさん! 意識が戻って……」
「う、うん。それより王女様、ベルンハルトは? あいつはどこにいるの?」
そういえば、あの爆発からベルンハルトの姿は見かけていないな……って、そんなこと話してる時間はない!
「それより! 助けて! 私、殺されるわ!」
「えっ? えっ?」
ジェシカは話についてこれず困った顔をしている。
その時、私を追ってきていた親衛隊員たちが、やっと追いついてきた。各々の武器を構え、私たちをほぼ取り囲むような状態になっている。
「アンナ王女を捕らえろ!」
リーダー格の男性が言った。
「ちょ、何これ!? 何これ、どういう状況っ!?」
「王女様が狙われてるねー」
ノアは転んだときに打った腰をさすりながら立ち上がる。
「いや、狙われてるね、じゃないでしょ! 相手悪魔じゃなくて親衛隊だし、何これ!?」
ジェシカは状況を飲み込めず一人騒いでいた。天使が天使に狙われているのだから理解不能なのも無理はないが。
「うーん……これは敵カウントでいいのかなー?」
武装した親衛隊に囲まれていてもノアは落ち着いていた。むしろ「もう少し危機感を持つべきでは?」と疑問に思うほど。
「桃色の女と紫の男! アンナ王女を引き渡せ」
リーダー格の男性が命じると、ジェシカとノアは顔を見合わせ、一度頷く。
「君たち……さぁ」
ノアがわざとらしく普段より大きめの声で言う。
「こんな可愛い子いじめて、何が楽しいのかなー」
「だよねっ。まぁでも」
そう言いながらジェシカは聖気を集めて作った剣を構える。
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