57 / 131
56話 「私の持つ力」
しおりを挟む
その日の夜、私は麗奈に電話をかけた。来週の月曜日にしていた会う約束を取り消そうと思って。しかし電話は繋がらなかった。仕方なく諦め、明日の朝にかけ直すことにした。
「ノアさん、ノアさん?」
椅子にぼんやりと座っていた彼に声をかける。だがしばらく返答がなかった。帰ってきてから彼はずっとこんな感じだ。
ジェシカが拐われた。
優しい性格の彼は私を責めはしなかったが、本当はショックを受けていたのかもしれない。
「ノアさん!」
少し声を大きくすると、彼はハッとしてこちらを向く。
「あ、王女様。何か用ー?」
何もなかったかのように装っているが、いつもより声のトーンが低い。……無理もない。小さい頃からずっと一緒だった相棒が拐われたのだから、ショックを受けるのも当然のことだ。
「ノアさん、私ね、少し練習してみたいと思うの」
言葉が現実になる不思議な力。あれを確実なものにすれば、ジェシカ救出に役立つかもしれない。そう思ったのだ。
「言葉が現実になる力を使いこなせるように練習するのー? いいよー。試してみようかー」
ノアは私が言わんとしていることを理解してくれ、そのうえ快く頷いてくれる。いつものことながら本当に良い天使だと思う。
準備は十分もかからなかった。
チラシを貼りつけた糸を天井から垂らす。左右に三つほど。
「これは……何をするの?」
私の脳内に疑問符が溢れる。一体何の練習をするための用意なのか。
「説明するねー。今から僕が右か左か真ん中って言うから、そのチラシを破ってみてー」
なるほど、実に地道でシュールな練習ね。けど少し楽しそうでもある。
「指定された位置のチラシに、破れろって言えばいいのね。楽勝だわ!」
このくらいなら私でもできそうだ。力も要らないし。
「じゃあ、真ん中ー」
私はその声に頷くと、真ん中のチラシに意識を向ける。そして今までみたいに心の中で「破れろ、破れろ」と繰り返す。
そして。
「破れろ!」
と叫んだ。
しかし、驚いたことに何も起こらなかった。真ん中のチラシは破れるどころか折れてすらない。私が叫ぶ前とまったく同じ状態。
「え……。ど、どうして……? 何も変わってない……」
慌ててノアに目をやる。
「ダメだったねー」
あっさりそう言われた。ちょっと落ち込みそうだ。
「何度でも試してみるといいよー。次は左ー」
そんな風にしばらくずっと同じことを繰り返した。だが残念なことに、私の力が発動されることはなかった。
「そんな、どうして!?」
これくらい容易いと思ったのに。
「うーん。内容の問題かなー。じゃあ別のこと試してみようかー?」
「えぇ、そうね」
「じゃあ僕を浮かせてみてー」
いきなりランクアップしすぎな気がするが。
「分かった。やってみるわ」
私は意識を彼に向ける。
「浮け、浮け……浮けぇっ!」
ゴンッ!
一気に浮いたノアが天井で背中を打って勢いよく地面に落ちた。
「せ……成功だねー……」
打った背中をさすりながらノアは言う。天然気味なノアですらさすがに痛いようだ。
「これは役立ちそうだねー。十分痛いよー……」
上手くいったようだ。
まぁノアにダメージを与えても意味がないけどね。
「王女様の力はどうやら生物に対して働くみたいだねー」
「そっか!」
それならチラシが破れなかったことも説明がつく。
「王女様ー、他のこともしてみていいよー」
ノアはまだ背中をさすりつつもニコニコしている。
「次はもっと軽くしてみるわ。……浮けっ」
するとノアの体がフワリと持ち上がり空中でフワフワ漂う。
「おー。浮いてるねー」
ノアは感心している。
「はいっ、着地っ」
すると彼はゆっくり地面に降りた。
「王女様は凄いなー。もうマスターしたんだー」
「でも……疲れたわ……」
急激に体が重くなる。だるい、という感じ。
「聖気を使ったことによる疲労じゃないかなー? 僕もやりすぎると段々しんどくなるよー」
「どうすれば回復するの?」
「しばらく待つことかなー。勝手に回復するよー」
なかなか深いな、聖気。そんなことを思いつつ、少し嬉しい気持ちになっていた。
この力があれば私も少しは役に立てる。戦力になれる。もちろんエリアスやジェシカに勝てるはずはないけれど、それでも全然構わない。
翌朝、天界郵便のキャリーがまた郵便物を持ってきた。
「おはようございます! 今日はやや大きめの郵便物がありましたよ!」
キャリーは丁寧に教えてくれる。見ればすぐ分かることなのに。
彼女が帰ってから、受け取った茶封筒を開ける。すると中から便箋一枚と手のひらサイズの四角い板が出てくる。
便箋を読んでみる。
『エンジェリカの王女へ 昨日は楽しかったねぇ。同封した四角いやつの、下のところにあるボタンを押してみて! そしたら話せるよ。 ヴィッタより』
「何これ!? ノア、来て!」
私は驚き急いでノアを呼ぶ。
「……何だろうねー」
ノアは怪訝な顔をしながら、四角い板の下のところにあるボタンを押した。すると板に映像が現れる。
暗い牢獄のようなところで、ヴィッタの姿が映っていた。
「ヤーン! 早速つけてくれたんだぁ、ありがと!」
映像のヴィッタは言いながらこちらを向く。
「昨夜は久々に楽しかったぁ! 王女がヴィッタにくれたおもちゃ、凄く良かったよぉ。一晩中遊べちゃった! やっぱり生きがいいと持ちが違うねぇ」
彼女は随分ご機嫌なようで、ただひたすら一人で喋り続ける。まるで独り言かのように。
「王女、素敵なおもちゃをくれたお礼に、ヴィッタの遊びを見させてあげるよ! キャハッ!」
ヴィッタがこんなにご機嫌だということは……。
私は嫌な予感しかしなかった。
「ノアさん、ノアさん?」
椅子にぼんやりと座っていた彼に声をかける。だがしばらく返答がなかった。帰ってきてから彼はずっとこんな感じだ。
ジェシカが拐われた。
優しい性格の彼は私を責めはしなかったが、本当はショックを受けていたのかもしれない。
「ノアさん!」
少し声を大きくすると、彼はハッとしてこちらを向く。
「あ、王女様。何か用ー?」
何もなかったかのように装っているが、いつもより声のトーンが低い。……無理もない。小さい頃からずっと一緒だった相棒が拐われたのだから、ショックを受けるのも当然のことだ。
「ノアさん、私ね、少し練習してみたいと思うの」
言葉が現実になる不思議な力。あれを確実なものにすれば、ジェシカ救出に役立つかもしれない。そう思ったのだ。
「言葉が現実になる力を使いこなせるように練習するのー? いいよー。試してみようかー」
ノアは私が言わんとしていることを理解してくれ、そのうえ快く頷いてくれる。いつものことながら本当に良い天使だと思う。
準備は十分もかからなかった。
チラシを貼りつけた糸を天井から垂らす。左右に三つほど。
「これは……何をするの?」
私の脳内に疑問符が溢れる。一体何の練習をするための用意なのか。
「説明するねー。今から僕が右か左か真ん中って言うから、そのチラシを破ってみてー」
なるほど、実に地道でシュールな練習ね。けど少し楽しそうでもある。
「指定された位置のチラシに、破れろって言えばいいのね。楽勝だわ!」
このくらいなら私でもできそうだ。力も要らないし。
「じゃあ、真ん中ー」
私はその声に頷くと、真ん中のチラシに意識を向ける。そして今までみたいに心の中で「破れろ、破れろ」と繰り返す。
そして。
「破れろ!」
と叫んだ。
しかし、驚いたことに何も起こらなかった。真ん中のチラシは破れるどころか折れてすらない。私が叫ぶ前とまったく同じ状態。
「え……。ど、どうして……? 何も変わってない……」
慌ててノアに目をやる。
「ダメだったねー」
あっさりそう言われた。ちょっと落ち込みそうだ。
「何度でも試してみるといいよー。次は左ー」
そんな風にしばらくずっと同じことを繰り返した。だが残念なことに、私の力が発動されることはなかった。
「そんな、どうして!?」
これくらい容易いと思ったのに。
「うーん。内容の問題かなー。じゃあ別のこと試してみようかー?」
「えぇ、そうね」
「じゃあ僕を浮かせてみてー」
いきなりランクアップしすぎな気がするが。
「分かった。やってみるわ」
私は意識を彼に向ける。
「浮け、浮け……浮けぇっ!」
ゴンッ!
一気に浮いたノアが天井で背中を打って勢いよく地面に落ちた。
「せ……成功だねー……」
打った背中をさすりながらノアは言う。天然気味なノアですらさすがに痛いようだ。
「これは役立ちそうだねー。十分痛いよー……」
上手くいったようだ。
まぁノアにダメージを与えても意味がないけどね。
「王女様の力はどうやら生物に対して働くみたいだねー」
「そっか!」
それならチラシが破れなかったことも説明がつく。
「王女様ー、他のこともしてみていいよー」
ノアはまだ背中をさすりつつもニコニコしている。
「次はもっと軽くしてみるわ。……浮けっ」
するとノアの体がフワリと持ち上がり空中でフワフワ漂う。
「おー。浮いてるねー」
ノアは感心している。
「はいっ、着地っ」
すると彼はゆっくり地面に降りた。
「王女様は凄いなー。もうマスターしたんだー」
「でも……疲れたわ……」
急激に体が重くなる。だるい、という感じ。
「聖気を使ったことによる疲労じゃないかなー? 僕もやりすぎると段々しんどくなるよー」
「どうすれば回復するの?」
「しばらく待つことかなー。勝手に回復するよー」
なかなか深いな、聖気。そんなことを思いつつ、少し嬉しい気持ちになっていた。
この力があれば私も少しは役に立てる。戦力になれる。もちろんエリアスやジェシカに勝てるはずはないけれど、それでも全然構わない。
翌朝、天界郵便のキャリーがまた郵便物を持ってきた。
「おはようございます! 今日はやや大きめの郵便物がありましたよ!」
キャリーは丁寧に教えてくれる。見ればすぐ分かることなのに。
彼女が帰ってから、受け取った茶封筒を開ける。すると中から便箋一枚と手のひらサイズの四角い板が出てくる。
便箋を読んでみる。
『エンジェリカの王女へ 昨日は楽しかったねぇ。同封した四角いやつの、下のところにあるボタンを押してみて! そしたら話せるよ。 ヴィッタより』
「何これ!? ノア、来て!」
私は驚き急いでノアを呼ぶ。
「……何だろうねー」
ノアは怪訝な顔をしながら、四角い板の下のところにあるボタンを押した。すると板に映像が現れる。
暗い牢獄のようなところで、ヴィッタの姿が映っていた。
「ヤーン! 早速つけてくれたんだぁ、ありがと!」
映像のヴィッタは言いながらこちらを向く。
「昨夜は久々に楽しかったぁ! 王女がヴィッタにくれたおもちゃ、凄く良かったよぉ。一晩中遊べちゃった! やっぱり生きがいいと持ちが違うねぇ」
彼女は随分ご機嫌なようで、ただひたすら一人で喋り続ける。まるで独り言かのように。
「王女、素敵なおもちゃをくれたお礼に、ヴィッタの遊びを見させてあげるよ! キャハッ!」
ヴィッタがこんなにご機嫌だということは……。
私は嫌な予感しかしなかった。
0
あなたにおすすめの小説
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】
いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。
陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々
だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い
何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
退屈令嬢のフィクサーな日々
ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。
直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。
【完結】元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ギルド受付嬢の佐倉レナ、外見はちょっと美人。仕事ぶりは真面目でテキパキ。そんなどこにでもいる女性。
でも実はその正体、数年前まで“災厄クラス”とまで噂された元Sランク冒険者。
今は戦わない。名乗らない。ひっそり事務仕事に徹してる。
なぜって、もう十分なんです。命がけで世界を救った報酬は、“おひとりさま晩酌”の幸福。
今日も定時で仕事を終え、路地裏の飯処〈モンス飯亭〉へ直行。
絶品まかないメシとよく冷えた一杯で、心と体をリセットする時間。
それが、いまのレナの“最強スタイル”。
誰にも気を使わない、誰も邪魔しない。
そんなおひとりさまグルメライフ、ここに開幕。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる