エンジェリカの王女

四季

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59話 「純白の奇跡」

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 私がジェシカを解放する間ヴィッタを食い止めていたノアがこちらへ寄ってくる。

「ジェシカ、平気ー?」

 ノアは確認するが、号泣しているジェシカは頷いただけだった。声は出ないみたいだ。

「テメェら! ぜぇーーったいに逃がさねぇ! みんなまとめておもちゃにしてやる!」

 激怒している様子のヴィッタは、汚い言葉を荒々しく吐く。子どものような可愛らしい顔を真っ赤にしていた。

 ちょうどその時、彼女の背後に二体の大柄な悪魔が現れた。実物の方が映像で見た時より大きい。

「王女様、撤退するよー」
「えぇ」

 私たちが方向転換した瞬間、そちら側からも二体の大柄な悪魔が現れた。ヴィッタが連れている二体と同じタイプだ。

「……また!」

 取り囲まれた。
 肌を刺すような強い魔気に戦慄する。

「おかしいなー。ヴィッタ以外の魔気は感じなかったんだけどー」

 ノアが魔気を感じ逃すはずがない。恐らくこの大柄な悪魔たちは今ここへ来たのだろう。

「キャハッ! でもぉ、新しいおもちゃがわざわざ来てくれるなんて。ヴィッタ、ラッキー! キャハハハッ」

 大柄な悪魔はクオォォォと奇声を発しながら接近してくる。ノアが珍しく真剣な表情で身構えていた。
 ヴィッタは私たちの表情が強張るのを楽しそうに眺めながら、手元の小さなナイフをクルクル回している。さっきまで怒鳴り散らしていたのが嘘のようにご機嫌になっている。ここまで差が激しいとなんとなく怖さを感じた。情緒不安定にも程がある。

「……王女様、気をつけて」

 頬を濡らす涙を手で拭いながら、ジェシカが警笛を鳴らす。

「あの悪魔……バカだけど、かなりのパワーだから」

 ジェシカにかなりのパワーと言わせるとは余程怪力なのだろう。
 多分、私なんかが攻撃されれば一溜まりもない。

 刹那、ヴィッタが物凄い勢いで赤い電撃を放ってくる。ノアは咄嗟にそれをシールドで防ぐ。ほぼ同時に四体の悪魔が飛びかかってくる。

「寄って!」

 ノアは珍しく鋭く言い放つ。私はその珍しさに危機感を感じ、ジェシカを連れたまま急いで彼に寄る。飛びかかってくる悪魔に、私は思わず目を瞑る。

 ぶつかるような大きな音と衝撃が空間に響いた。

 目をゆっくり開けると、ドーム状になったノアのシールドが私たち三人を包んでいた。大柄な悪魔たちは諦めずに攻撃を続ける。殴り、引っ掻き、蹴る。

「やるねぇ、キャハッ! さすがの反応速度。でもでも、ヴィッタとその家来には叶わないよ。キャハハハッ!」

 甲高い声で笑いながら話す。今はとてもご機嫌なようだ。

「王女様、ジェシカを連れて逃げてくれるー?」

 ノアの紫色をした聖気がシールドに入った亀裂を修復しているところだった。

「貴方は?」
「僕は後から逃げるからー」
「そんなのダメよ。一緒じゃなくちゃ嫌!」

 もしノアがヴィッタに捕まったら、また同じことの繰り返しになってしまう。そんなわけにはいかない。

「悪魔は私が止めるわ!」

 四体の悪魔に意識を向け「止まれ」と強く念じる。

「……と、止まった……?」

 大柄な悪魔たちは一瞬静止した。しかし次の瞬間プルプルと小さく震え、そして、四体同時に動き出した。

「あれっ?」

 効かなかった。まさかの結果だ。
 いや、正しくは「束の間しか効かなかった」かもしれない。

「効いてないみたいだねー」
「こんな時に限って……あ、え?何これ、体が……」

 急激なめまいに襲われ、思わずしゃがみこんでしまう。このタイミングでめまいとは、なんという不運か。

「王女様っ!? え、大丈夫?」

 ジェシカが声をかけてくれても私はまともに返せない。みるみるうちに汗だくになる。

 周囲には大柄な悪魔四体とヴィッタ。それに対し、こちらでまともに動けるのはノアだけ。

「……まずいねー」

 ちょうど私が考えていたことをノアが漏らした。

「キャハッ、バァーカ! まともに戦えないやつばっかで来るからだよーっ!」

 舌を出し、指で目を下を引っ張る。ヴィッタは勝利を確信して調子に乗っている様子。少し腹立つが、今の私たちには怒っている余裕などはない。

「ヤーン! ヴィッタ、カルチェレイナ様に褒められちゃうっ。キャハッ、褒美は何にしーよーうーかーなぁ? キャハハハッ」

 ヴィッタが赤い髪を揺らして妄想に花を咲かせている間に、四体の悪魔が私たちの方へ迫ってくる。

「天使三体もゲットできるなんて、ヴィッタ、ラッキー! みーんなまとめておもちゃにしてあげるっ!」


「そうはさせん」


 ——光の槍。

 純白の輝きを放つ槍が凄まじい速さで飛んできて悪魔の一体を貫いた。

「な、何事よっ!?」

 一番に声をあげたのはヴィッタ。表情を見る感じかなり動揺している。
 けれど私も正直驚いた。

 だって、そこにエリアスが立っていたんだもの。


「「エリアス!?」」

 私とジェシカが叫んだのはほぼ同時だった。

「隊長だー」

 だいぶ遅れてノアも言った。
 ……こんな時まで遅いのね。まぁいいや。

「おい! テメェ誰だ! 天使の仲間か!?」

 ヴィッタは品のない方の口調で怒鳴り声だった。

「私はエリアス。王女の護衛隊長だ」

 ほぼ白に近い金髪、長い睫に瑠璃色の瞳。一切迷いのない長槍の鋭い構え。

「王女の邪魔をする者は、誰であろうと排除する。護衛隊長の名において」
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