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88話 「良き友を持った」
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教会でディルク王との話を終えた後、私とエリアスはノアのところへ寄ることにした。しばらく会いに行けなくなるかもしれないからだ。ディルク王には速やかに部屋へ帰るように言われたが、少しくらいなら大丈夫だろう。魔界から天界まで来るだけでもそこそこ時間がかかるはず。それにエリアスもいる。何かあれば彼が護ってくれるだろうから問題ない。
昨日と同じノアのところへ行くと、彼が寝ているベッドの横にジェシカがいた。
私とエリアスが来たことに気づいた彼女は明るい笑みを浮かべ手を振る。
彼女は宣戦布告のことをまだ知らないのだろうか、いつもと何ら変わらない様子だ。もちろんノアもそれと同じでのんびり眠っている。
「王女様っ、おはよう」
活気のある笑顔を向けられても、私はあまり明るい気持ちにはなれなかった。宣戦布告のことがどうしても気になってしまう。
様子がおかしいと気づいたのかジェシカは眉をひそめる。
「あれ? どうかしたの」
その問いに対してエリアスが答える。
「カルチェレイナから宣戦布告だ」
ジェシカの目が大きく開かれる。
「えぇっ!? 何それ、急すぎじゃん!」
「今さっきその話を聞いてきた。王女はしばらくここへ来れない」
「そんなぁ……」
ジェシカはシュンとして肩を落とす。
無理もないわね、急にしばらく会えないなんて。私も会いたい、離れるなんて嫌だ。ただ、彼女も同じ気持ちでいることが分かり、それは嬉しかった。
「じゃあノアを起こさなくちゃだね。ノア! 起きろ!」
ジェシカはぐっすり眠っているノアの顔をペチペチ叩く。急いでいるからだろうが、いつもより乱暴だ。
「んー……えー……?」
ノアは目を細く開け、寝ぼけた声を漏らす。相変わらず起きるのは苦手なようだ。
「寝言はいいからさっさと起きて」
ジェシカは物凄く冷ややかに言った。少し怖い。しかしノアは動揺しない。それどころか、「鶏肉安売りしてたよー」なんて不思議な寝言を言っている。
「ノアさん、起きられる?」
私は控えめに声をかけてみた。違う天使が声をかけた方が起きやすいかと思って。
すると彼はむにゃむにゃ言いながら手の甲で目をこする。
「……王女様ー?」
どうやら、やっと気がついたらしい。隣にいるジェシカは「起きた!」と感心したように言う。
「ノア、アンタ起きるの遅すぎ」
「えー? ジェシカ可愛いよー」
「キモッ。何言ってんの」
「ジェシカまた照れてるー。でもすぐ照れるところも好みだよー」
「……次言ったらしばくから」
ジェシカとノアはいつも通りのやり取りを繰り広げる。二人らしいといえば二人らしいが、最近若干内容が変わってきたなという印象だ。前は純粋にコンビのようなやり取りだった。それに対しジェシカが堕ちかけた以後は、ノアがジェシカをやたら褒めるようなシーンが増えた。
ますます親しくなったのだから悪い話ではないけれど。
一連のやり取りを終えるとジェシカはノアに事情を説明してくれた。宣戦布告があったこと、それによって私がしばらくここへ来れないかもしれないこと。
「へー、そうなんだー。戦争怖いねー」
話を聞いたノアは微塵も驚いた顔をしなかった。横たわったまま、普段と何も変わらない表情で返した。
「なるべく犠牲は出したくない。私は戦争なんかになってほしくないの。でも良い案が思いつかなくて」
心の内を打ち明けると、ノアは何食わぬ顔で言う。
「じゃあ素早く悪魔を倒すしかないねー」
そんな軽く言われても……という気分になる。
それができれば簡単だ。街を巻き込む規模の戦争になる前に悪魔をすべて倒せば戦争にはならない。だがそんなことは不可能だろう。
「戦力が分からない以上それは難しいと思われる」
エリアスが真面目な表情で口を挟む。もっともな意見だ。
するとそれに対してノアが返す。
「王女様の力を使えば不可能じゃないと思うよー」
空気が一気に凍りつく。
エリアスはノアを「何を言い出すのか」と言うように困惑した顔で見つめる。それと同時にジェシカがごくりと唾を飲み込むのが分かった。
「王女様なら相手の動きを止めたり吹き飛ばしたりできるよねー。直接戦うのは無理でも、サポートとしてなら強力だと思うよー」
ノアから新しい案が出た。
サポートか、それなら確かに私にもできそうね。ただ、それをしようと思ったら、悪魔の前に姿を現さなくてはなるまい。そこには若干不安がつきまとう。逆にみんなの足を引っ張ってしまうのではないだろうかという不安だ。
眉を寄せ真剣な表情のエリアスがノアの発言に言い返す。
「王女を悪魔の前に出すわけにはいかない」
待って待って。当事者の私を置いていかないで。
それに、ここでいくら相談したところで無意味だ。作戦指揮の権限はディルク王にあるのだから。考えるだけ時間の無駄、というやつだと思う。
「まぁ、何でもいいんじゃない? ノアもエリアスも指揮官じゃないんだしさ」
私の思いをジェシカが代弁してくれた。奇跡的なタイミングだ。珍しくエリアスもノアも納得した顔になる。
さすがはジェシカ。それぞれ別の意味で厄介なこの二人を抑えるとはかなりの実力者だ。
そんな彼女は、二人を止めた後すぐに私の方を向き、明るい声で教えてくれる。
「そうそう。朝レクシフに頼んだから、荷物の中で王女様の物っぽいやつ、もう部屋に届いてると思うよ」
「ありがとう!」
王宮を壊してしまったこともあって、私はエンジェリカからあまり何も持っていかなかった。そして、向こうで使っていた中で自分用というのは、タオルや便箋くらいしかなかった。だから地上界にいた時の物といってもたいした量はないだろう。
「王女様のお母さんの日記帳も届いてると思うよ」
「不倫相手との写真とか挟まってないかなー?」
余計なことを言ったノアを、ジェシカは鋭く睨みつける。無言だが思わず黙りそうな威圧感があった。
——そうこうしているうちに結構時間が経過してしまっていた。話すのは楽しいのだが、ディルク王に怒られてもややこしい。だから私は部屋へ帰ることにした。
「絶対遊びにいくからねっ」
別れしな、ジェシカはウインクしながら約束してくれた。ありがたい言葉に、とても温かい気持ちになる。
良い友達がいるっていいなぁ。
今日に始まったことではないが、改めてそれを実感した。
昨日と同じノアのところへ行くと、彼が寝ているベッドの横にジェシカがいた。
私とエリアスが来たことに気づいた彼女は明るい笑みを浮かべ手を振る。
彼女は宣戦布告のことをまだ知らないのだろうか、いつもと何ら変わらない様子だ。もちろんノアもそれと同じでのんびり眠っている。
「王女様っ、おはよう」
活気のある笑顔を向けられても、私はあまり明るい気持ちにはなれなかった。宣戦布告のことがどうしても気になってしまう。
様子がおかしいと気づいたのかジェシカは眉をひそめる。
「あれ? どうかしたの」
その問いに対してエリアスが答える。
「カルチェレイナから宣戦布告だ」
ジェシカの目が大きく開かれる。
「えぇっ!? 何それ、急すぎじゃん!」
「今さっきその話を聞いてきた。王女はしばらくここへ来れない」
「そんなぁ……」
ジェシカはシュンとして肩を落とす。
無理もないわね、急にしばらく会えないなんて。私も会いたい、離れるなんて嫌だ。ただ、彼女も同じ気持ちでいることが分かり、それは嬉しかった。
「じゃあノアを起こさなくちゃだね。ノア! 起きろ!」
ジェシカはぐっすり眠っているノアの顔をペチペチ叩く。急いでいるからだろうが、いつもより乱暴だ。
「んー……えー……?」
ノアは目を細く開け、寝ぼけた声を漏らす。相変わらず起きるのは苦手なようだ。
「寝言はいいからさっさと起きて」
ジェシカは物凄く冷ややかに言った。少し怖い。しかしノアは動揺しない。それどころか、「鶏肉安売りしてたよー」なんて不思議な寝言を言っている。
「ノアさん、起きられる?」
私は控えめに声をかけてみた。違う天使が声をかけた方が起きやすいかと思って。
すると彼はむにゃむにゃ言いながら手の甲で目をこする。
「……王女様ー?」
どうやら、やっと気がついたらしい。隣にいるジェシカは「起きた!」と感心したように言う。
「ノア、アンタ起きるの遅すぎ」
「えー? ジェシカ可愛いよー」
「キモッ。何言ってんの」
「ジェシカまた照れてるー。でもすぐ照れるところも好みだよー」
「……次言ったらしばくから」
ジェシカとノアはいつも通りのやり取りを繰り広げる。二人らしいといえば二人らしいが、最近若干内容が変わってきたなという印象だ。前は純粋にコンビのようなやり取りだった。それに対しジェシカが堕ちかけた以後は、ノアがジェシカをやたら褒めるようなシーンが増えた。
ますます親しくなったのだから悪い話ではないけれど。
一連のやり取りを終えるとジェシカはノアに事情を説明してくれた。宣戦布告があったこと、それによって私がしばらくここへ来れないかもしれないこと。
「へー、そうなんだー。戦争怖いねー」
話を聞いたノアは微塵も驚いた顔をしなかった。横たわったまま、普段と何も変わらない表情で返した。
「なるべく犠牲は出したくない。私は戦争なんかになってほしくないの。でも良い案が思いつかなくて」
心の内を打ち明けると、ノアは何食わぬ顔で言う。
「じゃあ素早く悪魔を倒すしかないねー」
そんな軽く言われても……という気分になる。
それができれば簡単だ。街を巻き込む規模の戦争になる前に悪魔をすべて倒せば戦争にはならない。だがそんなことは不可能だろう。
「戦力が分からない以上それは難しいと思われる」
エリアスが真面目な表情で口を挟む。もっともな意見だ。
するとそれに対してノアが返す。
「王女様の力を使えば不可能じゃないと思うよー」
空気が一気に凍りつく。
エリアスはノアを「何を言い出すのか」と言うように困惑した顔で見つめる。それと同時にジェシカがごくりと唾を飲み込むのが分かった。
「王女様なら相手の動きを止めたり吹き飛ばしたりできるよねー。直接戦うのは無理でも、サポートとしてなら強力だと思うよー」
ノアから新しい案が出た。
サポートか、それなら確かに私にもできそうね。ただ、それをしようと思ったら、悪魔の前に姿を現さなくてはなるまい。そこには若干不安がつきまとう。逆にみんなの足を引っ張ってしまうのではないだろうかという不安だ。
眉を寄せ真剣な表情のエリアスがノアの発言に言い返す。
「王女を悪魔の前に出すわけにはいかない」
待って待って。当事者の私を置いていかないで。
それに、ここでいくら相談したところで無意味だ。作戦指揮の権限はディルク王にあるのだから。考えるだけ時間の無駄、というやつだと思う。
「まぁ、何でもいいんじゃない? ノアもエリアスも指揮官じゃないんだしさ」
私の思いをジェシカが代弁してくれた。奇跡的なタイミングだ。珍しくエリアスもノアも納得した顔になる。
さすがはジェシカ。それぞれ別の意味で厄介なこの二人を抑えるとはかなりの実力者だ。
そんな彼女は、二人を止めた後すぐに私の方を向き、明るい声で教えてくれる。
「そうそう。朝レクシフに頼んだから、荷物の中で王女様の物っぽいやつ、もう部屋に届いてると思うよ」
「ありがとう!」
王宮を壊してしまったこともあって、私はエンジェリカからあまり何も持っていかなかった。そして、向こうで使っていた中で自分用というのは、タオルや便箋くらいしかなかった。だから地上界にいた時の物といってもたいした量はないだろう。
「王女様のお母さんの日記帳も届いてると思うよ」
「不倫相手との写真とか挟まってないかなー?」
余計なことを言ったノアを、ジェシカは鋭く睨みつける。無言だが思わず黙りそうな威圧感があった。
——そうこうしているうちに結構時間が経過してしまっていた。話すのは楽しいのだが、ディルク王に怒られてもややこしい。だから私は部屋へ帰ることにした。
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