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3話 「気ままにお出掛け」
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「なにこれ可愛い! くまのストラップ!」
さっきまでいたアクセサリー屋の2軒隣にある可愛らしい小物を置いている雑貨屋で、私はとても可愛いくまのストラップを見つけた。ピンクとブルーのくまが2匹でセットになっていて、それぞれが自身の体色と同じ色のハートを抱きかかえている。
「気に入ったものが見つかりましたか? 王女」
店内の商品を見ながら歩いていたエリアスが、こちらへ来て声をかけてくる。
「ねぇ、エリアス!これ見て。凄い可愛くない?」
私はやや興奮気味にそう言った。すると彼は私の手の中にあるくまのストラップを覗き込み感想を述べる。
「2色でセットのストラップですか。可愛らしいですね。王女にお似合いだと思います」
「これ買って1つずつ持たない? お揃い!」
そう提案をするとエリアスは首を横に捻った。
「何故私とお揃いのものを持つ必要があるのですか?よく理解できませんが」
お揃いを持ちたい心理が本当に分からないようである。親しい者と同じものを持ちたいと言う心理は女性特有なのかもしれない。
「私はね、大切な貴方と同じものを持ちたいと思うの。エリアスには理解できないかもしれないけど、それが女の子の心なのよ」
すると彼は驚いたように私を見てから頷く。
「そうでしたか。私にはそのような発想がなかったもので、すみません。そういうことなら買いましょう。同じようなものを持つというのも悪くはないかもしれませんね」
エリアスは少し照れたような表情をしつつもどこか嬉しそうだった。
「いいの?」
「同じものを持ちたい、共有したいと思ってくださるということは、王女が私を嫌ってはいないということ。なら嬉しいばかりです。私も護衛隊長として常に貴女の傍にいたいと考えておりますから、我々の考えは一致しているということですね」
幸せそうに語る彼の顔は微かに紅潮している。彼は基本淡々としているためクールなように思われがちだが、案外分かりやすいタイプである。
「さて、では買いましょうか。会計は私が済ませて参ります」
「いいの? エリアス」
私は買い物をしたことがないので会計の方法が分からない。何しろ王宮では買い物などしないものだから。
「はい、お任せ下さい」
エリアスにくまのストラップを手渡す。彼はそれを受け取るとレジまで歩いていき、店員の女性にお金を払っていた。それからしばらくして、私のところへ帰ってくる。
「どうぞ、王女。すぐに使うかと思い包みはなしにしてもらいました。いかがでしょう?」
「ありがとう!」
私は嬉しくなって衝動的にエリアスに抱きついた。すると彼は目を開き驚いた顔をした。
「あ……」
私は正気に戻り、気まずい思いをする。何も考えず抱きついたはいいが、一応相手は男だ。それに主従関係。だが私より向こうの方が複雑な思いをしているだろう。
「ごめん、エリアス。急に触ったりして」
「いえ。大丈夫ですよ」
彼は微笑み落ち着いてそう返してきた。微笑むと長い睫毛が目立ち、浮世離れした雰囲気が尚更際立つ。
「また他の店も見ていい? 折角だし、もっとたくさん回りたいの。だってこんな機会、滅多にないじゃない」
次はいつ王宮から出られるか分からないから、なるべく多くのものを見ておきたいと思う。
「そうですね。私も貴女と二人でお出掛けする機会は滅多にありませんから嬉しく思います」
彼は快く頷いてくれ、話はまとまったので、次の店を見に行くことになった。
「エリアス、空が綺麗ね」
私は途中で不意にそんなことを呟く。
見上げた空がとても美しかったからだ。果てしなく続く青空に、白い雲の隙間から差し込む神々しい光。まるで私の初めての外出を祝福してくれているみたい。
「空、ですか?」
彼は不思議そうな表情で言ってから、気がついたように続ける。
「あぁ、そうでした。王女が王宮の外で空をご覧になったのは初めてですね」
「そうよ。いつも部屋からは空を眺めていたけれど。外で見るとこんな風に見えるのね」
エリアスは少し目を細め悲しそうな表情を浮かべる。何だか一気にしんみりしてしまった。
「さ! 行こ!」
私はしんみりした雰囲気を吹き飛ばすために敢えて明るく言って歩き出す。明るく笑っていないと何だか悲しくなりそうな気がしたから。折角のお出掛けを湿っぽくするのは嫌だ。
「はい。次はどこへ参りましょうか……」
エリアスは早足で私を追ってくる。
「うーん、公園?」
私はふと思い出した言葉を発した。行ったことはないし詳しくは知らないが、以前使用人の息子の小さな少年から面白いところと聞いた覚えがある。
「この辺には公園なんてありませんよ」
「え。ないの? でも王宮の前のあそこは」
「あれは広場です」
「公園じゃないのね……。でも広場と公園って何が違うの?」
「ややこしい説明を求めないで下さいよ、王女。王宮の図書館でお調べ下さい」
「エリアス知らないんだ」
「なっ、王女! さすがにそれぐらい分かります!」
お互いの顔を見合わせると、自然と頬が緩んだ。理由は分からないが何だかおかしくて。
「……面白いわ、エリアス。貴方って不思議な感じね」
彼は困惑した顔で首を捻る。
「ずっと思ってたわ。貴方って完璧に見えるのに、たまに変なの」
「私が? おかしいですか」
彼はいたって真面目な態度である。それがまた笑いを生む。
「でも、だからこそ、一緒にいて楽しいの。私、面白くない天使ってすぐに飽きるから」
これからもずっと先も、こんな風に笑いあって幸せに暮らす。何も変わりはしない。明日が来ても明後日が来ても、今日と変わらず、同じように一日を過ごすの。
さっきまでいたアクセサリー屋の2軒隣にある可愛らしい小物を置いている雑貨屋で、私はとても可愛いくまのストラップを見つけた。ピンクとブルーのくまが2匹でセットになっていて、それぞれが自身の体色と同じ色のハートを抱きかかえている。
「気に入ったものが見つかりましたか? 王女」
店内の商品を見ながら歩いていたエリアスが、こちらへ来て声をかけてくる。
「ねぇ、エリアス!これ見て。凄い可愛くない?」
私はやや興奮気味にそう言った。すると彼は私の手の中にあるくまのストラップを覗き込み感想を述べる。
「2色でセットのストラップですか。可愛らしいですね。王女にお似合いだと思います」
「これ買って1つずつ持たない? お揃い!」
そう提案をするとエリアスは首を横に捻った。
「何故私とお揃いのものを持つ必要があるのですか?よく理解できませんが」
お揃いを持ちたい心理が本当に分からないようである。親しい者と同じものを持ちたいと言う心理は女性特有なのかもしれない。
「私はね、大切な貴方と同じものを持ちたいと思うの。エリアスには理解できないかもしれないけど、それが女の子の心なのよ」
すると彼は驚いたように私を見てから頷く。
「そうでしたか。私にはそのような発想がなかったもので、すみません。そういうことなら買いましょう。同じようなものを持つというのも悪くはないかもしれませんね」
エリアスは少し照れたような表情をしつつもどこか嬉しそうだった。
「いいの?」
「同じものを持ちたい、共有したいと思ってくださるということは、王女が私を嫌ってはいないということ。なら嬉しいばかりです。私も護衛隊長として常に貴女の傍にいたいと考えておりますから、我々の考えは一致しているということですね」
幸せそうに語る彼の顔は微かに紅潮している。彼は基本淡々としているためクールなように思われがちだが、案外分かりやすいタイプである。
「さて、では買いましょうか。会計は私が済ませて参ります」
「いいの? エリアス」
私は買い物をしたことがないので会計の方法が分からない。何しろ王宮では買い物などしないものだから。
「はい、お任せ下さい」
エリアスにくまのストラップを手渡す。彼はそれを受け取るとレジまで歩いていき、店員の女性にお金を払っていた。それからしばらくして、私のところへ帰ってくる。
「どうぞ、王女。すぐに使うかと思い包みはなしにしてもらいました。いかがでしょう?」
「ありがとう!」
私は嬉しくなって衝動的にエリアスに抱きついた。すると彼は目を開き驚いた顔をした。
「あ……」
私は正気に戻り、気まずい思いをする。何も考えず抱きついたはいいが、一応相手は男だ。それに主従関係。だが私より向こうの方が複雑な思いをしているだろう。
「ごめん、エリアス。急に触ったりして」
「いえ。大丈夫ですよ」
彼は微笑み落ち着いてそう返してきた。微笑むと長い睫毛が目立ち、浮世離れした雰囲気が尚更際立つ。
「また他の店も見ていい? 折角だし、もっとたくさん回りたいの。だってこんな機会、滅多にないじゃない」
次はいつ王宮から出られるか分からないから、なるべく多くのものを見ておきたいと思う。
「そうですね。私も貴女と二人でお出掛けする機会は滅多にありませんから嬉しく思います」
彼は快く頷いてくれ、話はまとまったので、次の店を見に行くことになった。
「エリアス、空が綺麗ね」
私は途中で不意にそんなことを呟く。
見上げた空がとても美しかったからだ。果てしなく続く青空に、白い雲の隙間から差し込む神々しい光。まるで私の初めての外出を祝福してくれているみたい。
「空、ですか?」
彼は不思議そうな表情で言ってから、気がついたように続ける。
「あぁ、そうでした。王女が王宮の外で空をご覧になったのは初めてですね」
「そうよ。いつも部屋からは空を眺めていたけれど。外で見るとこんな風に見えるのね」
エリアスは少し目を細め悲しそうな表情を浮かべる。何だか一気にしんみりしてしまった。
「さ! 行こ!」
私はしんみりした雰囲気を吹き飛ばすために敢えて明るく言って歩き出す。明るく笑っていないと何だか悲しくなりそうな気がしたから。折角のお出掛けを湿っぽくするのは嫌だ。
「はい。次はどこへ参りましょうか……」
エリアスは早足で私を追ってくる。
「うーん、公園?」
私はふと思い出した言葉を発した。行ったことはないし詳しくは知らないが、以前使用人の息子の小さな少年から面白いところと聞いた覚えがある。
「この辺には公園なんてありませんよ」
「え。ないの? でも王宮の前のあそこは」
「あれは広場です」
「公園じゃないのね……。でも広場と公園って何が違うの?」
「ややこしい説明を求めないで下さいよ、王女。王宮の図書館でお調べ下さい」
「エリアス知らないんだ」
「なっ、王女! さすがにそれぐらい分かります!」
お互いの顔を見合わせると、自然と頬が緩んだ。理由は分からないが何だかおかしくて。
「……面白いわ、エリアス。貴方って不思議な感じね」
彼は困惑した顔で首を捻る。
「ずっと思ってたわ。貴方って完璧に見えるのに、たまに変なの」
「私が? おかしいですか」
彼はいたって真面目な態度である。それがまた笑いを生む。
「でも、だからこそ、一緒にいて楽しいの。私、面白くない天使ってすぐに飽きるから」
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