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後編

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 ◆


 その後私は実家へは戻らなかった。

 しばらく昔の友人の家に住まわせてもらい、そこで働きつつ、恋していたあの人に接近――一度は終わった恋だけれど、その恋は再び幕開けた。

 そこからの進展は早く。思っていた以上の速度で私たちは結ばれた。互いを想い合うようになるまでの時間は短かった。けれど、それでも、私たちは確かな関係を築いていた。

 そして彼と結婚するに至る。

 噂によれば母はかなり怒っていたようだが、縁を切ったのでもう関係ない。


 ◆


 あれから数年、一度実った恋は今もこの手の内にある。

 私たち夫婦は毎日を楽しく過ごせている。
 何が嬉しいって。
 やはり、想い合う相手が傍にいることだろう。

「明日誕生日だっけ?」
「ええ」
「素敵な贈り物を用意しないと、ね」
「いいのよそんなの」

 この先、すれ違うこともあるかもしれない。でも、それでも、きっと共に歩めるだろう。すれ違っても、ぶつかってしまっても、また仲直りすればいい。そうやって築かれてゆく関係というのもあるだろう。

「ダメダメ! 贈り物くらい用意しなくちゃ!」
「……ごめんなさいね、気を遣わせて」
「気にしないでよ、贈り物を用意するって結構楽しいから」
「ありがとう」
「楽しみにしていてね」
「ええ」

 ちなみに、かつて私を言いなりにしていた母は、私が家から出ていくとこき使える相手がいなくなったためにストレスを溜めたようだ。で、夫や息子に当たり散らすようになり、そんなことを続けていたある日、ついに我慢しきれなくなった二人から物理的な反撃を受けてしまったらしい。そう、殴られ蹴られ物を投げつけられ、というようなことをされたそうなのだ。で、その暴行によって、母は亡くなったそうだ。


◆終わり◆
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