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前編

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 婚約破棄された。

 まさかの展開だった。
 でもそれは現実で。
 現実ほど刺激的なものはない、そう言うけれど、どうやらその話はあながち間違ってもいなかったようだ。

 しかもその婚約破棄の理由というのが『もっと愛おしい人ができたから』とかいう雑なもので。

 信じられなかった。
 失礼かもしれないが、そんなことで!? と思ってしまって。

 でも彼はもう心を決めていて、その決意は今さらどうにかできるものではなかった。

 だから彼と別れる道を選ぶしかなかったのだ。


 ◆


 その日、私は、ある喫茶店にてテーブルの上にナッツを並べていた。

 ナッツ、それは、小さなパズルのピースみたいなもの。しかしパズルのピースと違って人工物でないのでそれぞれが独創的な形をしている。それを並べたりつんだりするのはさりげなく難しい。

 そんな遊びに打ち込んでいると。

「あの」

 一人の青年に声をかけられた。

「え。あ、はい――何でしょうか」
「ナッツを並べるの、凄くお上手ですね」
「そ、そうですか? ああ、でも、これはただの趣味で」
「実はナッツを器用に並べることができる方を探していたのです」
「ええっ!?」

 思わず大きな声を漏らしてしまう。
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