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前編
しおりを挟む「お前は華がない。良いところといえば家柄だけ。そんな女が俺のような偉大な男に努力もなくいつまでも愛されると思ったか? はっ、もしそうだとすれば馬鹿だな。愛され続けたいなら奉仕するべきだろう」
新興領主の家に生まれた一人息子で婚約者でもある青年オードベルは自信が凄い人だ。
そして、すぐに他者を見下そうとしてくる。
これまでもそうだった。
隙あらば私のことを悪く言ったり嫌みを言ったりしてきていた。
「よって! お前との婚約は破棄とする!」
だがこの日だけはそれまでとは違っていて、その口から出てくるのは悪口でも嫌みでもなく、婚約破棄だったのだ。
「……婚約破棄? 本気で仰っていますか?」
「はぁ? 当然だろう。それ以外に何があると言うんだ。この素晴らしい俺がそんなくだらない嘘をつくと思うか?」
「いえ、本気なのなら分かりました。では、これにて、私は去ります。失礼します。さようなら」
去り際、私の背に向かって彼は「可愛くないやつ!」とか「もう二度と顔見たくねえ!」とか吐き捨てていたけれど、もう無関係なので無視しておいた。
だって、もう、関係は終わるのだ。
今さら何を話す必要がある?
ないだろう、そんなもの。
話したからといって状況が変わるというわけでもないし。
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