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7話「美味しいものはどれだけあっても良いものですね」
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続けて運ばれてきたのは冷製スープ。
温かいものではないので湯気は出ていない。
しかし至って普通のコーンポタージュのような見た目をしている。
丸みを帯びた大きめのスプーンで液体をすくいあげる瞬間、ほのかに感じるのは香ばしさに似た匂い。食欲を掻き立てるような、液体を早く口へ運びたくなるような、そんな香りだった。
スプーンの先が唇に触れる時、期待感は最高潮に。
――そしてスープが口の中に流れ込む。
何か言いそうになって。しかし言葉を発することもまともにはできず。言いたいことはたくさんあるのにそのうちのひと欠片さえ満足に口にすることはできない。
ただ、それは、スープが大変美味だったから。
悪い印象だったから、とか、美味しくなくて感想に困ったから、とか、そういった意味で何も言えなくなってしまったわけではない。
少し不満があるくらいの方がまだしもそれらしいお世辞を言うことができただろう。
けれどもここまで隙のない美味しさに包まれてしまうと、感動の渦に呑み込まれていることは確かなのにその感動を上手く言葉に落とし込むことができず、ただ感動という名の沼に沈んでいることしかできない。
「どうだろう?」
思わず無口になってしまっていた私を見て、アイルティストンは少々戸惑ったような顔をしていた。
「……口に合えば良いのだが」
そこまで言われて、ハッとする。
「あ……も、申し訳ありません、つい黙ってしまい……」
「いや」
「感想をお伝えするべきでした……」
「そこを気にする必要はない。無理して喋らせるつもりもない。その辺りは自由にしていてくれ」
高貴な人であるアイルティストンに気を遣わせてしまい、反省した。
「凄く美味しいですよね、冷製スープ」
「好みに合わない場合は無理をする必要はない」
「ち、違います! 美味しいのです! ですが、その……その、美味しすぎて……言葉を発せなくなってしまっていました、すみません」
こうして言葉を交わしている時も我慢できずスープを飲み進めてしまう。
喋りながらなんて行儀が悪いと分かってはいるのだけれど。
それでも、美味しいものを口にしたいという素朴な欲望には抗えず、少しずつではあるがその美味しさを絵に描いたような液体を何度も口腔内へと運んだ。
また、食欲をそそるような匂いもそうなのだが、柔らかな甘さとしょっぱさのバランスが最高な味付けも素晴らしい。
甘すぎても気持ち悪さを感じるものだし、塩辛過ぎても違和感を覚えるもの――けれどもこのスープの味はどちらかに偏り過ぎていないためとても飲みやすいのである。
「とても美味しいです!」
思わず笑みがこぼれた。
「それは良かった」
ようやく彼もうっすらとではあるが笑みを浮かべる。
一気に柔らかくなる場の空気。
可憐な花が咲いたかのようだ。
「そろそろ次が届きそうだ」
「ワクワクします……!」
「そう言ってもらえるとわたしとしてもとても嬉しい」
のんびり言葉を交わしていると係の者が次の皿を運んできた。
平たい皿に乗っているのは肉の塊。いわゆるステーキ的なものだ。表面がこげ茶色になった肉が皿の上にどんと佇んでいる。メインとしてよく使われる肉だけあって、さすがに存在感抜群。
「大迫力ですね」
「そういう着眼点もあるのだな」
こんな立派な肉を見たのはいつ以来だろう。
しかもそれを食べるとなるとなおさらいつ以来だろうと考えてしまう。
……もちろん、良い意味で。
「おかしなことを言ってしまっていたらすみません」
「いやいい。謝るな。興味深く、ためになる」
「あと、カラフルなソースもおしゃれで素敵ですね」
「気に入ってもらえると嬉しいのだが」
「綺麗ですよね。目で見ても楽しめる料理というのはとても素敵だと思います。味が良いというのはもちろんですが見ていて明るい気持ちになれるというのもとても良いものだと……ぁ、すみません、何だか長々と」
温かいものではないので湯気は出ていない。
しかし至って普通のコーンポタージュのような見た目をしている。
丸みを帯びた大きめのスプーンで液体をすくいあげる瞬間、ほのかに感じるのは香ばしさに似た匂い。食欲を掻き立てるような、液体を早く口へ運びたくなるような、そんな香りだった。
スプーンの先が唇に触れる時、期待感は最高潮に。
――そしてスープが口の中に流れ込む。
何か言いそうになって。しかし言葉を発することもまともにはできず。言いたいことはたくさんあるのにそのうちのひと欠片さえ満足に口にすることはできない。
ただ、それは、スープが大変美味だったから。
悪い印象だったから、とか、美味しくなくて感想に困ったから、とか、そういった意味で何も言えなくなってしまったわけではない。
少し不満があるくらいの方がまだしもそれらしいお世辞を言うことができただろう。
けれどもここまで隙のない美味しさに包まれてしまうと、感動の渦に呑み込まれていることは確かなのにその感動を上手く言葉に落とし込むことができず、ただ感動という名の沼に沈んでいることしかできない。
「どうだろう?」
思わず無口になってしまっていた私を見て、アイルティストンは少々戸惑ったような顔をしていた。
「……口に合えば良いのだが」
そこまで言われて、ハッとする。
「あ……も、申し訳ありません、つい黙ってしまい……」
「いや」
「感想をお伝えするべきでした……」
「そこを気にする必要はない。無理して喋らせるつもりもない。その辺りは自由にしていてくれ」
高貴な人であるアイルティストンに気を遣わせてしまい、反省した。
「凄く美味しいですよね、冷製スープ」
「好みに合わない場合は無理をする必要はない」
「ち、違います! 美味しいのです! ですが、その……その、美味しすぎて……言葉を発せなくなってしまっていました、すみません」
こうして言葉を交わしている時も我慢できずスープを飲み進めてしまう。
喋りながらなんて行儀が悪いと分かってはいるのだけれど。
それでも、美味しいものを口にしたいという素朴な欲望には抗えず、少しずつではあるがその美味しさを絵に描いたような液体を何度も口腔内へと運んだ。
また、食欲をそそるような匂いもそうなのだが、柔らかな甘さとしょっぱさのバランスが最高な味付けも素晴らしい。
甘すぎても気持ち悪さを感じるものだし、塩辛過ぎても違和感を覚えるもの――けれどもこのスープの味はどちらかに偏り過ぎていないためとても飲みやすいのである。
「とても美味しいです!」
思わず笑みがこぼれた。
「それは良かった」
ようやく彼もうっすらとではあるが笑みを浮かべる。
一気に柔らかくなる場の空気。
可憐な花が咲いたかのようだ。
「そろそろ次が届きそうだ」
「ワクワクします……!」
「そう言ってもらえるとわたしとしてもとても嬉しい」
のんびり言葉を交わしていると係の者が次の皿を運んできた。
平たい皿に乗っているのは肉の塊。いわゆるステーキ的なものだ。表面がこげ茶色になった肉が皿の上にどんと佇んでいる。メインとしてよく使われる肉だけあって、さすがに存在感抜群。
「大迫力ですね」
「そういう着眼点もあるのだな」
こんな立派な肉を見たのはいつ以来だろう。
しかもそれを食べるとなるとなおさらいつ以来だろうと考えてしまう。
……もちろん、良い意味で。
「おかしなことを言ってしまっていたらすみません」
「いやいい。謝るな。興味深く、ためになる」
「あと、カラフルなソースもおしゃれで素敵ですね」
「気に入ってもらえると嬉しいのだが」
「綺麗ですよね。目で見ても楽しめる料理というのはとても素敵だと思います。味が良いというのはもちろんですが見ていて明るい気持ちになれるというのもとても良いものだと……ぁ、すみません、何だか長々と」
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