婚約している王子には少しも愛されていない聖女でしたが、幸せを掴むことができました!

四季

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11話「不思議な感じです」

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 アイルティストンが連れてきたシェフのコース料理はとても美味しかった。

 とても美味しかった、なんて言ったら、表現がありふれすぎていてその魅力や感動が伝わりづらいかもしれない。けれども、そんな風に語彙力が失われてしまうくらい美味しかった、というのが答えなのだ。その美味しさは、その感動は、細やかな言葉の表現ができる程度のものではなかったということなのである。

「今日は楽しんでもらえたか」
「はい、とても素敵な時間でした」

 食事の後は二人で少し庭園を散歩。
 軽い運動も兼ねて。
 その時は庭に咲いている花について話をした――なんせ私たちにはまだぱっと盛り上がれるような話題がないのだ。

 なので最もシンプルな話題を選んだ。
 目の前にあるものについて話すなら誰でもできることだし容易いことだから。

 だが、少々意外なことに、アイルティストンは花に詳しかった。

 心ない人ではないものの淡々とした雰囲気のアイルティストンだから花が好きというようなイメージはなかったのだけれど、彼は、思っていたより良い調子で花の話に乗ってきてくれた。しかも花に関する知識もそこそこあるようで。むしろこちらが遅れてしまうほどに、彼はいろんなことを話してくれた。

 ――そうしてその日は終わった。

 帰宅してからもしばらく私は浮かれていて。
 こんな幸せな気分になるのはいつ以来だろう、というような感覚が、いつまでも胸の中に残っていた。

 アイルティストンのことを考えるだけで自然と笑みが滲んできてしまう。

 ガオンにされたこととか、親からの何とも言えない視線とか、今はそんなことはどうでもいい。そんなことよりも目の前の幸せに身を委ねたい、なんて。贅沢なことだけれど、そんな風に思えて。
 まだ何も始まっていない、それなのに、とても大きなことを成し遂げようとしているかのような感覚がある――そしてそれが幸せなのだ。

 彼との出会いが私を変えた。
 今は純粋にそう思う。
 少し前まで何の意識もしていなかったのが嘘みたいだ。

 ……余計なことを考えすぎかもしれない。

 でも、考えてしまうという事実も含めて私という人間なので、そこは仕方ないだろう。

 私を変えることはできない。
 なぜなら私はどこまで行っても私だから。



 あれから一週間ほどが経った。
 あの日からはかなりの時間が流れたけれど幸福感は失われてはいない。

 だが今日はまた嬉しいことがある。

 ――そう、アイルティストンに会えるのだ。

 前回別れしなに彼は次の約束をしてくれた。そしてそれが今日だったのである。本当に約束を守ってくれるのか、なんていう不安も、若干はあったのだけれど。やはり約束は約束だった。彼は一度した約束をなかったことにはしなかった。

「こんにちは!」
「元気そうで何より」

 今はもう会えるだけで嬉しい。

「お忙しい中、すみません」
「それはこちらが言うべきことだな」
「ええっ……私はそんな忙しくはありませんよ」
「あの時、こちらの都合で無理に次を決めてしまったのではと、少々気になっていた」

 今日は白いドレスを着てきてみた。
 ドレスと言ってもシンプルなデザインのものなので悪目立ちしてしまうことはないだろう。

 ある程度高級な生地のものなので、アイルティストンの隣に立つにはもってこいなものではないかと思われる。

 これまではおしゃれにはそれほど興味はなかったけれど。

 彼と会う、と思えば、そういう努力も苦にはならない。

「いえ、お会いできて嬉しいです」
「なら良かった」

 今日も護衛は傍に配置されている。それゆえ、厳密な意味で二人きりになることはない。だが護衛は基本的には干渉してこないので、交流という意味であれば二人きりのようなものだ。互いの瞳に映り込むのは互いの姿だけ。

「本日のコースだが」
「はい?」
「あまり目立ってしまっても問題なので、山方面へのお出掛けとしたい」

 アイルティストンは一国の王だ。
 どこにいても目立つ。
 ゆえに人の目が多くある街中を堂々と歩くというのは難しい。

 女連れで、となれば、なおさら。

 彼はまだ未婚なのだから悪いことをしているわけではないし隠れて行動しなくてはならないわけでもないのだけれど、やはりそこは一応、目立ち過ぎる行動は控えるよう心がけているようである。

「あまり楽しくないコースとなってしまっていたら申し訳ない」
「アイルティストン様とであればきっとどこへ行っても楽しいと思います」

 すると彼は。

「……む」

 何かを呑み込むような顔をした。

 一気に込み上げる不安。

 無礼があったかと心配になり、いやに心が揺さぶられる。

「あ……す、すみません、私……おかしなことを言ってしまっていましたら、謝罪します」

 慌ててそんな言葉を発したところ。

「いや、そうではない」

 彼は首を横に振った。

「少々戸惑ってしまったのだ」
「どういうことです?」
「想定していなかった言葉をかけられたものだから」

 少し間があって。

「わたしとであればどこへ行っても楽しい、などと、そのようなことを言われる日が来ようとは」

 彼はそっと呟くように述べた。

「それは本心です。けれど、戸惑わせてしまったなら申し訳ありません」
「いやいいんだ。むしろ嬉しく思う。ありがたい言葉だ」

 何とも言えない空気が漂うけれど、それは決して悪い意味合いのものではない。
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