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前編
しおりを挟む私の婚約者であるルルージェ王子は、国王の息子という貴い人ではあるが、それに相応しい素敵な心を持った人ではない。むしろ、その地位が悪い方に影響を及ぼしてしまったパターンで。いつも口はぽかんと空いていて鼻水を垂らしているような状態であるにもかかわらず、周囲には非常に高圧的で、すぐに癇癪を起こす。周囲への配慮、なんて、欠片ほども持っていない人である。
「おい! 女! 早く茶淹れろよ!」
「はい」
「おっせぇなぁ!」
「申し訳ありません、数分はかかります」
「ぐずぐずしてんな! 早く、って、言ってんだろ! 王子たる僕の命令が聞けないのか? 雇ってもらってんだろ、いい加減にしろよ!?」
――侍女とのこんなやりとりは日常茶飯事である。
そんな彼だから、私は嫌いだ。
どうしても好きになれない。
地位が上だからって権力で脅したたり圧をかけたり。
どうしても馴染めない。
上に立つ者は、あくまで、寛容であるべきではないか。酷い失敗を繰り返す、とかならともかく。ちょっとしたことにあれこれ言うような狭い心の持ち主であってはならないはずだ。
でも、だからこそ。
「お前との婚約、破棄とする!!」
そう告げられた時は驚きつつも嬉しさもあった。
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