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婚約破棄されたのは辛いことでした、が、その後に出会った彼との関係は心地よい癒しに満ちたものでした。
しおりを挟むこうして手と手触れているだけで、心の傷は癒えてゆく。
……いいえ、完治はしない。
ただそれでも、誰かとこうして手を握っているだけで、少しは心が楽になってゆく――そんな気がするのだ。
まやかしかもしれないけれど。
「私、もう気にしないわ」
「そうだね」
「婚約破棄されたって……貴方がいてくれれば何も怖くない」
そう、私はつい先日、幼馴染みで婚約者だった彼に捨てられた。
一方的に告げられた婚約破棄。
あまりに理不尽で。
けれども告げられた時にはこちらが何を言っても無駄という状態にまで進んでいて。
「これからも、ずっとこうしていてくれる?」
でも、その直後に出会った。
今そっと隣り合って手を繋いでいる彼に。
「もちろん」
彼と過ごす時間だけは、辛い記憶を少し忘れられるような気がする。気のせいかもしれない、でも、辛さが減るならそれでもいいと思っている。ずっと辛いままで息をしているなんて嫌だから。軽い痛み止めみたいなもの、それだけでも構わない。私はただ少しの間だけでも胸の痛みから解放されていたいのだ。
◆
あれから三年二ヶ月、私との婚約を破棄した元婚約者の彼は恋人の女性に騙されてあまりよろしくない感じのパーティーに連れていかれ、薬物中毒で亡くなってしまったらしい。
一方私はというと、婚約破棄後に出会った彼と結ばれた。
驚かれるだろうか。
でも事実だ。
束の間の癒しを求めて巡り会った彼と、正式に夫婦となったのだ。
これからはお互いに助け合い支え合いながら生きてゆく。
◆終わり◆
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