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前編

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「ラトリツィアさん! あなたって、ホント理想的でない女性よね! きっと勉強ばかりしていたからだわ!」

 いやに高いひきつったような声で嫌みな発言をしてきたのは婚約者の母親。
 彼女は婚約が決まった時から私のことを嫌っていた。
 もしかしたら、私が、上級学校まで通っていて彼女より良い学歴だからかもしれない。

 彼女は自分の学歴が女性にしては良いものであることを自慢に思っていたようだから。

 それを越える人間が近くに現れたら。
 きっと面白くないだろう。

「あなたみたいな人に、あたしが大切に大切に育てたオヤレスを差し上げることはできないわ!」
「と、言いますと?」
「オヤレスとあなたの婚約、あたしの権限で破棄とさせていただくわ!」
「……本気ですか」
「ええ! 当たり前よ、冗談でこのようなことは言わない。当然でしょう」
「そうですか。でも、オヤレスさんはそれに賛同しているのですか? 彼が納得しているのかが気になります」
「う……うるさいわね! 当たり前よ! そうできるならしたい、って……言っているに決まっているじゃない! 少し学歴が良いからと馬鹿にしないで!」

 いちいち学歴の話を出してこないでほしい。それも、無関係な時に、というのは、特にやめてほしい。こちらはそのようなことはほぼ話していないのだから、敢えて言わないでほしい。それで勝手に私に対して嫌な印象を抱かれても、困ってしまう。

「そういうことだから! 二度と息子に近づかないでちょうだい!」
「分かりました」
「ふ……ふん、物分かり良いじゃないの」
「ありがとうございます」

 笑顔で言って、私は彼女の前から去る。
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