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18話「他国にまで噂が流れてくるほど」
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メリーに関する苦情はルッティオのところへたびたび届いている。
それゆえルッティオも最初はどうにかしようと努力した。
何とか彼女によい振る舞いを取り戻してもらおうと考えて。
だが、ルッティオが注意しても、メリーは聞き流すだけで一向に改善しない。
そのうちにルッティオは諦めてしまった。
無理だ。
どうしようもないものは仕方がない。
そうして更生させることを諦めたルッティオは、メリーの怒りに触れないよう気をつけて生活するだけの男と成り下がった。
そんな彼を馬鹿だと罵る者もいる。
女一人さえコントロールできない男、と、馬鹿にしたような言葉を発する者も。
そういった者には罰を下した。
だが、やりやすい者に対してだけ罰を下す小心者と皆に知れわたってしまい、結果彼の評判はさらに落ちることとなってしまう。
彼は元々皆に尊敬されていたわけではない。
だがそれでも王子。
ゆえに一応ではあるが周囲は彼に対して敬意を持って接していた。
しかしその敬意すら今は皆の中から消え失せつつある。
もう誰もルッティオを敬いはしない。
ただの馬鹿王子――それが皆の共通認識である。
メリーはというと、城へ来てから集めた大量の高級ドレスを満足そうに眺めていた。
「うふふ、今日も美しい」
手に入れたものを目にしている時、彼女はご機嫌だ。
だがそのご機嫌さも長くは続かないもので。
「失礼いたしま――」
「ちょっと! 今いいところなのに入ってこないでよ!」
特にメイドなどが視界に入ると彼女の機嫌は急変する。
「っ、ぁ、すみませ……」
「あんた何なの? どういうつもり? メリーの幸せ時間の邪魔をするなんて」
「い、いえ、お食事が……」
「はぁ? 何よそれ。そんなくっだらないことで未来の王妃の時間を台無しにしていいと思ってるわけ?」
メリーは一度不機嫌になるともう手が付けられない。
それは発作のようなもの――誰かはそう言った。
「必要になったらこっちから頼むわよ!」
「で、ですが……お時間が」
「うるさいわね!! 口ごたえしてんじゃないわよメイド風情が!!」
鬼の形相で怒鳴られ、メイドは「申し訳ございませんっ」と発しつつ急いで退室した。
室内に静寂が戻る。
メリーは、はあぁぁ、とわざとらしく大きな溜め息をついた。
「ったく、迷惑なメイドだこと」
一人呟いて。
呆れたような顔をする。
「あ、そーうだっ。今度あの本のドレス買うようルッティオに頼まなくっちゃ」
◆
「ルッティオ王子の奥さんメリーさんって、エリサ様の妹さんなんですよね?」
若いメイドであるリリアンはエリサにお茶を届けたついでに話を振る。
「え。あ、はい。そうです」
「噂聞きました。何だか結構凄い方みたいですね」
「……どんな噂ですか?」
「好き放題、わがまま放題、そして贅沢しまくり、みたいな感じらしいですよ」
そう聞いても驚きはなかった。
「周囲はすっごく困ってるみたいですねっ」
メリーがろくでもないことをするであろうことは容易く想像できた。だがまさか隣国のメイドであるリリアンの耳にまで話が届くほどとは思わなかった。悪行を重ねるにしても、まさかそこまでとは。国境を越えるほどとは。さすがにそれは想定外である。
「凄く迷惑かけていそうですね……」
若干申し訳なさを感じる。
だがどうか忘れないでほしい。
私もまた被害者なのだ。
姉ではあるが彼女にとことん迷惑をかけられてきた者なのである。
「まっ、エリサ様には関係ないことですけどねっ」
きっとこれからもメリーは周りに迷惑をかけながら生きてゆくのだろう――だがその災難を招き入れたのは外の誰でもないルッティオなのだ。
つまりは自業自得である。
それゆえルッティオも最初はどうにかしようと努力した。
何とか彼女によい振る舞いを取り戻してもらおうと考えて。
だが、ルッティオが注意しても、メリーは聞き流すだけで一向に改善しない。
そのうちにルッティオは諦めてしまった。
無理だ。
どうしようもないものは仕方がない。
そうして更生させることを諦めたルッティオは、メリーの怒りに触れないよう気をつけて生活するだけの男と成り下がった。
そんな彼を馬鹿だと罵る者もいる。
女一人さえコントロールできない男、と、馬鹿にしたような言葉を発する者も。
そういった者には罰を下した。
だが、やりやすい者に対してだけ罰を下す小心者と皆に知れわたってしまい、結果彼の評判はさらに落ちることとなってしまう。
彼は元々皆に尊敬されていたわけではない。
だがそれでも王子。
ゆえに一応ではあるが周囲は彼に対して敬意を持って接していた。
しかしその敬意すら今は皆の中から消え失せつつある。
もう誰もルッティオを敬いはしない。
ただの馬鹿王子――それが皆の共通認識である。
メリーはというと、城へ来てから集めた大量の高級ドレスを満足そうに眺めていた。
「うふふ、今日も美しい」
手に入れたものを目にしている時、彼女はご機嫌だ。
だがそのご機嫌さも長くは続かないもので。
「失礼いたしま――」
「ちょっと! 今いいところなのに入ってこないでよ!」
特にメイドなどが視界に入ると彼女の機嫌は急変する。
「っ、ぁ、すみませ……」
「あんた何なの? どういうつもり? メリーの幸せ時間の邪魔をするなんて」
「い、いえ、お食事が……」
「はぁ? 何よそれ。そんなくっだらないことで未来の王妃の時間を台無しにしていいと思ってるわけ?」
メリーは一度不機嫌になるともう手が付けられない。
それは発作のようなもの――誰かはそう言った。
「必要になったらこっちから頼むわよ!」
「で、ですが……お時間が」
「うるさいわね!! 口ごたえしてんじゃないわよメイド風情が!!」
鬼の形相で怒鳴られ、メイドは「申し訳ございませんっ」と発しつつ急いで退室した。
室内に静寂が戻る。
メリーは、はあぁぁ、とわざとらしく大きな溜め息をついた。
「ったく、迷惑なメイドだこと」
一人呟いて。
呆れたような顔をする。
「あ、そーうだっ。今度あの本のドレス買うようルッティオに頼まなくっちゃ」
◆
「ルッティオ王子の奥さんメリーさんって、エリサ様の妹さんなんですよね?」
若いメイドであるリリアンはエリサにお茶を届けたついでに話を振る。
「え。あ、はい。そうです」
「噂聞きました。何だか結構凄い方みたいですね」
「……どんな噂ですか?」
「好き放題、わがまま放題、そして贅沢しまくり、みたいな感じらしいですよ」
そう聞いても驚きはなかった。
「周囲はすっごく困ってるみたいですねっ」
メリーがろくでもないことをするであろうことは容易く想像できた。だがまさか隣国のメイドであるリリアンの耳にまで話が届くほどとは思わなかった。悪行を重ねるにしても、まさかそこまでとは。国境を越えるほどとは。さすがにそれは想定外である。
「凄く迷惑かけていそうですね……」
若干申し訳なさを感じる。
だがどうか忘れないでほしい。
私もまた被害者なのだ。
姉ではあるが彼女にとことん迷惑をかけられてきた者なのである。
「まっ、エリサ様には関係ないことですけどねっ」
きっとこれからもメリーは周りに迷惑をかけながら生きてゆくのだろう――だがその災難を招き入れたのは外の誰でもないルッティオなのだ。
つまりは自業自得である。
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