上 下
2 / 4

2話「心ない者しかいない世界で」

しおりを挟む
 ◆


 それから一年。
 明日が結婚式という日に、再び悲劇が起きた。

「お前との婚約、やめるわ」

 アーロンが勝手なことを言い出したのだ。

 明日のため色々準備してきた。なのに今さらそれをやめるだなんて。普通の人にはとても想像できない。いや、まず、一般人にはそういう発想がない。災害や大事件が原因ならともかく。

「そんな、待ってください。やめるとなったらこれまで準備してきたものはどうなるのですか? 人も既に招いています。どうするのですか?」

 すると彼は激怒した。

 彼は私の片手首を掴み、圧をかけながら、脅す。

「逆らうな、外れ女」

 どうして私はいつもいつもこんな目に遭うのだろう。
 狡いことも悪いことも酷いこともせず、まっとうに生きてきたのに。

 運が悪いのか?

 いや、だとしたら、驚くほど悪いと言えるだろう。

 ここまで誰にも愛されず欲されないとは、こんな人生になるとは、幼い頃は夢にも思わなかった。幼い頃は、いつかきっと良い人に巡りあえるのだと信じていた。

 でも現実は甘くなくて。

 まだ夢をみていた頃の私に教えてあげたい。
 未来に希望はないのよ、と。

「ま、そういうことだからさー。式の中止はうちから伝えておくし、気にしなくていーよ。じゃ、ばいびー」

 こうして私は彼に捨てられた。

 翌日の式は中止。
 必然的に実家へ帰ることとなってしまう。

「あの家のお嬢さん、式前日に婚約破棄されたそうよ」
「上のほう? 下のほう?」
「下よ」
「あぁ~、確かに、そっちはぱっとしないものね~」
「でも式前日にだなんて可哀想ね」
「気の毒に~」

 道を歩くだけでもひそひそ話をされてしまう。

 その時の私にとっては、それが何よりも辛いことだった。たとえ気の毒に思ってくれているとしても、である。本人に悪意はなくとも、弱った心には言葉一つ一つがぐさぐさ突き刺さるものなのだ。

 しかも母親には「あんた何やらかしたの? 浮気?」などと言われてしまった。
しおりを挟む

処理中です...