ピアノを弾くのが得意だったのですが、ある事故で……。～婚約者は実は酷い人でした、けれども本性が分かって良かったです～

２話

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「そっか、うん……うん、そうなんだ……うん、うん、辛いよねそれは……そうだと思うよ……うん、ん……うん……」

　ピアノを自由自在に弾ける手を失い、婚約者アドスには捨てられ――絶望しかない世界を彷徨っていた私を救ってくれたのは、今回の事故の件でお世話になってる病院で働く若いお手伝いの青年リュッツだった。

　どことなく気が弱そうな彼は、私の苦しみに理解を示し、いつだって話を聞いてくれたし心の痛みにそっと寄り添ってくれた。

　そんな彼のことを、私は気づけば好きになっていて。

「リュッツくん、いつも本当にありがとう」
「いえいえ！」
「あのね、私、実は……実は、伝えたいことがあって」
「ん？　何？」
「でもね、これを伝えると、迷惑かもしれなくて」
「迷惑？　大丈夫ですよ！　よければ言ってみてください！」

　その日、私は本心を伝えることにした。

「リュッツくんのこと、好きになっちゃったみたいなの！」

　たとえすべてが壊れても後悔はない。

「え」

　驚いた顔をするリュッツ。

「……ごめんなさい、迷惑でしょうこんなの。でも……どうしても言いたかったの。だから、ね……ごめんなさい、けど、聞いてくれてありがとう」

　刹那、彼は私の手を掴んできた。

「僕も好きです!!」

　彼は勢いよく迫ってくる。

「え……？　え、あ、え……？」
「好きなんです!!」
「ど、どういう……」
「実はずっと憧れていました！　リフィナさんのこと！　本当は好きで、でも、言えなくて……でも！　本当は素晴らしい方だと思っていました！」

　どうやら彼もまた私と同じ気持ちでいてくれていたようだ。

　今、二人の心が重なる。

「ということは、これって……」
「両想い！　ってやつみたいですね！」
「嘘みたい……」
「僕の気持ちは嘘じゃないですよ？　リフィナさん」

　信じられない。

　いや、そもそも、こんな都合の良い話を信じて良いのだろうか？

　でも……目の前にいるリュッツの表情は真っ直ぐで、嘘や冗談を言っているようには見えない。