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後編

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「迷惑だったでしょ? もう移動するからね。いつもお仕事ありがとう。ええと……エミリーエラさん、だっけ? 素晴らしいお仕事なさってるよね」
「いえ、そんな」
「じゃあこれで失礼するね」
「はい」

 この時はそこまでで別れたのだが――後に私はアダルから婚約破棄について少し話を聞いてほしいと言われて二人で話をするようになり、段々親しくなっていった。

 そして、ある時、ついに。

「エミリーエラさん、僕と結婚してくれないかな」

 そんなことを言われる時が来る。

「え……、あ、あの、私……ですか?」
「そうだよ。君なんだ」
「でもどうして……? 私?」
「どうして、って、簡単なことだよ。君に話を聞いてもらっているうちに段々好きになっていったんだ」

 ――そして私はアダルと結ばれたのだった。


 ◆


 アダルとの結婚から数年。
 私たちは今も日々楽しく穏やかに暮らしている。

 昨年の冬、アダルが流行り病にかかった時は、かなり苦しんでいてどうなることかと思った。が、必死に看病して、何とか回復した。今ではすっかり元通りになっている。
 あの時はたくさん心配もしたけれど、こうしてまた元気に戻ってくれて良かった。
 体調が回復して、本人から感謝もしてもらえたので、一生懸命看病して良かったと強く思えた。

 あの一件で、私たちの絆はより深まった気がする。

「今日はいい天気だね」
「そうですね」

 そうして迎えた春が現在だ。
 気温も徐々に暖かくなってきていて、冬場より過ごしやすくなっている。

「あ、そうだ。ずっと言おうと思ってたんだけどさ」
「何ですか?」
「エミリーエラ、そろそろ敬語崩さない?」
「え……」
「その、ちょっと、もう少し親しげな喋り方にしてもらえないかなーって。まぁこれは僕の勝手な希望なんだけど」

 そうそう、そういえば、ルイボースはあの後『理不尽に婚約破棄を言いわたした少々問題のある女』として評判を落としたそう。また、異性からは常にそういう人間として扱われるようになり、相手が見つからずすっかりひねくれてしまったそうだ。今は「もう結婚はしない」が口癖となっているとか。また、結婚という単語を聞くだけでも不機嫌になるのだそうだ。

 だがまぁ、アダルとの婚約を破棄するというのは彼女が勝手に決めて実行したことだから――そのせいでどうにかなったとしても可哀想ではない。


◆終わり◆
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