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9話「迫る嵐に身を震わせて」
しおりを挟む「何の音!? 何事!?」
声がした。
クリステの声だ。
隣の部屋で寝ている彼だけれど、多分、窓が割れる大きな音を聞いて駆けつけてくれたのだろう。
掛け布団の隙間から声がした方を見れば寝巻きのままの彼の姿があった。
「シェリアとかいう女を出せ! ここにいるんだろう!?」
「隠してやがるのか!?」
「シェリアはどこだ!!」
ああ、やはり、また私のせいで……。
胸が苦しい。
でも、助けてほしい。
そう思うのは贅沢だろうか……。
それは、既にべったりと水を含まない絵の具を塗った画用紙に上から他の色を塗りつけてゆくようなもの。水を含ませていない絵の具のような感情複数が一つの机の上で混じり合い目も当てられないくらい汚くなるような、そんな感じ。
「勝手に侵入するとは! 立派な不法侵入だ!」
クリステははっきりと言葉を返す。
「死にたくないのなら、それ以上動かないこと!」
だが男たちは止まらなかった。
彼らは「王子の命令だから何してもいいんだよ!!」と言い放ち、武器を手にクリステに襲いかかる。
けれども数秒のうちに次々地面に叩き落とされる。
クリステが発動した魔法によって男たちは順番に仕留められていたのだ。
だが、最後に残った一人の捨て身の攻撃によって、クリステは左肩を負傷してしまう。
ずっと隙間から見ることしかできていなかった。
けれども愛する人の負傷を見ていられず。
我慢の限界が来て、思考より先に身体が動き、飛び出してしまう。
「もうやめてっ!!」
私はほぼ無意識で刃物を手にした男へ突進。
体当たりでバランスを崩させる。
想定外の方向から当たられた男は地面に転がる。
「彼に酷いことしないで!!」
叫んだ、直後、クリステの魔法が男の眉間を貫いた。
乱れた呼吸ですぐ傍に倒れる男を見下ろす。
私が殺したのではない。
それでも、死した者を近くでここまで見るのは初めてで、金縛りにあったかのように動けなくなってしまった。
「シェリア! 大丈夫? 何もされていない!?」
声が聞こえて、正気を取り戻す。
「あ、あ、そうだった、クリステ! 怪我して」
「ああ大丈夫これは……」
「私は平気よ、隠れていたから何もされていないわ」
「なら良かった……」
赤く染まる左肩を右手で押さえ苦痛に耐えているクリステの表情は、私が知らない彼を露わにしているかのようだった。
こんな顔は知らなかった……。
楽しく遊んでいたあの頃。
そして一緒に暮らしているこの頃。
そこにはなかった色だ。
「と、取り敢えず、手当てしなくちゃ……ええと、まずは、気道確保、とか……?」
ばらばらになった記憶を辿ってみる。
けれども良い情報が出てこない。
「待ってそうじゃない……」
「違った? あ! そうだ! 血を止めて、確か……」
「学生の時習うやつか……」
「傷より心臓に近いところをマッサージ、だったかしら?」
「色々交ざってるって……大丈夫かな……」
その後何とか彼の指示で手当てを済ませることができた。
幸いそこまで深い傷ではなかったようで、少ししたら動けるようになっていた。
「王子の命令って言ってたな」
「……私のせいね」
「シェリア! いちいちそんなこと言わなくていいよ! 気にしないでいいよ!」
「ご、ごめんなさい……」
「あ、いや、その、ちょっと今のは強く言い過ぎたな。ごめん」
気まずい夜を迎えることとなってしまった。
だが今は生き延びられたことを喜ぶべきか――。
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