婚約破棄、涙の跡。

四季

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婚約破棄、涙の跡。

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「君みたいな人、僕は嫌いなんだよね。美人なだけでさ、他の魅力はない」

 婚約者は平然とそんなことを言ってきた。
 そして。

「ということで、婚約は破棄とするから」

 その言葉で、私たちの関わりを強制終了させた。

 あれから二時間。
 私は今、外を一人で歩いている。

 屋敷にいると親の悲しそうな顔を見なくてはならない。どうしてもそれが辛くて。だから一人でここへ来た。外を一人で歩いていれば、親の顔を見なくて済む。あの悲しそうな瞳を、目に映さなくて済むのだ。

 あぁ、これからどうしよう……。

 考えているうちに疲れて、涙が出てくる。

 私はそのまま衝動的に近くの崖へ足を進めて。

「……さようなら」

 こんなことをするつもりはなかった。
 せっかく貰った命なのに。

 でも、もう止まらない。

 崖から飛び降りる。

 最期に見たのは、宙を舞う涙の粒だった。

 あの涙の粒はいつしか地表に落ちて、きっと、地に跡を残すのだろう。
 それが私が生きた証。
 この身は消えようとも、跡だけはこの星に刻まれる。


◆終わり◆
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