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前編
しおりを挟む私は誰からも愛されなかった。
実の両親からはいつだって可愛い妹と比べられ、妹からはダサい姉としてたびたび嫌がらせを受け、周囲からも「どうして姉妹であんなに違うのかしら」みたいなことばかり言われて――しまいには唯一私に嫌がらせをしなかった婚約者アルデハードまでも妹に奪われてしまった。
そうか、私は結局誰からも大事にされない人生だったのだ。
それが定めだったのだ。
きっとそう。
だから何をしても努力をしても無駄で何一つ変わらなかったのだろう。
……もうおしまいにしよう、こんな人生。
そう思ってやって来た、西の崖。
ここは多くの命が散っていった場所だ。
私は今日、ここで生を終える――そのつもりでいたのだけれど。
「待って! 駄目!」
「ぁ……」
強い意志を持って飛び降りようとした刹那、何者かが私の右手首を掴んだ。
「何してるの! 駄目だよ飛び降りたら!」
そう言ってくれたのは知らない人だった。二十代半ばくらいと思われる容姿の爽やかそうな青年。暗めの茶色をした髪を強い風に揺らしている。
「……あの、やめてください、離してください」
「死のうとするなら離さない!」
「放っておいてください! ……貴方には関係ないでしょう、私がどうなったって」
「そんなこと! 言っても、駄目なものは駄目なんです!」
「……もう、いいでしょう離して」
「駄目です! 死なないと言うまで絶対に離しません!」
少し言い合いになって。
――それから私の方が折れた。
それほどに彼は頑固だったのだ。
「駄目ですよ、死んだりしては」
「……私はどうせ誰にも愛されない、持っていたものですら妹に奪われてしまう、こんな人生……続けても意味がないのです。だからもう終わりにしたいのです。なのにどうして……酷い……」
あれこれこぼしてしまっていたら。
「ならうちへ来てください!」
「えっ」
彼は急に意外な提案をしてきた。
「家に帰るのが嫌なら帰らなければいいんです!」
「えええ……」
「こうして出会ったのも何かの縁、少しうちで休んでいってはどうですか?」
そうして私は彼の家へ行かせてもらった。
少しでも休めそうかと思ったからだ。
犯罪の香り、とか、怪し過ぎ、とかは、その時はあまり気にならなかった。
――その後私は彼と共に暮らすようになる。
でもそれで良かった。
どうせ実家へ戻ったって婚約破棄の件で切なく辛い思いをするだけだから。
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