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三十七話「カザフさん、厄介な人が相手でも負けない」
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やたらと見つめてくる女性三人組のうちの一人、三人の中で一番背が高い人が、リズのナムナン真珠を奪おうとした。だが、カザフはそれを何とか防ぐ。
「ちょっとぉー。あたちが悪いことしたみたいにぃ言わないでよぅー」
「手をいきなり掴んだりするのは危ないし、成果の横取りは駄目だよ」
「何それぇー。あたち何もしてないしぃー」
カザフの意識が背の高い女性に向いていた時だ。
「たあっ」
背後から突然そんな声が聞こえてきて、カザフは振り返る。すると、三人組の中で一番背が低い女性が、リズに体当たりしているのが視界に入った。
「ちょっ、危な……!」
「ていっ」
丸みを帯びたレンズの眼鏡をかけた小柄な女性に全力でぶつかられたリズは、バランスを崩し、後ろ向きに倒れる——そして、海に落ちた。
「リズさん!」
カザフは叫び、すぐに水面を覗き込む。
海に落とされたリズはじたばたしていた。
「落ち着いて! 暴れちゃ駄目だよ!」
「助けてっ……」
リズは何とか海面から頭を出すと、陸の方にいるカザフに助けを求める。
想定外のことに巻き込まれてしまった彼女は、第三者が見ても分かるほど慌てていた。とにかく必死。ナナの店に来ていた時の彼女とは別人のようである。
「待って! すぐ助けるから!」
そう言って、カザフは陸から手を伸ばす。
リズはそれまでやみくもに動かしていた腕を懸命に伸ばし、やがて、カザフの手を掴むことに成功した。
彼女の手が自分の手首を掴んだことに気づいたカザフは、一気に引き上げる。
カザフの頑張りのおかげでリズは無事救助された。
助け出されたリズは、両手両足を地面についたまま肩を激しく上下させる。長い髪は海水で完全に濡れてしまっていた。
「大丈夫? リズさん」
「へ、平気……」
リズはそう答えるが、平気そうには見えない。
いや、そもそも、髪も顔も服もすべてが水浸しなのだから、平気なわけがない。
海に潜って暮らしてきた民族の出の者などなら平気かもしれないが、リズはそうではない。それゆえ、海に落とされても気にしないという可能性はゼロに近い。しかも女性だ、気にするに決まっている。
「あっははは! だっすぅわーい!」
水浸しになったリズを見下ろしながら、背の高い女性は笑う。こんな楽しいことは年に一度くらいしかない、というくらいの、凄まじい笑い方である。
「へへへへへっ」
続けて、リズを海へ落とした小柄な女性も笑い始めた。
「ちょっと君たち、笑いすぎだよ」
カザフが二人を睨むと、二人は何事もなかったかのように返す。
「えぇー? あたちら無関係ですよぅー?」
「へへっへへへっえへえへっ」
その時、カザフは、視界の端で何かが動いたことに気づく。
「待って!」
カザフは咄嗟に叫んだ。
叫びに対して気まずそうな顔をしたのは、ボリュームのある赤毛の女性。
三人組のうちの一人だ。
「あ……」
「駄目だよ、他人の物を盗むのは」
カザフに真剣な顔で言われた赤毛の女性は、両眉をハの字にしながら、おろおろする。その手には、リズのナムナン真珠。
「あ、あうっ……え、えと……あ……」
リズのナムナン真珠を持ったまま狼狽える赤毛の女性を庇うように、背の高い女性が口を開く。
「ちょーっと! あたちの友達に言いがかりつけないでもらえるぅー?」
高身長の女性は、カザフを見上げながらそんなことを言い放った。
カザフは冷静に返す。
「言いがかりじゃないよ」
「いきなり盗人扱いなんてぇー。酷いわぁー。証拠があるーって言うのぉ?」
「現に、彼女が持ってるよね」
海水で全身が濡れたリズは、まだまともに口を開けない状態だ。
「えぇー? この娘優しいから、落とし物かと思って拾ってあげただけじゃなぁーい!」
「そうっそうっ」
小柄な方の女性まで参加してきた。
「拾ってあげたのなら、落とし主に返すべきじゃないのかな」
女性たちは数で押し切ろうとしてくる。でも、そんな策に乗って押し切られて良いわけがない。
そう思うからこそ、カザフは落ち着きを保ちつつやり取りを継続する。
圧に負けてはいけない。
数で押し切られてはいけない。
リズを護ろうと思うなら、ここで黙ったり折れたりしては駄目だ。
「仕方ないじゃなぁーい。落とし主が不明なんだもーの」
「そうっそうっそうそうそそうっ」
背の高い女性と背の低い女性は、三人組だけあって妙に仲良しである。
「落とし主はリズさんだよ」
カザフが真実を述べても、二人は赤毛の女性を庇い続ける。
落とし物を拾ってあげただけとか、道に落ちていたから採取しただけとか、彼女たちはそんなことばかり言う。
リズを護ろうと頑張っていたカザフがさすがに疲れてきた、その時。
「失礼致します」
黒髪に眼鏡の真面目そうな男性係員が姿を現した。
「一部始終、録画させていただきました。他の冒険者に意図的に危害を加えた冒険者には、罰則があります」
「ちょっとぉー。あたちが悪いことしたみたいにぃ言わないでよぅー」
「手をいきなり掴んだりするのは危ないし、成果の横取りは駄目だよ」
「何それぇー。あたち何もしてないしぃー」
カザフの意識が背の高い女性に向いていた時だ。
「たあっ」
背後から突然そんな声が聞こえてきて、カザフは振り返る。すると、三人組の中で一番背が低い女性が、リズに体当たりしているのが視界に入った。
「ちょっ、危な……!」
「ていっ」
丸みを帯びたレンズの眼鏡をかけた小柄な女性に全力でぶつかられたリズは、バランスを崩し、後ろ向きに倒れる——そして、海に落ちた。
「リズさん!」
カザフは叫び、すぐに水面を覗き込む。
海に落とされたリズはじたばたしていた。
「落ち着いて! 暴れちゃ駄目だよ!」
「助けてっ……」
リズは何とか海面から頭を出すと、陸の方にいるカザフに助けを求める。
想定外のことに巻き込まれてしまった彼女は、第三者が見ても分かるほど慌てていた。とにかく必死。ナナの店に来ていた時の彼女とは別人のようである。
「待って! すぐ助けるから!」
そう言って、カザフは陸から手を伸ばす。
リズはそれまでやみくもに動かしていた腕を懸命に伸ばし、やがて、カザフの手を掴むことに成功した。
彼女の手が自分の手首を掴んだことに気づいたカザフは、一気に引き上げる。
カザフの頑張りのおかげでリズは無事救助された。
助け出されたリズは、両手両足を地面についたまま肩を激しく上下させる。長い髪は海水で完全に濡れてしまっていた。
「大丈夫? リズさん」
「へ、平気……」
リズはそう答えるが、平気そうには見えない。
いや、そもそも、髪も顔も服もすべてが水浸しなのだから、平気なわけがない。
海に潜って暮らしてきた民族の出の者などなら平気かもしれないが、リズはそうではない。それゆえ、海に落とされても気にしないという可能性はゼロに近い。しかも女性だ、気にするに決まっている。
「あっははは! だっすぅわーい!」
水浸しになったリズを見下ろしながら、背の高い女性は笑う。こんな楽しいことは年に一度くらいしかない、というくらいの、凄まじい笑い方である。
「へへへへへっ」
続けて、リズを海へ落とした小柄な女性も笑い始めた。
「ちょっと君たち、笑いすぎだよ」
カザフが二人を睨むと、二人は何事もなかったかのように返す。
「えぇー? あたちら無関係ですよぅー?」
「へへっへへへっえへえへっ」
その時、カザフは、視界の端で何かが動いたことに気づく。
「待って!」
カザフは咄嗟に叫んだ。
叫びに対して気まずそうな顔をしたのは、ボリュームのある赤毛の女性。
三人組のうちの一人だ。
「あ……」
「駄目だよ、他人の物を盗むのは」
カザフに真剣な顔で言われた赤毛の女性は、両眉をハの字にしながら、おろおろする。その手には、リズのナムナン真珠。
「あ、あうっ……え、えと……あ……」
リズのナムナン真珠を持ったまま狼狽える赤毛の女性を庇うように、背の高い女性が口を開く。
「ちょーっと! あたちの友達に言いがかりつけないでもらえるぅー?」
高身長の女性は、カザフを見上げながらそんなことを言い放った。
カザフは冷静に返す。
「言いがかりじゃないよ」
「いきなり盗人扱いなんてぇー。酷いわぁー。証拠があるーって言うのぉ?」
「現に、彼女が持ってるよね」
海水で全身が濡れたリズは、まだまともに口を開けない状態だ。
「えぇー? この娘優しいから、落とし物かと思って拾ってあげただけじゃなぁーい!」
「そうっそうっ」
小柄な方の女性まで参加してきた。
「拾ってあげたのなら、落とし主に返すべきじゃないのかな」
女性たちは数で押し切ろうとしてくる。でも、そんな策に乗って押し切られて良いわけがない。
そう思うからこそ、カザフは落ち着きを保ちつつやり取りを継続する。
圧に負けてはいけない。
数で押し切られてはいけない。
リズを護ろうと思うなら、ここで黙ったり折れたりしては駄目だ。
「仕方ないじゃなぁーい。落とし主が不明なんだもーの」
「そうっそうっそうそうそそうっ」
背の高い女性と背の低い女性は、三人組だけあって妙に仲良しである。
「落とし主はリズさんだよ」
カザフが真実を述べても、二人は赤毛の女性を庇い続ける。
落とし物を拾ってあげただけとか、道に落ちていたから採取しただけとか、彼女たちはそんなことばかり言う。
リズを護ろうと頑張っていたカザフがさすがに疲れてきた、その時。
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